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第五十九節 奴等の視線 祠の世話係の場合

 僕は、牢の見張り番。

今は、人質になった娘さんのお世話係をしているんだ。

この人は僕にとってかけがえの無い……いや……僕の天使だ。

これほど優しい方を、僕は今まで見たこと無かった。

こんな方が人質になってしまうなんて、いったい世の中はどうなっているんだろう?

だけど、僕の考えなんて誰も判ってくれない。

僕はいつも爪弾き、誰からも相手にされない悲しい魔物なんだ……


 そんな僕でも、この方のお世話くらいは出来る。

今、僕の出来る限りの事をしてあげたいと思っているんだ。


 誰かが僕を呼びながら、こちらに来た。なんだろう?

「おい、サンタが来たぞ! お前も行って来いよ」

え? サンタ?

もう何年ぶりだろう?

この祠に来た年に、一度だけサンタにプレゼントを貰った事があるんだ。

皆の話だと、それまでは毎年来ていたらしいんだけど

あの時以来サンタは来なくなってしまった。

それで皆からは、僕が来たせいだって責められた事もあった。

そんなのはさすがに言い掛かりだって事は僕でも判るけど、

サンタが突然来なくなったのは確かに変だ。

理由は判らないけど、何かあったに違いないと思う。

それに、人間の女の子までさらって来ているんだ。

僕が知らない所で、何か大変な事が起きているのかもしれない。


 皆の方に行くと、サンタの笑い声が聞こえてくる。

「はっはっは~」

僕は、この瞬間が大好きだ。

この時だけは、皆も童心に帰ったように笑顔になって

誰も僕に言い掛かりを付けて来ない。

こんな穏やかな一時が、ずっと続いて欲しいと心から思った。



 サンタに貰ったプレゼントを持って持ち場に戻ると、一瞬状況が良く判らなかった。

牢が開いていて、あの方が何故か居ない……

え? どうして?

慌てて牢に駆け寄ると、さっき呼びに来た仲間がそこに倒れていた。

「大丈夫?」

そんな呼びかけも虚しく、すでに事切れていた……

一体……何が?

急いで他の仲間に伝えると、僕は怒られた。

「何やってやがるんだ! この大馬鹿者が!」

その怒鳴り声と共に、僕は部屋の隅まで吹っ飛んだ。

「本当に使えねぇな! てめぇみたいのをクズって言うんだ!」

確かに逃がしてしまった事は、僕にも責任があると思う……

だけど、あんまりだよ……


 僕が蹴られた痛みに唸っていると、アイツは言った。

「そう言えば、あのサンタの袋……ここを出る時にずいぶんとデカくなかったか?

あれ絶対に、何か入ってたよな?」

それに皆が、おもむろに頷く。

「犯人は、あのサンタか! ちくしょう、やられた! すぐに追うぞ!」

急いでサンタを追いかける皆に僕も付いていった。


 蹴られた痛みで、皆に付いて行く事が出来ない。

ふと上を見ると、その上空にユラユラと帰っていくサンタを発見した。

「あっ! あそこに居るよ!」

僕が空を指差すと、アイツが叫んだ。

「奴を追え~!」

その声で、皆の足はさらに速くなる。

痛みをこらえて付いて行こうとするとアイツに怒鳴られた。

「貴様は足手まといだ! 片付けでもしてやがれ!」

僕は皆を見守るように、その場に立ち尽くしていた。


 サンタを追って長い一本道を皆が走って行くと、凄く大きな音が響いた。

「え? 何の音?」

驚いて上を見ると、切り立った崖の上が思い切り吹き飛んで崩れた岩が落下してくる。

「あ……危ない!」

僕の叫び声も虚しく、走っていた皆に向かって雪崩のように襲い掛かった。

皆は大声を出しているようだが、襲い来る土砂の轟音に掻き消されていった。

「あぁ……大変だ!」

僕は、皆の元に向かって走った。

だけど、そこは大きな岩に阻まれて先に進めない。

それでも僕は必死に上に登った。

出来る限り石を退けるけど、誰も居ない。

僕の目に涙が溢れてくる。

「なんで? なんで誰も居ないの? 誰か答えてよ!」

そんな叫びは、虚しく山に木霊していた。


 僕は、崩れるように座り込んだ。

ふと前を見ると、岩の隙間から何かが出ている。

そこに急いで駆け寄ると、そこにアイツの手があった。

すぐに掴んでみたけど、反応が無い……

脈も診てみるけど、何も振動が伝わってこない……

「どうして……こんな事に……」

訳が判らないくらいに涙が溢れてくる。

僕の頭の中は真っ白になった……












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