第九十節 厄介だね~……
ネコマタの町を後にした私達は、マタタビの町に向かっていた。
ソリバージョンのままひたすらに馬車を走らせているが、皆ヤケに静かだ……
さすがに、別れの連続だったからな……
実際、私もかなりこたえているのは確かだ。
皆には悪いが、今はこちらから話を振るほどの気力を持ち合わせていない。
馬車は無言のまま走り続けていた。
突然に、馬が勝手に速度を落とした。
ん?
何だ?
前方を良く見ると、道の真ん中に5人立っている。
速度を落としきると、後ろから遥子の声がした。
「何か、あった?」
「あぁ、道の真ん中で誰か立ってるんだよ」
「えぇ?」
遥子の驚いた声が響くと、後ろから皆が顔を出してきた。
「あ……本当だ……でも、なんか嫌な雰囲気ね……」
そんな遥子の言葉に、溜め息をつきながら答えた。
「あぁ……こりゃ十中八九、厄介事だろうな……」
少し手前で馬車を止めると、奴等は馬の前に歩み寄って来た。
「おらぁ! 大人しく出てきやがれ!」
ずいぶんと威勢が良いな……
「なぁ? どうする?」
私が振り向くと、そこには皆の不敵な笑みが溢れていた。
あら……やる気、満々ですか……
私達が馬車を降りると、奴等は鋭い視線を向けて近寄ってきた。
「てめぇ等! 大人しく金を置いていけば許してやっても……ぐほぉ……」
威勢の良い一人が、遥子の前蹴りでその場に蹲った。
両側に居た奴の仲間二人は、その光景を見て目を丸くした。
「こ……この野郎!」
怒りに任せて剣を抜くが、その抜きかけたモーションのまま地に崩れ落ちる。
そのすぐ横では、伊代と安が剣を収める姿があった。
その時、残りの二人が動いた。
「何っ! 貴様等、調子に乗ってるんじゃ……ねぇ……」
その首筋には、すでにダッツとナーヴェの刃が張り付いている。
「あ……すみません……調子に乗っていたのは、自分でございます。はい……」
そこには、奴等の土下座があった。
奴等といっても、剣を抜こうとした二人は残念ながらお亡くなりになってしまったので
残り3人だ。
私は腕を組みながら、冷ややかに奴等を見つめる。
「まさか、只で済むとは思っていないよな?」
「はい! 申し訳ございません! 何なりと、お申し付け下さい!」
まったく……さっきの威勢は、どこへ行ったやら……
ふと遥子を見た。
「どうする?」
遥子が奴等を流すように見た。
「そうね~……大した物は、持ってそうに無いわよね~……」
それに怯えながら一人が言った。
「自分等に金があったら、こんな事はして……」
それを言い終わる前に遥子は叫んだ。
「うるさい!」
「ひっ……」
奴等はビクっ! として固まっている。
遥子が溜め息をつきながら言った。
「まぁ、死んでもらうのが一番なんじゃないのかしら?」
奴等は、はっ! としたように遥子を見上げる。
「そんな……殺生な……」
情けない表情を浮かべる奴等に、冷たい視線を送りながら遥子は続けた。
「何のネタも無いんじゃ、お話にならないわね……」
「ネタ……ネタならあります!」
ん?
ネタが、あるだと?
私が口を開くより早く、遥子が怒鳴りつけた。
「どういう事よ! ロクでもない話だったら、
死ぬまで弱火でジックリコトコト煮込んでやるわよ!」
いやいや……ある意味、怖いから……
奴等は、遥子に恐れおののきながらも言った。
「デヴォンニャー邸から西にある山に、かなり名の通った盗賊がおります。
そのボスが、凄い武器マニアらしいんですよ……
かなり値が張る品を、数多く持ってるって話です……」
それに他の二人も、しきりに頷いている。
激しく冷ややかな、遥子の視線が注がれた。
「それ、本当でしょうね~?」
奴は、目を丸くしながら答える。
「本当です! 本当なんですって!」
私は、それに大きく溜め息をついた。
「まぁ、あれだ……もし嘘だと判っても後の祭りだ。その時に悔しく思わない程度にしておくか?」
遥子に視線を向けると、それに素直に頷いた。
「あの……」
申し訳無さそうに伺いを立てる奴等を、遥子が睨みつけた。
「なによ!」
「まさか、これで?」
何か言いたそうな奴等に、遥子は腕を組んだまま答える。
「当たり前じゃない。命があるだけマシだと思うことね!」
「そんな~……」
そこには身包み剥がされて、下着姿で震えている3人が立ち尽くしていた。
私達は、そのまま寒空の中に奴等を放置して馬車を走らせた……