表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/359

第五十七節 この当主は……

 その日の夕刻……



 人々の移動も無事に終了し、町や城では修復作業で大忙しだ。

まぁ今の所は応急処置しか出来ないが、

寒空の中に居るよりは遥かにマシである。


 私達は、城へ招かれた。

当主が、どうしても話したい事があるというのだ。

まぁ、聞いてみて損は無いだろう。


 当主が大きな椅子に腰を掛けると、おもむろに話し始めた。

「先程の質問だが……我が恥を晒すことになってしまうのだが、聞いて頂けるか?」

私が頷くのを確認すると、深く溜め息をついて話し始めた。

「我がソコスベリー家とデヴォンニャー家は、以前より政治的に対立しておってな。

何とかして貶めるべく策を講じてきたのじゃが、奴もなかなかしぶとくての……」

おいおい……

「そんな時じゃ、アヤツがワシの元に来たのは……」

アヤツ?

しばらくの間を空けて、また話し始めた。

「魔物の一味だと言う事は確かに気付いておった……

だが提示された約束はあまりに具体的だったので、すっかり信用してしまった。

結局、ワシは魔物に協力してしまったのじゃよ……」

こらこら……

「それで、ソイツの名は?」

私の問いに頷くと、話を続けた。

「ネンコウジョ・レツと言っておった。黒い帽子を被った紳士的な奴じゃが

時折恐ろしい目付きをする、どこか得体の知れない奴じゃった。おぉ……そうじゃ……」

当主は、何やら探し始めた。

「おぉ、これじゃ……これが、その時の契約書じゃ」

見せてもらうとお互いのサインがあり確かに契約らしくは書いてあるのだが、

読み進めていくと思わず首を傾げる。

利害の一致や合意などと書いてはあるものの、

肝心な約束事の詳細には触れていない……

これでは、何の為の契約書なのか良く判らない。

どう考えても詐欺だろう……

それを見て唸る私に、当主は話を続けた。

「だが、そんな約束など真っ赤な嘘であった。

魔物の大群は、ワシ等を滅ぼす為に攻め込んで来たのじゃから……

今となっては、後悔してもしきれない……あぁ……何と言う事を……」

まったく、この爺さんは……後悔する前に、良く考えろよ……

「それで、ここには約束の詳細は書いていませんが……いったい何を協力したんです?」

それに、え? と言う顔をしてきた。

「そんな馬鹿な! ちょっと宜しいか……」

当主に紙を渡すと、食い入るように見ている。

「何と……確かに、書いてあったはずなのじゃが……」

ん? 内容が変わっているだと?

ほう……そうすると、幻術の類を使ったか……

「どうやら、完全に騙されてしまったようですね……」

紙が手から滑り落ちたのも気が付かないほどに放心している……

「あの……大丈夫ですか?」

その言葉に、はっ! っとしたように私を見る。

半ば生気が抜けたような表情を浮かべつつも、当主は話を続けた。

「その約束じゃが……ワシの望みを叶える見返りに、人間に化ける魔法の完成を要求してきた。

その為に魔導に長けた者達を集め研究を重ねた結果、魔物を人間界へ潜入させる事に成功したのじゃ……」

ん?

それって……

おもわず、質問をぶつけてみた。

「それは魔導に長けた者達では無く、セント・ネコデスの事ではありませんか?」

「な……何故、それを……」

当主は妙にうろたえている。

コイツ、判りやす過ぎるだろ……

「ここに来る前に、サンタの一件に関わりました。

彼は魔導の研究にかけては、人並み外れて優れていると聞いています。

そんな貴重な人材を、簡単に殺してしまうとは思えません。

それに、まだ確定もしていない罪に対して騎士団の早すぎる動き。

さらに、有無も言わせぬ強引な連行に関しても疑問が残ります。

ならば、もしあの処刑が身代わりだったとしたら?

もし彼が、魔物が人間に変化する魔法の研究に携わっていたとしたら?

セント・ネコデスは生きていると考えるのが妥当でしょう?」

「そこまで、判っておいでか……」

当主は、ガックリと肩を落とした。

結局は、コイツが元凶かよ……


 やがて、また当主が話し始めた。

「そこで、お願いじゃ……」

ん?

「オークス伯爵を、助けて頂けまいか?」

オークス? ダービーじゃなくて? なんか、一週ずれてないか?

「オークス伯爵は、すでに刻少佐百合の側近として潜入している。

彼は一人娘を人質に取られ、今も魔物に協力を続けている。

そなた達を見込んでの頼みじゃ、どうか彼を助けてやって欲しい……」

当主は、深く頭を下げている。

あまり引き受けたくない頼みだが……

しかし、こうなると無碍に断れそうにもないな……

まぁ、少なくともセント・ネコデスの救出には繋がりそうだ……

ふと遥子に視線を向けると、静かに頷いた。

「では、娘さんが囚われている場所は判りますか?」












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ