第七十三節 地固めね~……
私達が部屋に向かっていると、ポリニャー伯爵は騎士と部屋の前で話している。
何を話しているんだろう?
おもわず声を掛けてみた。
「どうしました?」
「おっ、これは丁度良い所に。あっ、彼は信頼できる騎士です。無事に救出は済んだようですね」
そう言うと、また騎士に向かい直した。
「では、お願いします……」
騎士は敬礼を払うと、私達が来た方向に走っていった。
ポリニャー伯爵が、私達に横目で笑みを見せる。
「どうせアレでしょ~? 残骸でグッチャグチャなんでしょう~? でも大丈夫! 彼なら上手く片付けておいてくれます」
なるほど……
確かにあの状態では、大騒ぎになりかねないな……
「もうすぐオークス伯爵も戻ってきます。これから忙しくなりますよ~?
では、とりあえず中へ……」
私達が隠し部屋に入っていくと、遥子と翔子と蓮は必死に魔法書を読んでいる。
「どうだ? 大丈夫か?」
こちらにゆっくりと顔を向けると、すでに3人はゲッソリとしていた。
その時、セント・ネコデスが声を上げた。
「これは、何と! 失われた遺産か……こんな近くにあったとは……」
どうやら、その筋では有名な書らしい……
ポリニャー伯爵がセント・ネコデスに言った。
「貴方なら、もうお解かりですよね? 申し訳ありませんが、もう少しお帰りは待って頂く事になります。そして貴方にも手伝って頂きたい」
それにセント・ネコデスは頷いた。
その時、オークス伯爵が戻ってきた。
「お待たせしました……それで早速本題ですが、明日の夜です」
ポリニャー伯爵が頷く。
「なるほど……では、まずは地固めしちゃいましょう。皆さん、行きますよ~?」
行くと言っても全員では無い。
魔法3人組は、フローラとビーの警護も兼ねて
部屋に残って魔法のお勉強を続行してもらう事になった。
いや……逆にフローラとビーの方が勉強の見張り役か?
私達が歩いていくと、衛兵達は何事かと目を点にしている。
そりゃここが幾ら広いとは言っても、
7人の団体がゾロゾロと邸内を練り歩いていればさすがに驚くよな……
やがて辿り着いた大きな扉の前には10人ほどの兵士達が立ち塞がっているが、
二人の伯爵が睨みを効かせると綺麗に道が開いた。
全員で扉の奥に入っていくと、大きな声が響いた。
「これは、いったい何の騒ぎですか! ここが何処だか判っているの?」
怒鳴りつけてくる百合に、ポリニャー伯爵は会釈する。
「えぇ、百合様のお部屋と承知の上で参りました」
「この無礼者!」
怒り狂う百合に、オークス伯爵が言った。
「今日は、百合様に真実をお伝えに参りました。これまで私は一人娘を人質に取られ、魔物に脅され良い様に使われておりました。つまり、これまで私が百合様にアドバイスさせて頂いた内容は全て魔物の策略……」
「な……なんですって?」
驚く百合に、オークス伯爵は続けた。
「魔物どもはこの国に根付く権力争いを引き金にして、デヴォンニャー家を崩壊させる事が目的。その混乱に乗じて我々を支配する策略なのであります。我がソコスベリー家の惨状を見て頂ければ、それがどれ程の事かお解かりになって頂けると思います。どうか、我々にお力をお与え下さい」
頭を下げるオークス伯爵に、百合は目を丸くした。
「ならば、これまで私は魔物に利用されていたと言う事ですか!」
それに、オークス伯爵は素直に頷いた。
「何と言う事でしょう……私は、いったいどうすれば……」
頭を抱える百合に、オークス伯爵は静かに言った。
「まだ、十分に間に合います。そして我々には今野勇太殿とその御一行がついております。
今こそ我々人間が立ち上がる時。百合様……どうか、我々にご協力下さい」
その言葉に、百合は落ち着きを取り戻して行く。
そして、私達を真っ直ぐに見た。
「わかりました……それで、私は何をすれば良いのですか?」