第八十六節 サンタ達の視線
それにしても、ワシ等は……
本当に、とんでもない事をしてしまった……
サンタが人間を殺すなど、あってはならない事だ。
あの時、勇太殿が居なかったらどうなってしまった事か……
考えただけでも恐ろしい……
だが……あの方が死んでしまった今、ワシ等に何が出来ると言うのか……
あれから皆で幾度も話し合ったが、どうしても最後には言葉を失ってしまう。
確かに、ワシ等が考えて決めなければならない事くらいは良く判っておる。
判ってはおるのだが……
はぁ~……
その時、仲間の声が響いた。
「あれは何だ? ワシ等のソリではないか?」
ん? ソリだと?
そこの目を向けると、皆が空を見上げている。
何? 空だと?
今、トナカイを走らせている仲間は誰も居ないはず……
だとすると……
「もしや、勇太殿か?」
ワシは一抹の不安を抱えながらも、声を大にして仲間に歩み寄って行った。
あの時……
確かに勇太殿は、真実の解明に全力を尽くすと約束してくれた。
だが、まだあれから数日しか経っていないだろう?
何か問題でも起きたのか?
厄介事で無ければ良いのだが……
「はっはっは~」
すでに仲間達は、挨拶を交わしながらソリを取り囲んでいる。
その時、驚くほどに大きな声が聞こえてきた。
「勇太殿!」
「これは……なんと……」
「奇跡か? 奇跡が起きたのか?!」
ん? 奇跡だと?
いったい何の事だ?
ワシは仲間を掻き分けながら近づいて行くと、ようやくソリが見えた。
「勇太殿。今日は、いったいどうなされ……え?」
そこに見えた光景に、目を疑った。
「そんな……馬鹿な……」
その時、勇太殿の声が聞こえた。
「大丈夫か?」
はっ……ワシは放心していたのか?
「勇太殿……これは、いったい……」
ワシの理解を超えた状態を問うてみると、勇太殿は優しい笑みを浮かべた。
「これが真実だったよ……」
そう言いながら、手の平をそこに差し向ける。
「皆、心配させたようだな……すまなかった……」
おもむろにソリを降りるその姿を、このワシが見間違う訳が無い。
確かに、我が父の姿がそこにあった。
何と言う事だ……
こんな夢のような事があって良いのか……
あぁ……我等の父が目の前に……
ん?
これは何だ?
胸が焼けるように熱い……
前が霞んで何も見えん……
これは……涙か?
そうか……これが、涙と言うものなのか……
ワシから溢れる涙は、もはや止まる事はなかった……




