第五十六節 なんとか終わった……
私達は、残党を確認しながら城を見回っている。
どこにも魔物が見当たらない所を見ると、あの場所に全員が集まっていたようだ。
とりあえず、これで人を呼ぶ事が出来るだろう。
これで何とか、城を奪還できた。
だが、マッシグラが居なかったら絶対に勝てなかった……
もはや、猫様々である。
そして、この剣にも驚いた。
まさか、魔力を宿していたとはビックリだ。
伊代の話によれば、実際にコレを見たと言う人は居ないらしい。
「本当に、滅多に無い代物なんですよ!」と力を込めて言われてしまった。
いきなりコレをくれた、ゴハンマ・ダカイに感謝しよう。
城の安全を確認すると、ひとまずトナカイの所へと戻った。
まずは、避難している人々を呼び戻さなければいけない。
私達は、ポリニャー伯爵から聞いていた避難場所へと向かった。
避難所らしき集落が見えてきたので、その入り口に下りてみる。
しかし……これはまた……
木で組まれた巨大な柵が、盗賊のアジトのような雰囲気を醸し出している。
きっと攻め込まれないように対策をしたつもりなのだろうが、
何か激しく強度計算を間違えているような気がする……
とても立派な柵は横に生えている頼りない細い木に縛り付けてあって、
押せば柵ごと倒れてしまいそうな雰囲気だ。
本当に、これで大丈夫なのだろうか?
その柵の中では、私達に気付いた見張りが大騒ぎしている。
やがて、数人の騎士が入り口に駆けつけた。
「何者だ! 答えないと、ただでは済まさん!」
私達に向けて、思い切り弓を構えている。
まぁ、このくらい警戒していて当然だろう。
「我々は、東の城を奪還した! それを知らせに来た!」
私が大声を出すと、皆が慌て始めた。
パニック寸前の騎士達の後ろから大きな声が響く。
「貴様等、うろたえるんじゃねぇ!」
かなり落ち着きのありそうな騎士が歩み寄って言った。
「城を奪還しただと? そんなバカな事があるか!」
まぁ、信じられないのも不思議ではない。
さて、どうやって信用させたら良いか……
その時、後ろから遥子の詠唱が聞こえた。
え? マジで?
「あんた達! 死にたくなかったらどきなさい!」
相手の反応を待つ事なく、白い閃光が放たれた。
おいおい……
巨大な木の柵は木っ端微塵に吹っ飛んで、騎士達は腰を抜かして唖然としている。
「これでも信じられない? 次は殺すわよ!」
遥子が、次の魔法に向けて詠唱に入ると
「待ってくれ! 判った! 判ったからやめてくれ! 殺さないでくれ~……」
先程の落ち着きが嘘のようだ。
すでに騎士達は半泣きになっていた。
騎士達が、少し落ち着きを取り戻したので改めて聞いてみる。
「当主に、会いたいのだが?」
「はっ! 直ちに、ご案内致します!」
まったく……先程と、ずいぶん態度が違うな……
私達は、民家を改造したような広間に通された。
「こちらでお待ち下さい、状況を確認次第、ソコスベリー侯が参ります」
底滑り? それってソールズベリーじゃなかったっけ?
ってか、どんだけ待たせる気だよ……
一時間ほど待たされて、ようやく当主が現れた。
「お待たせして申し訳ない、そなた達が魔物を退治したと聞いて
早馬を出して確認を済ませた。
まさか、本当に退治してしまうとは……いや……この度は、ご尽力に感謝する。
何か協力できる事があれば、何なりと聞いてくだされ」
さっそく私は、当主に問いかけた。
「では、一つ聞きます。何故、魔物に襲われたんです?」
「え? そ……それは……」
いきなり言葉に詰まってどうするよ……
しかし、これは何かありそうだな……
「すぐに答えられないのであれば、あえて今は聞きません。
ですが、これは魔物の動きを判断するにおいて重要な情報である事には変わりません。
考えて置いて頂けると助かります」
当主は、それに頷いた。
「まず皆さんには城下町へ戻って頂こうと考えていますが、
念の為に我々も護衛に付こうと思っています」
「おぉ、それは心強い! では、さっそく準備に取り掛かるように伝えよう……では、急がなければ……」
当主は、そそくさと逃げるように行ってしまった……
なんか怪しすぎるぞ……あの当主……