第七十一節 ポリニャー伯爵って……その2
困惑している私達に構うことなく、ポリニャー伯爵は話を続けた。
「オークス伯爵ですが、まずは私が当たりを付けておきましょう。
しかし、厄介なんですよね~。何と言っても、百合様がね~……」
それは、確かに大問題だ……
「まぁ、娘さんが無事となれば、彼の説得は比較的に楽でしょう。こっちが済み次第、
貴方達にはセント・ネコデスの救出に向かって頂きます。宜しいですね?」
私達の反応を見ることもなく、何やら長い筒を持ってきた。
「それで、これを見てください」
テーブルの上に広げられたのは、城の地図のようだ。
「私の調べでは、セント・ネコデスが捉えられているのはここです」
指を差した所は地下のようだ。
「この手前には、人間に化けた魔物が30人ほど控えています。かなり強行ですが、
まぁ貴方達なら大丈夫でしょう」
おいおい……
「あ! そこの黒いローブのお二人には、ここに残ってもらいますよ? おやおや~?
そこの娘さんも魔法使いかな~? はい! 3人居残り決定!
これ、ぜ~んぶ覚えないと帰しませんからね~」
遥子と翔子と蓮は、目を点にして驚いている。
「それって……すごく無理だと思うんですけど……」
言い終わるのを待たずに伯爵は突っ込んだ。
「何を言っちゃっちゃってるんですか~? これがなきゃ魔王になんて勝てませんよ~」
そう言いながら、不敵な笑みを浮かべている。
何となく、この人の性格が判ってきた気がした……
「では、さっそく行ってきますが……私が戻ってくるまで、貴方達はここに居てください。
もし他の者が来たら私はヤバイ事になっちゃってるって感じですので、その時は宜しく~」
伯爵は、手を上げながら部屋を出て行った。
何だか、笑顔で怖い事言ってたな……
だが、それは間違ってはいない。不測の事態は十分に考えておくべきだろう。
しかし、そうなると今回は魔法無しか……
まぁ、下手にアレをぶっ放されたら城がもたないだろうしな……
人数的には30対5、単純に考えると一人頭6人倒せばクリア。
実力的には問題無さそうに思えるが、そう簡単には割り切れないのが現実。
個々で強さが違う事は十分に考えられる。
そして、この通路も狭そうだ。ならば前衛が割を食うのは間違いない。
やはり私が正面切って粘るしかなさそうだな……
私が考えを巡らせていると、静かに扉が開いた。
ん? 誰だ?
おもわず剣に手を添える。
「お待たせしました~」
って、はやっ……
まだ何分も経って無いだろう……
何か問題でも起きたか?
だが、その心配を裏切るように伯爵の後ろからもう一人男性が入ってきた。
「お父さん!」
声を上げると同時に、フローラは男性に駆け寄った。
男性は涙ながらに頷いて、フローラを抱きしめた。
「まぁ……今更ですが、彼がオークス伯爵です」
ポリニャー伯爵の言葉で、私達は挨拶を交わす。
「まぁ、硬っくるしいのは無しにしましょう。それでオークス伯爵?
言った通りでしょう?」
「はい、驚きました……まさか、娘に会えるとは……本当に感謝いたします。
ありがとうございます。ですが、いったいどうやって?」
何だよ……説明して無いのかよ……
まぁ、あの短時間じゃ無理か……
その時、ポリニャー伯爵が言った。
「ひとまず、座ってください。その辺りは、ゆっくりと話しましょう~」
ポリニャー伯爵が一通りの説明を終えると、オークス伯爵が立ち上がった。
「すると、こちらの方々が勇者御一行と申されるか?」
目を丸くしているオークス伯爵に、ポリニャー伯爵は
「えぇ……そうでしょう、そうでしょう。ぜんっぜん信じられないでしょう~?」
一人で何度も頷いてから続けた。
「でも救出は不可能と言われていた娘さんが、ここに居るんですよ~?
まだ疑いますか~?」
「そ……それは……」
口ごもるオークス伯爵を、畳み掛けるように言った。
「もう、判っていらっしゃいますよね~?
これで魔物に協力する理由は無くなりましたからね~? ですがオークス伯爵には、
これまでと同じように行動して頂きますよ~? イイですね?」
「まさか……奴等を一網打尽に?」
眉を顰めるオークス伯爵に、笑みを浮かべる。
「さすが理解が早いですね~。あぁ、不安なのは判りますよ~? でも、でもですよ?」
ポリニャー伯爵の視線が、突然別人のように鋭くなった。
「魔物に良い様にされるなんてね。私も、もう限界なんですよ……
今の私達なら大丈夫です。一気に、奴等を潰しちゃいましょう……」
ほう……やはりポリニャー伯爵……かなりの切れ者だったか……
あのバカな振りにスッカリ騙されたな……
ポリニャー伯爵を見ながら、ついニンマリしてしまった。