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第八十四節 そう来るか~?

 ドンチャン騒ぎがひとしきり続くと、ポリニャー伯爵は酔い潰れてしまった。

セント・ネコデスも、ほろ酔い気分のようだ。

まぁ、私達はアルコールを飲んでいないので元気なのだが、

魔法三人組は、さすがに疲れたようでソファーでウトウトしていた。



 その時、轟音が響いて建物が揺れた。

「なんだ? 地震か?」

また、新たな轟音が響き渡る。

どうやら、地震じゃ無さそうだな……

窓から外を覗いてみると、騎士達が物凄い形相で走っている。

その窓を開けて、思い切り叫んだ。

「いったい何があった!」

一人の騎士が立ち止まると、私を見た。

「敵襲です! 現在、緊急配備に向かっております!」

そう告げると、また正面入り口の方へ走って行った。

敵襲だと?

振り返ると、皆も立ち上がっていた。

ポリニャー伯爵だけは起きる気配は無いようだが、この際放っておこう。

「行くぞ! 大丈夫か?」

それに、皆が一斉に頷いた。



 私達が正面入り口から出ると、

遠くに見える城壁のように丈夫そうな壁が轟音を立てて吹っ飛んだ。

僅かな間を置いて、激しい地響きが伝わってくる。

なんだよ……これじゃ爆撃だな……

だが、このままでは何の対策も練れない。

とにかく敵を確認しなければ……

私達は、激戦地へと走った。


 無意味に広大な庭を必死に走って、ようやく門まで来るとその様子が判った。

その先に広がっていた、自然豊かな木々が激しく燃え盛っている。

ん?

炎の中に、誰かが居る……

私達が様子を伺っていると、こちらへ向かって歩いてきた。

陽炎のように霞む中に、それは現れた。

何だ? 女性か?

その時、大きな声が響いた。

「ウチのもんをやったのは、どこのどいつだい? とっとと出て来な! 落とし前つけてもらおうじゃないか!」

おいおい……殴り込みかよ……

さて、どうする? あの攻撃を放ったのがコイツなら、このまま放置はできない。

また、あの爆撃のような魔法を放たれでもしたら騎士達に多大な被害が及んでしまう……

いっそ、名乗りを上げるべきか?

その時、後ろで大きな声が響いた。

「言い掛かりも良い所だわ! 落とし前をつけてもらうのは貴方よ!」

おもわず後ろを見ると、そこには刻少佐百合が仁王立ちしていた。

おいおい……お宅は、最前線に出て来ちゃダメだろ……

百合は奴をビッと指差して、さらに続けた。

「そのくすんだ肌をしっかり洗顔して、出直してらっしゃい!」

いや……ちょっと意味が違うような……

「うるさい! とっとと死にな!」

奴は、百合の言葉に怒り狂いながら詠唱を始めた。

「百合様! 危ない!」

私は急いで駆け寄った。

だが、それに不敵な笑みを浮かべると、手の平を差し出して私を制止した。

そして百合も、静かに詠唱を始める。

何だ? いったい、どうするつもりだ?

やがて、奴から巨大な光りが放たれた。

「やっべ!」

もう、この際体裁など気にしていられない。

突き飛ばしてでもその場から退けようと走り出した時、

百合が正面に差し出した手から何かが発動した。

まるでシャボン玉のように光りが乱反射している。

そして、それは物凄い勢いで辺りに広がって行った。

奴から放たれた巨大な閃光が、その膜にぶつかったと同時に物凄い光りが辺りを包む。

何だ? 何がどうなった?

慌てて百合を見ると、そこに何事も無かったかのように立っている。

え? どういう事?

百合は、奴に向かって不敵な笑みを浮かべた。

「その程度で、この私を倒せるとでも思って? 馬鹿にするんじゃないわよ!」

思い切り怒鳴りつけると、百合は新しい詠唱に始める。

奴は相当の焦りを顔に浮かべつつも、また詠唱に始めた。

両者の魔法は、ほぼ同時に放たれた。

その眩しさにおもわず目をそむける。

やがて静かに光が消えていった。

いったい、どうなった?

百合は、やはり何事も無かったかのようにそこに立っている。

では、奴は?

そこに視線を向けると……

……

何も無かった……

本当に、何も無かった。

今まで激しく炎が上がっていた木々さえも……

おもむろに百合に視線を戻すと、私に向かって笑みを浮かべた。

コ……コェ~……



 その時、セント・ネコデスが呟いた。

「そうか……彼女も、また失われた遺産の継承者なのだな?」

え? アレがそうなの?

あの怪獣大戦争みたいなのが?

それって、ちょっとヤバすぎるだろう……

……

ん?

と言うか、何で継承者?

それって、ポリニャー伯爵じゃないの?

私が首を傾げていると、百合が言った。

「さすがは、セント・ネコデス殿……全て、お見通しのようですね」

それに深く頷いている。

何? いったい何?

私は皆に視線を向けるが、やはり遥子達も困惑しているようだ。

その時、後ろから声がした。

「いや~、バレちゃいましたか~?」

振り返ると、ポリニャー伯爵が頭を掻きながら歩いてきた。

「いいでしょう! 私から説明致しましょう! でも……まぁ、とりあえず部屋に戻りましょう~?」

伯爵はクルリと振り返えると、そのまま歩いて行ってしまった。



 私達が部屋に戻ると、ポリニャー伯爵が大きく溜め息をつく。

「実はですね~……百合は、私の姉なんですよ~」

はい?

ちょっと何を言っているのか良く判らないが……

首を傾げている私達に伯爵は微笑んだ。

「本当は、私がデヴォンニャーなんです」

はい~? そう来るか~?

「では、あの公爵は?」

「あ! 彼が、本物のポリニャー伯爵です~」

マジっすか……

うわ~、こりゃ完全にやられたな……

伯爵は口元に人差し指を当てながら、私達に訴えた。

「でも、これは絶対に秘密ですからね~。私はポリニャーですよ~」

今更、言われてもな~……



 つまり話を纏めると、こうだ。

公爵に即位する遥か以前に魔物の進行が深刻な事態である事に気付いていたデヴォンニャーは、早くもポリニャー伯爵を影武者に立てるように立場を入れ替わっていた。

やがて東の城が陥落し、オークス伯爵が百合の側近として近づくと自らの秘密を知る数少ない部下と共にその行動を綿密に監視した。

魔物の策略を全て把握し、これからどうするか策を模索していた時に沙耶から連絡が来たそうだ。

その内容を聞かせてもらった。

「未知の力を秘めた者達が現れたから預けるわ。存分に試してみてね?」だそうだ。

さすがに……そこから、すでに踊らされていたとはな……

完全に、一杯食わされた気分だ……


 ちなみに百合には、魔物に関する情報は一切伝えなかったそうだ。

それも、奴等に気付かれない為の予防線だったらしい。

オークス伯爵の告白で百合が事実を知ったのはどうやら本当の事のようで、

「あとで、バッチリ怒られちゃいましたよ~」と笑っていた。












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