第六十七節 さすがに懲りただろう……
騎士の鎧に身を包んだ私が、ネンコウジョ・レツを城の入り口まで誘導すると
軽い挨拶を済ませて帰って行く姿をしばらく見届けた。
奴が相当に遠ざかると、ダッツとナーヴェが私の側に近寄ってきた。
「それじゃ、ある程度の所までで良いからな。いいか、絶対に無理はするなよ」
それに、ダッツとナーヴェは頷いた。
「じゃ、後は頼む」
私は二人に、ネンコウジョ・レツを尾行するように頼んだ。
万が一に見失ったとしても、大体の方向が判れば十分だ。
何処に行ったか予測が付けば、次の対策が立てやすい。
そして、もし上手くアジトが見つかりでもしたら万々歳だ。
だが、少なくとも無理だけはしないで欲しい。
まぁ、二人は追跡のプロだ。その心配には及ばないかもしれないが……
今回で、さすがにあの爺さんも懲りただろう……
あれだけやってダメなら、もう救いようが無い。
まだ続くようなら、もう騎士達が黙っていないだろう。
下手をすればクーデターが起きるぞ……
そうならない事を祈るばかりだ。
それにしても、当主を懲らしめると言う計画に
騎士達がノリノリだったのは意外だった。
「国を守る為でしたら、我等は何でも致します!」と意気込む彼等の笑顔が
妙に不気味だったのは気のせいだろう……
だが、本当に助かった。
彼等の協力のお陰で完璧に近い演出が出来た。
一方でソコスベリー候は、私達が昨日の夜中に仕掛けた三文芝居を
すっかり神のお告げだと信じ込んでいるようだ。
国を愛する彼等に感謝するばかりである。
しかしネンコウジョ・レツは、かなりの策士かと思っていたが意外に単純だったな……
当主の顔色だけで、あんなにアッサリ騙せるとは思っていなかった。
それでもビーの変装用に買った化粧道具が、こんな所でも役に立ったのはナイスだ。
まだまだ病気と思わせる仕込みをしていたのだが、無駄になってしまった。
かなりヤバイ病気に見える仕掛けも用意していたんだが……
まぁ、それは良いか……
奴も意外な展開に気を取られて、私達の存在にも気付かなかったようだ。
あの調子じゃ、尾行にも気付いていない可能性が高い。
こちらとしては、嬉しい誤算である。
ひとまずは、ダッツとナーヴェが帰るのを待とう。
状況が判り次第、次の作戦に向けて対策を考えよう。
だが少なくとも今は、馬車のルートを通るべきでは無い。
すでに、奴等の手が回っていたとしても可笑しくはないのだ。
そうなると、またトナカイ達に活躍してもらわなければならないか……
今のうちに、彼等のご機嫌を伺っておくか……
私が厩舎に顔を出すと、トナカイ達は食事をしていた。
そうは言っても代用品だ。
彼等はコケが好きらしいんだが、残念ながら襲撃のゴタゴタで
この辺りには売っていなかった。
仕方が無いので、食べられそうな物をトナカイ達に見繕ってもらった。
まぁ……いずれにしても牧草の類なんだが……
「いつも口に合わない食事で、すまないね~」
声を掛けながら近寄っていくと、トナカイは笑みを浮かべた。
「いや、そこまで不味くは無いぞ。それに、ここは暖かい。森で暮らす私達にしてみれば天国のようなもんさ」
「そう言ってくれると、ありがたいけど……」
本来は私達の泊まる部屋に来てもらいたかったのだが、
「そればっかりは勘弁してください……」と泣きながら訴える宿屋の主人に免じて
仕方なく厩舎に居てもらっている状態だ。
私が申し訳なく思っていると、トナカイが聞いてきた。
「それより、どうした? 例の困った爺さんとやらは……」
「あぁ、そっちは何とかなったよ。ついでに当面の敵の姿も拝めた。それで、次も移動をお願いする事になりそうでね」
「うむ、別に構わんさ。君に付き合っていると、何かと楽しいしな」
私達はお互いに笑みを浮かべた。




