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第八十九節 別れの時か~……

 私達が研究室を出ると、笑顔に満ち溢れたサンタ達がいた。

彼等は嬉しそうに、ビールらしき飲み物で乾杯を交わしている。

セント・ネコデスを連れて帰ってこられて本当に良かった。


 しばらく彼等と雑談してから、私は切り出した。

「では、そろそろ行こうと思います」

残念そうな表情を浮かべるサンタ達の中で、セント・ネコデスは一度だけ頷いた。


 ソリに乗り込んで、私は視線を横に送る。

「それでは、後はお任せしました」

「うむ、気をつけてな」

セント・ネコデスは、とても優しい表情を浮かべていた。

「では、行こうか」

私がトナカイに合図すると、ソリは空高く上昇していく。

ふと下を見下ろせば、サンタ達が手を振っている。

皆は、それに答えるように手を振り返していた。

私達は、そのままネコマタの町へと向かった。



 町に到着すると、私達は最終防衛作戦本部の前で呆然としていた。

以前の無骨な看板は外され、真新しい花柄の看板には

『マモルちゃんハウス』と書いてある……

おいおい……誰だよ、これ考えたの……

それも、丸文字って……


 ひとまずソリを降りて、私は溜め息をつきながら扉を開けた。

「只今、戻りました……」

その瞬間に、柄の悪いオッサン達が一斉に鋭い視線を向けてくる。

やっぱ、全然似合わね~よ!

看板に偽りありだろ……


 私達に気が付くと、オッサン達はすぐに笑顔に変わった。

「おぉ! 無事、帰ってきたか~! 心配したぜ~!」

そのままオッサン達にモミクシャにされた。

どうやら全力で歓迎してくれているらしい……



 ふと聞いてみた。

「あの……ところで外の看板は、いったい?」

隊長は、キョトンとした表情で答えた。

「おぉ、あれか? これからはイメージが大事だからよ! なかなかイイだろ?」

いやいや……あんた達の顔が怖いよ……


 ひとしきり挨拶が終えると、私は言った。

「今日は、お借りしたソリをお返しに上がりました。

それと隊長、これまで馬車を預かって頂いて本当にありがとうございました」

私の言葉を聞いて、口元に笑みを浮かべる。

「な~に、言ってやがる……

兄ちゃんには、マジで世話になったんだ。気にするこっちゃねぇぜ!」

隊長は、いかした笑顔を見せながら親指を立てた。



 ソリとトナカイを繋ぐハーネスを外して居る時に、ふと私の手が止まった。

「これで……お別れか……」

そう……私には、このトナカイとの別れが一番辛い……

その時、トナカイが言った。

「どうした? 今生の別れでもあるまいし……私は、いつでもサンタの所に居るのだ。

会いに来れば良いだけの話だろ?」

言われて見れば、確かにそうなのだが……

「私には、その神とやらの意向は解らない。だが、これまで君に付き合ってみて確かに勇者だと言う事だけは良く解った。魔王討伐が成功する事を祈っている。そして……もし君が元の世界に……いや……君がどこに居たとしても、ずっと応援しているよ……とにかく頑張ってこい!」

私は、その言葉に強く頷いてトナカイの身体に顔をうずめた。



 ソリを隊長に返し終えて、私達はトナカイと向き合った。

「これまで、本当にありがとう」

私の言葉に、笑みを浮かべる。

「私も楽しかったよ。こんな事は、なかなか経験できないからな。まぁ、旅の無事を祈っているよ」

僅かの間を置いて、皆は一気に泣き崩れた。

それに笑みを浮かべる。

「まったく、人間とは良く泣く生き物だな……」

そう言ったトナカイの瞳にも、微かに涙が浮かんでいた。


 やがて、トナカイ達は静かに森へと歩いて行く。

それを、私達はいつまでも見届けていた。



 ふと、安が言った。

「見えなく……なっちゃいやしたね……」

「あぁ、そうだな……」

私は、大きく溜め息をついて続けた。

「さて……私達も、行くか……」

皆、顔をグチャグチャにしたまま頷いた。



 防衛隊の皆に挨拶を済ませると、私達は隊長と共に馬車を預けてある自宅へ向かった。

その道中で、和平交渉に関しての成果を聞いていた。

「さすがによ……和平には、町の皆がなかなか納得しなくてな……だが、言ってやったさ! 皆死んじまったら、お前等あの世で家族に何て言い訳するんだ! ってな」

確かに、その通りだ……

「そしたらよ……皆、泣き出しちまったよ……」

そのまま隊長は黙ってしまった。



 馬車の準備を済ませると、突然に隊長が聞いてきた。

「そう言やぁ、魔の大陸を目指すんだったよな?」

「えぇ……」

私が素直に答えると、隊長は大きく息をつく。

そして、首筋を掻きながら話を続けた。

「そうか……まぁよ……大した事は言えねぇけどよ……無理だけは、すんじゃねぇぞ……

もし死んじまったりしたら、絶対に許さなねぇからな!」

そんな隊長の気持ちが嬉しかった。

私は、それに笑みを浮かべた。

「はい……出来る限り、頑張ります」


 私達は、隊長を固い握手を交わした。

「じゃ、気ぃつけろよ!」

「はい。本当に色々と、ありがとうございました」

それに強く頷くのを確認して、私は馬車を出発させた。

横目に見えた隊長の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいたような気がした。












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