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第九十一節 マタタビの町だね~……

 マタタビの町が見えて来た頃には、辺りはすでに薄暗くなっていた。

私は、この間の親子の宿に馬車を走らせた。


 宿の厩舎を覗くと、中に馬車が無いので先客は居なさそうだ。

とりあえず、そのまま小さな厩舎へと入って行った。

私達が馬車を降りると、あの少女が中から飛び出してきた。

「あ! お帰りなさいませ!」

とても嬉しそうな笑顔を振り撒いている。

「また世話になりたいんだけど、大丈夫かな?」

私の問いに、大きく頷いた。



 私達が荷物を移動して一息ついていると、良い臭いが漂ってきた。

その時、蓮が言った。

「ここのお料理って、とても美味しかったですよね。もう私、我慢できない~……」

お腹を押えて嘆いている。

遥子も続けて言った。

「そうだよね~。あたしも、お腹へって来ちゃった」

私は、それに笑みを浮かべて言った。

「きっと、もうすぐ呼びに来るさ。慌てる乞食は貰いが少ないぞ?」

遥子は、私に冷たい視線を向けた。

「何よ、それ! ずいぶんな言い方じゃない!」

それに慌てて、両手の平を向けて微かに前後させながら答えた。

「いや……例えだよ、例え……」

そんなやり取りを見て、皆も微笑んでいた。



 やがて少女が呼びに来たので皆で付いて行くと、テーブルの上には

美味しそうなものが湯気を立てて所狭しと並んでいた。


 やはり、この暖かい食事は本当にありがたい。すでに色々な所で食べて来ているが、

どこも何故かファミリーレストランのような微妙な味付けばかり。

この少女が作るような素朴で家庭的な味には滅多にお目にかかれないのだ。

私達は、それを夢中でたいらげた。



 食事を済ませ、一息ついているとオヤジさんが帰ってきた。

「おぉ、兄ちゃん! 無事に帰ってきたか。それは良かった……」

笑顔は浮かべているものの、何やら、その表情は沈んでいる。

とりあえず聞いてみた。

「どうしました?」

オヤジさんは、大きく溜め息をついてから俯きながら言った。

「実はよぉ……俺の工場が、無くなるかもしれねぇんだ……」

はい?

無くなるとは、どういう事だ?

多分あそこは、オヤジさんの土地だよな……

ちょっと納得がいかない。

「それは、どういう理由なんですか?」

私の問いに、チラッと視線を送ってから話し始めた。

「それが、詳しい事は良く判らなねぇんだけどよ……何か作るらしくて、あの土地を売ってくれって来やがってよ。そりゃ最初は追い返したさ。だがよ……だんだん、やり口が酷くなってきてな。終いにゃ、ウチの若い衆が闇討ちされちまったのさ……それで、ひでぇ怪我負っちまってよぉ……」

おいおい……どっかの地上げ屋かよ……

それにしても闇討ちとは……いささか、やり過ぎだろう……

オヤジさんには、ソリの一件で世話になっている。

これだけ腕に良い職人が廃業するなど、とても考えられない。

私は聞いてみた。

「それは、いったい誰なんです?」

オヤジさんは、眉を顰めながら言った。

「それがよぉ、『玲紋総打組レモンソーダグミ』って奴等なんだけどよぉ……」

いやいや……お菓子じゃないんだから……




 オヤジさんは、呟くように話し始める。

「さすがに、こうなるとよ……俺だけの問題じゃねぇからな……もう、諦めるしか……」

その表情は暗く、ガックリと肩を落としていた。



 その時、遥子が勢い良く立ち上がった。

「そんな奴等、ぶっ潰しちゃいましょうよ!」

確かに、一理ある……

いや……今回は、その意見に大賛成だ。

私も、その場で立ち上がった。

「よし! これから、殴り込みを掛けるぞ!」

「おいおい……マジでか?」

目を丸くしているオヤジさんに、私は答えた。

「えぇ……そんな卑劣な奴等に、正攻法で戦う必要はありません。それに私達は、この町とは関係のない人間……もし何かあっても、オヤジさんが惚けて居れば問題は起こりませんよ。まぁ……ここは、私達に任せておいて下さい」

私達が笑みを浮かべると、オヤジさんは目を大きくしたまま固まっていた。












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