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第七十五節 やってくれるな……

 しかし、あれから刻少佐百合は本当に良くやってくれた。

オークス伯爵と魔物との密談に百合も同席するのを陰から見ていたのだが、

あれほど芝居が上手いとは知らなかった。

「魔物を目の前にしてお話するなんて、緊張してしまいますわ!」などと言っていたのは、

単なる前振りだったのだろうか?

「オークス伯爵より、信頼できる方々と伺っております。

あなた方には、私の警備を担当して頂きます。

明日の朝一番で謁見の間までお越し下さい。その時、皆さんにご紹介致します」

そう淡々と話す百合の言葉からは、緊張など全く感じられなかったのだが……

そして、すっかり騙されて意気揚々と帰っていく魔物の後ろ姿が

何故か悲しく見えたのは気のせいだろう……


 そしてダッツとナーヴェが奴等のアジトを見つけた事を知ると、

現在動ける全ての騎士を作戦に投入してくれた。

今回は百合のお陰で、奴等を一網打尽にする事が出来たと言っても過言ではない。

あの手の女性は、一度腹が据わると本当に恐ろしい。

うろたえるデヴォンニャー公爵を横目に、鶴の一声で多大な軍勢を動かしてしまった。

やはり噂通り、怒らせてはいけない人物のようだ……



 ちなみに幻術で上手い事逃げ延びたネンコウジョ・レツとその一派だが、

みすみす逃した訳ではない。

そちらは、すでに対策が済んでいる。

奴が向こうへ戻るであろう事は予測が付いていたので、

作戦前にネンコウジョ・レツのアジトに仕掛けをしておいた。

それも、セント・ネコデスの手による極上魔法陣だ。

さすがに一緒に来てもらうのは心苦しく、やり方だけを教えてもらおうとしたのだが

本人が行く気満々な様子だったので同行して貰った。


 奴等に気付かれるリスクを減らす為に

内側から鍵を掛ける事で発動する巧妙な仕掛けをリクエストしたのだが、

それをあっと言う間に作り上げてしまった。

さすが、魔導の達人である。


 しかし、奴もなかなか洒落ている。

扉に枯葉の目印を挟んでおくとは、なかなかの警戒心だ。

だがそんな小細工など、あの二人のプロの前では完全にお見通しだった。



 今、あの急襲作戦から一日ほど時間を置いて

トナカイのソリで奴等のアジトに向かっている。

予定では、すでに事は済んでいるはずだ。



 私達がアジトに到着すると、建物自体に異変は無い。

鍵はしっかりと閉まっている……

だが、例の枯葉は無くなっていた。

だとすると……

ナーヴェが私の前に来ると、ポケットから何か長い物を取り出す。

それを、おもむろに鍵穴に入れた瞬間に金属音が響いた。

「開きました……」

本当に、いつも仕事が早いよな……



 私が扉を開けた瞬間、その異変に気付いた。

おもわず剣を引き抜いて戦闘態勢に入る……

……


 そして、奴等に僅かな笑みを浮かべた。

「こいつ等……やってくれるな……」

それに気付いたダッツとナーヴェが、私の横をすり抜けて入ってきた。

「どうしました! こ……これは……」

そこには、黒焦げの死体が6つ。

だがそれは、生きていると錯覚するほどの躍動感で

全員がこちらに向かって中指を立てていた。


 とりあえず近寄って確認してみる。

もはや元が誰だか判らないほど見事に焼けてしまっているが、

服の切れ端や帽子の残骸から判断する限りネンコウジョ・レツの物に間違いないだろう。

その状況を見るほどに、魔法陣の威力が想像以上の凄さである事を実感する……

さすが、セント・ネコデスが

「これで、殺せない魔物など存在しないさ」と豪語していただけの事はある。

しかし魔法陣を仕掛けている時の、あの不敵な笑みは今も忘れられない。

あの爺さんも、かなり怖い性格をしている事は確かだ……



 それにしても……最後の最後に、そう来たか……

焼き尽くされても尚、私達を威嚇してくるとは……

まったく……こいつ等、イイ根性してやがる……

もし出会う場所が違ったなら、こいつ等とは良い友人になれたかもしれないな……

その場で彼等に黙祷を捧げていると、ダッツとナーヴェが横に並んで静かに目を閉じる。

やがて後から入ってきた皆も、私達に習うように追悼の意を表した。

何時しか私達は、この勇敢な者達の冥福を心から祈っていた……














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