第七節 塔の攻略ね~……
入り口を慎重に見て回るが、トラップのような物は見当たらない。
だが、油断は出来ない。
私は隅々まで見て回った。
これ以上は、判らないな……入ってみるか……
その扉は、異常に大きい。高さは、3メートル近くあるのではないだろうか?
これと言った装飾も無く、縦長に四角い。
真ん中に縦線が入っているので、観音開きである事が伺える。
鉄製なのか? 黒光りした表面はヒンヤリとした手触りだ。
開くのか? これ……
試しに扉を押してみると、全く反応しない。
では、引いてみようと思うのだが全体にツルっとしていて持つところが無い。
う~ん、いきなり難解だぞ……
私が腕を組んで悩んでいると、扉が手前に少し動いた。
「え? 何で?」
意味不明だ……
だが、これで扉を引けば開けられる事は確かである。
しかし……
私は親指ほどの太さがある木の棒を拾ってきて、扉の隙間へと静かに入れてみた。
その時、突然に巨大な扉が轟音を立てて閉まった。
「やはり、そう来たか……」
挟んだ木が、見事に粉砕している……
危うく、指を持っていかれる所だった……
「ちょっと! 大丈夫?」
その声に振り返ると、遥子が目を丸くして見ている。
「あぁ、大丈夫だ。何か嫌な予感がしたんだ……手を入れて無くて良かったよ」
私が答えると、安心した表情になった。
さて、問題だ……
どうやって開けるべきか……
私が悩んでいると、また馬鹿にしたように扉が少し開く。
こいつは……完全に舐められているな……
私は塔の周囲を腕組みしながら歩き回っている。
別に、暇な訳ではない。
何か使える物は無いだろうか?
私は、周囲を探して回っていた。
ん?
これは、何故置いてあるのだ?
無造作に、ブロックが積んである。
無垢の長方体と言った感じの塊りだ。
1つ拾い上げてみると、なかなか重い。
試しにブロック同士をぶつけてみると、甲高い音と共に転がった。
また拾い上げて確認してみるが、割れては居ないようだ。
石のように硬く、相当に丈夫である。
ほぅ……なるほどね~……
私は、とりあえずブロックを3個ほど扉の前まで運んできた。
さてと……
完全に人を舐めきった感じで開いている扉の隙間に、ブロックを押し込むようにズラシ入れてみる。
すると勢い良く閉まって来た扉が、ゴン! と音を立てて止まった。
先ほどと違うのは、ブロック1つ分の隙間を残している事。
私は、そのまま待った。
しばらくすると、扉が動いた。
やはりな……
最初よりもブロック1つ分多く隙間が開いている。
「良し! こいつは攻略できた!」
私は、さらに3つのブロックを持ってきた。
扉の隙間に1つづつ入れて行くと、やがて扉は人が入れる広さまで開いた。
静かに、扉の中を覗き込む。
「なんだ、これ?」
目に入ってきた内部は、ロウソクが灯っていて妙に明るい。
「誰かいるのか?」
その問いかけに反応は無い。
見渡しても、人影は一切見当たらない……
今度は、そう来たか……
激しく怪しい雰囲気だが、ひとまず入るしか道は無かろう……
「お~い、塔の中に入るぞ~」
私が声をかけると、遥子がとぼとぼ歩いてきた。
塔の扉を入ると、全体を見渡してみる。
石造りと言った雰囲気の壁に
ロウソクが三本立てられる蜀台が12台。
丸い外周に、同じ間隔で取り付けられている。
下には赤いカーペットが一面に張り巡らせてある。
天井はススけたように黒っぽいので少し見難いが、
落ちてきそうな物は……別段無さそうだな……
続いて床を確認して周る。
落とし穴も……無しと……
う~ん……次は、何で仕掛けてくる気だろうか?
中を歩き回ってみるが、仕掛けらしき反応は無い。
ここが、良いかな……
とりあえず、ここなら外の風にも吹かれないので良いだろう。
遥子をそこに呼ぶと、荷物を置いて座らせた。
「靴も脱いで、出来るだけ楽にしておかないと後で辛いぞ」
遥子はそれに頷いて、言うとおりにした。
ひとまず、このまま遥子が回復するまで休憩だ。
場合によっては、夜明かしも覚悟しなくては……
深夜の気温によっては、ブロックを挟んだ入り口の隙間がかなり痛い。
だが、あれを閉めてしまうという事は、自ら脱出ルートを塞いでしまうような物。
最低限、それだけは避けたかった。
どのくらい経っただろうか?
いつしか遥子は、私の膝の上で寝息を立てている。
本当に疲れていたようだ……
まぁ、慣れない山登りをして来たのだ。致し方が無い。
到着したのが夕方なので、感覚では4時間ほど経過しただろうか?
いずれにしても、ここでは夜中は寒くて寝ていられないだろう。
そして幸い、ここの灯りは切れる事が無さそうだ。
攻略は、何時からでも開始できる。
今のうちに、なるべく寝かせて置いてあげよう。
突然の身震いで、目が覚めた……
警戒するように、辺りを見渡してみる。
これは、参った……
どうやら私も、ウトウトしてしまったようだ。
先ほどと比べ、気温が相当に下がってきている。
かなり、夜も更けて来たのだろうか?
「ん? あたし寝ちゃった?」
遥子も、目が覚めたようだ。
「あぁ、5時間くらいは眠れたのかな?」
「え? そんなに? ごめん……」
「いや、気にしなくていいって。私も、少し寝ていたよ。
それに、上には何時からでもいけるしね」
遥子は、笑顔を浮かべて頷いた。
さて、これからは地味な戦略になりそうだ。
階段を眺めながら呟いた。
「この先も、気をつけた方が良いかもしれない……」
それに、遥子も頷く。
「さて……ぼちぼち、出発してみるか……」
私達は身支度を整えると、最初の階段をゆっくり上がって行った。