第六十五節 奴等の視線 ネンコウジョ・レツの場合
予定通りに城に来てみたのだが、何故か待たされている。
今は約束の午後、時間も間違えては居ない。
前回は素直に通されたのだが、どうなっているのだ?
まさか、何かの罠か?
いや……それにしては、妙な気配は感じられない……
その時、声がした。
「ネンコウジョ・レツ様。大変、お待たせしております」
一人の騎士が目の前まで来ると、頭を下げながら話を続けた。
「せっかくお越し頂いて申し訳ございませんが、ソコスベリー候が急病でして……」
何? 急病だと? 仮病の間違いじゃないのか?
だが、面白い……
「それでしたらば、お見舞いの言葉だけでも掛けさせては頂けませんか?」
さぁ? どう出る?
これで、もし仮病ならコイツはうろたえるに違いない……
「そうですか……では、お会いできるか確認して参りますので少々お待ち下さい」
何? 顔色を変えないだと? 何故だ……
俺の読みが正しければ、会えるはずなど無いのだが……
しばらくすると、さっきの騎士が急いでこちらに駆けつけてきた。
「お待たせしました! 少しのお時間でしたら大丈夫のようです。ささ、こちらへ」
何? 会えるだと?
まさか、本当に病気なのか?
ソコスベリーの寝室に案内されると、奥で声がした。
「おぉ……ネンコウジョ・レツ殿……こんな姿で、申し訳ない……」
おいおい……本当に寝込んでるぞ……
なんだよ……顔色が真っ青じゃねぇか……
「せっかくお越し頂いたのじゃが、急に体調が崩れてしまって……申し訳……」
「いやいや! ご無理をなさってはいけません。本日はこれで失礼致します故、また日を改めて……」
くそ……おもわず、気を使っちまったじゃねぇか……
いったい、どうなっていやがる……
別れの挨拶もそこそこに、俺は城の入り口まで騎士に誘導されてきた。
「本当に申し訳ございません、回復次第ご連絡致します故、今日の所は……」
「いや……こちらこそ無理を言ってしまいました、申し訳ございません。それでは失礼致します……」
俺は、そのまま城を後にした。
あぁ、ちくしょう……
柄にもなく、良い人を演じちまったじゃねぇか!
自分で吐き気がするぜ! あぁ! 胸くそ悪りぃ……
まったく、とんだ計算違いだ。
結局、どうやって城を奪還したのかも聞けず仕舞いだ……
その辺りの連中に聞いても、突然に城下町に戻されたと言うばかりで話になりゃしねぇ!
だがどう考えても、奴等にあれだけの戦力を一掃する力は残っていなかったはず……
いったい、どんな手を使いやがったんだ?
そもそもアレだ。さっきの状況なら罠を仕掛けるには、ある意味絶好だろう?
どうして、何も仕掛けてこない?
さすがに、攻撃を仕掛けたのが俺だって判ってる筈だろ?
何故すんなり帰す?
まさか、バレてない?
いや……そんな馬鹿な事ねぇだろ!
まったく、奴等は何を考えてやがるんだ……
しかし、確かに奴は寝込んでいた。
もし、あれが嘘ではないとするなら……
う~ん……
あぁ! 良く判らねぇ!
これほどまでに、状況が見えないのは初めてだ!
まぁいずれにしても、あの分ではしばらくは面会など出来そうに無いな。
上手くすれば、もう少し美味しく使わせてもらおうと考えていたのだが……
いやいや……これ以上、奴等に関わるのは危険だ。
いずれにしても、他の手を考えなくてはなるまい……




