第五十三節 女神ネコミミ、現る
赤いカーペットが続く通路に入ると、妙に暖かい。
防寒装備の私達には、かえって暑いくらいだ。
正面の大きな扉まで来ると、それは重い音を響かせて勝手に開いた。
奥に誰かが居るようだ……
レースのカーテンのような薄い布に阻まれて、
姿は確認できないが誰か居るのは間違いない。
その方向から声が聞こえた。
「何奴じゃ?」
声からして、女性のようだ。
私は大きな声で言った。
「今野勇太と申します。女神ネコミミ様に、お願いがあってここまで来ました」
反応が無い……
これは、困った。
何を待っているのだ?
ん? そうか!
バックから、おもむろに鏡を取り出した。
「我々とこの鏡だけでは、魔物を倒す事など出来ないでしょう。どうか力をお貸し下さい」
レースの向こうで、また声がした。
「そなた達は、何が目的じゃ?」
え? 何って言われてもなぁ……
「強いて言うなら、魔王討伐と世界平和ですが……」
「そなた達には、欲は無いのか? 人間とは、そういう生き物であろう?」
まぁ、確かになぁ……言っている事は間違って無いよなぁ……
「さぁ、言うてみぃ。今欲しい物は何じゃ?」
私は、遥子と目を見合わせた。
「元の世界に、帰る方法が知りたいです」
「ん? 元の世界じゃと?」
その時、静かにレースのカーテンが開くと、中の人物が見えた。
こりゃ、また……
強烈な……
ネコミミのカチューシャに、ゴスロリなファッション。
羽がヒラヒラの時代錯誤な扇子と、ガイコツの杖を持っている。
激しく濃いアイラインが、何とも言えない雰囲気を醸しだしていた。
これが女神って……終わってないか?
「ん? 何か言うたか?」
それに、驚いて首を振る。
なんだよ……コイツも読心術か? 勘弁してくれよ……
私は、一息ついてから言った。
「元の世界とは、私達が住んでいた世界です。
理由は判りませんが、突然この世界に来てしまいました。
そしてコジュウ塔のビリーと言う守護神からは、
魔王を倒せば答えが見つかるはずだと聞いております」
「ん? まさか、ヨメイ・ビリーか!」
おいおい……知り合いかよ……
それに頷くと、怪しい微笑を浮かべて言った。
「ビリーか……懐かしいのぅ。奴に気に入られたか、そうか……」
ネコミミが杖を振ると、いきなり鏡が光り出した。
その中から、勢い良く何かが飛び出した。
その光が消えると、何者かが女神の前で控えている。
真っ白い鎧を身に付けた、精悍な騎士と言った雰囲気だ。
後姿だが、銀の長髪が妙に目立っている。
だが、何故にネコミミカチューシャなのかは謎だ……
あれが、聖猫マッシグラか?
その時、女神が言った。
「マッシグラよ。そちは、どう見る?」
やはり、そうなのか……
軽く頭を下げて、しばらくの間を置くとマッシグラは答えた。
「私は、ここまでの動向をしかと見届けました。
勇太殿は、強大な力を手にしたとて欲には無縁。この者達は信頼に値する人物です」
それに、女神ネコミミが驚いたように目を見開く。
「ほう……お前が、人間を気に入るとは珍しいのぅ」
マッシグラは、黙って控えている。
女神ネコミミは、大きな溜め息をつくと言った。
「では、そなた達に聖猫召還を授けよう。近う寄れ」
私達はマッシグラに並ぶように、そこに控えた。
女神ネコミミが立ち上がり
おもむろに杖を掲げると、そこから光が溢れ出す。
「エロエムエスサイムったらエロエムエスサイム……ニャンパラリったらニャンパラリ!
今から魔物を! これから魔物を! 退治に行こうか~♪
ヤ~ヤァヤ~♪ ヤ~ヤァヤ~ヤ~♪」
おいおい……
やがて私達は、ピンク色にも似た暖かい光に包まれた。
それが弾けるように消し飛ぶと女神ネコミミは、
「ふうっ」と息を付きながら椅子に倒れこむように座った。
「これで、そなた達の誰からでもマッシグラを召還できるぞよ。
だが、遣い所を間違えるでないぞ? 良いな」
それに頷くと、マッシグラが近寄ってきた。
やはり、美形だ……
さらに、長身と来たもんだ。
男の私が言うのも何だが、ネコミミカチューシャ以外は文句のつけようが無い色男だ。
ふと女性陣を見ると、目がハートマークになったように熱い視線を注いでいる。
まぁ、これじゃ私達に勝ち目など無いな……
マッシグラが、私の目の前まで歩み寄ると言った。
「これから、宜しく頼む」
「あぁ、こちらこそ」
私達は、固い握手を交わした。
マッシグラが微笑むと、幻のように消え去った。
おもわず回りを確認すると、女神ネコミミは言った。
「鏡に戻ったのじゃ、問題は無いぞよ」
なるほど……
それに、女性陣は激しく残念そうな表情を浮かべていた。
「そう言えば、お主。魔王とか言っておったな?」
ん? 何か知っているのか?
素直に頷くと、女神ネコミミは言った。
「それが、何者か判っておるのか?」
私は、それに続けるように言った。
「いえ……今の所、魔の大陸の情報は皆無です。何か知っていたら教えてください」
「それがのぅ……ワラワにも判らぬのじゃ……」
ダメじゃん……
「だが、強大な力を感じる事は確かでの……そうじゃ、キム・ラタクを訪ねて見ると良いぞ」
誰だ、それ?
私が首を傾げていると、女神ネコミミは杖を差し出して続けた。
「ヨウジョ国から遥か西、海を渡った先の島には一人の守護神がおる。
かなりのハグレ者ではあるのじゃが……
少なくとも、奴はその手の話に詳しいはずじゃ。
気難しい奴じゃが、何かの力になってくれるやもしれぬぞ?」
ほう……確かに、それは会ってみたい。
「情報を、ありがとうございます。船が手に入り次第、向かってみます」
それに一つ頷くと、女神ネコミミは微笑んだ。
「おぉ、そうじゃ! これを持って行くが良い……」
何やら、椅子の横にある荷物を漁っている。
「おぉ、あったぞよ。ほれ!」
え? マジで?
その時、遥子の声が響いた。
「あっ! 可愛い!」
それに気を良くした女神ネコミミが微笑む。
「そうじゃろう、そうじゃろう! これはのぅ、
その者に魔物を見分ける能力を与える代物じゃ。きっと役に立つぞよ」
どうやらここは、おとなしく受け取るのが最善のようだ……
「あ……ありがとうございます……」
私は、人数分のネコミミカチューシャを受け取った。
皆に一つずつ渡すと、
女性陣はキャッキャ言いながらカチューシャを頭に付けている。
それを冷ややかに見つめる、私と安であった……
「では、気をつけるのじゃぞ」
「お気遣い、ありがとうございます」
深く一礼する私達に、女神ネコミミは優しい微笑を浮かべていた。
トナカイの元に戻り、軽く報告を済ませると
私達はニャンコ神殿を後にした。




