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第七十七節 困ったものだ……

 ポリニャー伯爵が、何やら張り切っている。

「ちょっと私、準備してきます! 着替えとか取ってきます。あ、すぐに戻ってきますよ~。では宜しく~」

元気良く部屋を出て行ったので、ひとまず皆に聞いてみた。

「ポリニャー伯爵と温泉に行くけど、皆行くか?」

それに誰も答えることは無い。

女性陣は、さも聞いていなかったかのように何処か違う所に視線を向けている。

どうやら一緒に行く気は全く無いようだ……

まぁ、別に構わないが……

「安は、どうする?」

「えぇ、あっしは一緒に行くでやす」

これは、どうやら男だけの温泉ツアーになりそうだ……



 やがて、伯爵が戻ってきたので聞いてみた。

「あの……トナカイも一緒に入れる温泉ってあります?」

「あ、それならココがいいですよ」

おもむろに丸秘温泉ガイドを広げた。

「ほら、ここに書いてあるんですよ」

それを見せてもらった。

『生き物だったら何でもOK! 野生の動物に大人気の温泉です!

貴方も動物達と、癒しのひと時を過ごしませんか?』

過ごしませんか、言われてもなぁ……

それって、危なくないのか?

だが、これならトナカイが一緒に入っても問題無いだろう。

ん?

おもわず、温泉名に目が行った。

出須温泉デスおんせん

デスって……ここも入りたくない名前だ……

何故に、こうも不吉な名前が多いのだろうか?

しかし、さすがにトナカイと一緒に入れるような所は少ないだろう。

名前が気に入らないからと言って、断る訳にはいかないよな……

「では、ここにしましょう」



 今回の騒動が落ち着いた事で、トナカイ達の存在も公認になっている。

さすがにワイン蔵は可哀想だったが、今はその辺りの馬以上に良い待遇になっているので

かなり機嫌は良いようだ……

私がトナカイの所に行くと、身体を拭いてもらっているみたいだ。

とりあえず世話係の人に話しかけてみる。

「ありがとうございます、私が代わります」

彼は深々とお辞儀をすると、逃げるように去っていった。

いや……何も、そこまで避けなくても……

とりあえず、彼が持っていたブラシのようなものでトナカイを撫でる。

「これからポリニャー伯爵と温泉に行くんだけどさ。トナカイ達も入れる所にしてもらったんだけど、いいかな?」

「うむ、温泉か……最近行っていないな。たまには、いいかも知れないな」

たまに行くんだ……

「じゃ、さっそく出発の準備をしようか」

私の言葉に、トナカイは素直に頷いた。




 ソリが空に浮き上がると、ポリニャー伯爵が驚いた。

「ちょっと! 何しちゃっちゃってるんですか! えぇ~? それはさすがに無理で……いや、待って! 本気で待って! 無理~!」

パニック状態に陥っている伯爵に言葉をかけた。

「大丈夫です、トナカイを信じてください。ダメなら、もう死んでますって……」

それに伯爵は、続けるように言った。

「そりゃそうですけど……いやいやいやいやいや……

何を言っちゃっちゃってるんですか~? 脅かさないで下さいよ~?」


 しばらくはどうにもならなかった伯爵だが、ようやく落ち着いてきた。

いや……それどころか……

「イ~~ヤッハ~~!! どんっだけ凄いんですかトナカイさん! これは反則でしょう~? 気持ち良過ぎますよ~?」

あまり、ノリノリなのも困ったものだ……



 突然に、伯爵が静かになった。

息を切らせて、椅子にもたれ掛かっている。

何やら、顔色も良くない……

「大丈夫ですか?」

私が問いかけると、その体勢のまま私を見た。

「あぁ、大丈夫です。ちょっと貧血が起きました。すぐに収まりますよ……」

どうやら後先考えないで、はしゃぎ続けていたようだ……

まったく、子供じゃないんだから……


 落ち着きを取り戻した伯爵が、おもむろに指を差した。

「お? あそこじゃありませんか~?」

その方向を見てみると、確かに山の中腹辺りから湯気が上がっている。

「では、あそこに降りましょう」












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