第八十三節 戻りますか……
「それでは伯爵、失礼します」
それに頷くのを確認すると、トナカイに言った。
「さぁ、行こうか」
それに一つ頷いて、トナカイは走り始める。
三人に見送られながら、私達のソリは空へと浮かび上がった。
ふと後ろを振り返ってみると、安は遠ざかる城に向かって必死に手を振っている。
そして、城が見えなくなっても安は手を振り続けていた。
さて、これで一つの問題が解決だ。
あとはセント・ネコデスをサンタの元に届ければ全て解決か……
まぁ遥子達が、あの大量の本を覚え切れればの話なんだが……
その時、呟くような声が聞こえてきた。
ん?
どうやら安のようだ。後ろを向いたまま何か呟いている。耳を済ませてみると、
「ぐす……良かったでやす……本当に、良かったでやす……
元気で、やるでやすよ……うぅ……」
泣いているのか……
そうか……
ビーの前では、ずっと笑顔で振舞っていたからな。
まったく、泣き虫のくせに無理しやがって……
だが、なかなか粋じゃないか。
これも、確かに美の形だ。
それを見ながら笑みを浮かべていると、
安を心配に思ったのかダッツとナーヴェが声を掛けようとしている。
私は手を伸ばしてそれを静止すると、すぐに視線をこちらに戻した。
「しばらく、あのままにしておいてやろう……」
小声で言うと、二人は静かに頷いた。
私達が戻ると、ポリニャー伯爵の部屋が妙に騒がしい……
いったい、何事だ?
おもむろに扉を開けると、そこはすでにドンチャン騒ぎになっていた。
「何が、どうなっている?」
それに気付いた、ポリニャー伯爵が私に手を上げながら言った。
「あ! お帰りなさいまし~。もう、今日はメデタイ! さぁ、貴方達もどうぞこちらへ!」
そのままグラスを持たされて乾杯させられた。
「この騒ぎは、何です?」
「それが凄いんですよ! なんと! 皆さん、あの魔法書を遂に全部覚えちゃったんです!」
ほう……そりゃ凄いな……
「だが、覚えたてでこんなに騒いでたら忘れないか?」
それにセント・ネコデスが答えた。
「うむ、それならば心配ない。君達が帰るまでの間に数々のテストを行ったんだが、
完璧に覚えておる」
それって……どんな魔法使ったんだよ……
しかし……まぁ何にせよ覚えられたのなら、それはそれで良いか……
ならば、ここは褒め言葉の一つも必要だろう。
「さすがセント・ネコデスさんが、只ならぬ魔法センスと言うだけの事はあるな。
本当にお疲れさん! そして、おめでとう!」
私が高くグラスを掲げると、3人は満面の笑みを浮かべてグラスを当てた。