第七十四節 奴等からの視線 ネンコウジョ・レツの場合 その2
ちくしょうめ!
全然、話が違うじゃねーか! いったい、どうなっていやがる!
俺の幻術が無けりゃ、こっちまでぶっ殺されてたぜ!
まったく、とんだトバッチリだ!
だいたいよ! 俺が行った時に、奴は何て言ったと思う?
偉そうにしやがって……
……
「あ? ネンコウジョ・レツ? ほぅ、おめぇがそうか! だがネンコウジョって言やぁ、東の城が担当じゃなかったか?」
「えぇ、そうなんですが……あっちも、ちょいと事情がありやして……こちらの協力を優先しようかと……」
「なんだ? ヘマでもやらかしたか? まったく、使えねぇなぁ? おい! おめぇらも、こちらにおわすネンコウジョ・レツ様を笑ってやれよ! はっはっはぁ?」
ちくしょう……馬鹿にしやがって……
だが、これも我慢だ……まずは情報を聞きださないとな……
「それで、おアニぃさん方は如何なんです?」
「ん? こっちか? そりゃバッチリよ! 明日には、全員がデヴォンニャー邸に潜入できるって寸法さ!」
ほう……そりゃ、大したもんだ……
「まぁ、おめぇとはココが違うってもんよ!」
自分の腕を叩いてやがる……コイツ本当に頭に来るな……
「それで、今はその前祝いって所ですか?」
「あぁ、そうさ! まぁ、おめぇも飲めや! 景気良く行こうぜ!」
だから痛いって! 叩くなよ、この野郎!
「まぁ、飲め飲め! 今夜は騒ぐぞ~!」
……
そんな時さ……突然に、ドアを叩く音が聞こえたのは……
「誰か、おらぬか! 我々は、オニャン公国警備隊だ! こちらに、盗賊が逃げ込んだと言う知らせがあった! 誰か居たら返事をしろ!」
「あ? なんだ? おい! 誰か、適当に出ておけや!」
ドアを開けたら、奴等、いきなり雪崩れ込んで来たさ。
それに驚いた部下が、奴等の前に立ちはだかった。
「何だ! てめぇら勝手に……ぐはっ……」
え?
いきなり刺しただと?
それには、さすがのアイツも驚いた。
「これは、いったい何事だ! ちくしょう! やっちまえ!」
その時、辺りの窓が一気に割れて騎士達がワラワラ雪崩れ込んで来やがった。
「な! なんだと!」
それからは、もう一方的さ……
さすがに俺達魔物でも、あの数じゃどうにもならないさ……
とにかく俺は連れてきた5人の部下をすぐに集めて、早々に幻術で逃げ出したって訳よ。
結局、あそこまで足を伸ばした意味が無くなっちまった。
使えねぇのは、奴の方じゃねぇか!
ざまぁみやがれってんだ! あの馬鹿力野郎め!
とにかく、もうすぐ俺達のアジトだ。
まったく……始めっから策の練り直しだぜ……ちくしょうめ……
俺は出発の時、扉に挟んだ枯葉を確認する。
「うむ……誰も、来て居ないようだな……」
念の為に、周囲を警戒して中に入った。
「あぁ! 疲れたぜ!」
俺は、思い切りソファーに身体を預ける。
そして5人が入るのを確認してから言った。
「おい! 誰が来るわからねぇ! ちゃんと鍵は閉めておけよ!」
「へい!」
シッカリと鍵が閉まる音を確認すると、またソファーにうなだれた。
「え? なんだこれ!」
「何だ! どうなっちまってるんだよ!」
ん? 何を驚いている?
「あぁ? いったい何が起き……って、おい……そりゃ何事だ!」
俺は、その状態を見ておもわず立ち上がった。
何故か、扉の鍵から物凄い光が溢れている。
何だよ……どうなっていやがる?
次の瞬間、床にも光が浮かび上がった。
「まさか……これは……」
その光は、部屋の中に綺麗な円を描いて広がった。
そして右左……前後と文字が浮かんでくる。
「ちくしょう! やられたぁ!」
俺は近くの椅子を、窓に向かって思いきり蹴り上げた。
だが、それは光の壁に遮られてその場に転がった。
ちっ……ダメか……
これは、浄化の魔法陣……
それも、とんでもねぇ完成度だ。これじゃ解呪しようにも付け入る隙がねぇ……
しかし、いったい誰がこんな手の込んだ物を……
「あっ……兄貴~」
「どこかに逃げ場はないっすか!」
「せめて兄貴だけでも!」
騒ぎ始める部下達に怒鳴った。
「お前等、うろたえるな!」
景気良く言ったはイイが、どう足掻いたってこりゃ無理だ……
もはや逃げ場など存在しない。
大きく溜め息をついてから俺は続けた。
「こうなっちまっちゃ、どうにもならねぇよ……
どうやら俺達は、とんでもねぇ奴等を相手にしちまったようだ……」
そのまま、おもむろにソファーにもたれかかった。
こんだけスゲェ奴にやられるんだ……俺に悔いはねぇ……だが、こいつ等は……
「こんな俺に、命預けてくれたってのによぅ……
お前等……守ってやれなくて、すまねぇな……」
「兄貴、何言ってるんですか! 死ぬ時は一緒だって約束してくれたじゃないですか!
俺っちなんかを拾ってくれた恩は、一生忘れませんぜ」
皆は、涙を浮かべながら笑顔を見せてくれた。
「馬鹿野郎! もう一生の終わりじゃねぇか! ちくしょう……こうなりゃ最後くらいは決めてやるぜ……」
俺の言葉に、皆が頷いた。
やがて、その白い光は一気に俺達を包みこんで行く。
まぁ唯一の心残りは、あれだ……貴様の面を拝めなかったのが……残念……だ……




