第五十二節 石像、現る
それぞれ戦闘準備に入る中、私は皆に言った。
「安の連撃を中心に、私と伊代で真正面から奴の気を引く。
ダッツとナーヴェと蓮で、周りから牽制と援護を頼む。
遥子と翔子に、トドメは任せた!
踏ん張りが利かないから気をつけろよ! 行くぞ!」
皆が頷くのを確認すると、私は石像に向かってダッシュした。
安はそれを追い越し、私よりも一手速く小太刀の連撃が始まる。
それに驚いた奴の隙を、私と伊代が両側から狙う。
私に視線を向けて襲い掛かろうとする石像に
ダッツ達が素早く襲い掛かり、また距離を取る。
ここまでは見事な連携だ。
とても全員で一緒に戦ったのが、初めてだとは思えない。
さて……このまま、どこまで奴の体力を削れるか……
「伊代! 安! 下がれ!」
疲れが見えてきた二人を下げると、私が真正面で奴の剣を受ける。
うお! これは、たまらん……
その巨体から繰り出される大剣の一撃は、あまりに重い。
踏ん張りの利かない床にも邪魔されて、
弾いて軌道を変えるのがようやくだ。
とても鍔迫り合いなど、挑む気にはならない。
だが、このポジションは安の素早さだからこそ無傷で居られた。
ここは、私が粘るしかなかろう……
縦横無尽に襲い掛かる皆の攻撃を奴が気にかければ、
私の一撃で挑発する。
その完璧とも思えるコンビネーションが、ひたすらに繰り広げられた。
しかし……
これだけの斬撃を食らっても、まだ効いて無いのか?
この足場のお陰で剣の威力は半減しているが、
さすがに頑丈すぎるだろう……
奴の動きが遅いのが、唯一の救いだ。
もしコイツが素早かったりしたら、たまった物では無かった。
石像よ……驚くほど丈夫なのは良く判った。
頼むから死んでくれ……
隙だ……
「安! 伊代! 今だ!」
私達は、三方向から鬼のような連撃放つ。
奴はそれに応える様に唸り声を上げて、大振りの一撃を叩き降ろしてくる。
コイツは、どこまで丈夫なのだ……
それを避けて私はさらに打ち込んで行くが、そろそろ体力も限界だ……
まだか……
まだなのか……
手応えだ……
私の剣に、確かな手応えが合った。
さらに斬り掛かろうとした時
奴が激しい唸り声を上げると共に、その巨体が大きく揺れた。
「やっべ! 倒れるぞ! 皆、離れろ!」
それを合図に、2本の白い閃光が石像に襲い掛かった。
これで、どうだ……
奴は、仰向けに倒れている。
さすがに、これで終わったはずだ……
ん? この音は何だ?
石像の様子を伺っていると、その表面に激しい亀裂が走った。
「何か、ヤバイぞ……」
私の声で、皆も警戒して戦闘体勢を取る。
だが、これでもう一戦となると……皆、耐えられるだろうか……
その時、奴の上半身がムクっと起き上がった。
「いや~、君達強いね~。スッカリやられちゃったよ~」
「――はい?」
奴は亀裂の入った破片を、バリバリと剥ぎながら言った。
「僕はね、この神殿の守護をしてるんだけどね。
君達みたいに、強い人間は久しぶりだよ~。あ~、楽しかった!」
おいおい……楽しむなよ……
「それでアレでしょ? ネコミミ様に会いに来たんでしょ?」
確かにそうだが、なんだ? この緊張感の無さは……
まぁ否定することも無いので、とりあえず頷いてみた。
「それじゃ、ちょっと待っててね~」
奴は破片を剥ぎ終わると、後ろの壁に向かって両手を広げた。
「ネコ大好き、わたスキー! 開けゴマ!」
いやいや……
しばらくすると、正面の壁が光を放ち始めた。
その光は毛細管現象のように神殿全体に伝わり、辺りが真っ白になっていく。
あまりに眩しさに思わず腕を翳すと、やがて光は静かに消えていった。
「さぁ、入っていいよ~」
その声で正面を見ると、大きな壁は消えて場違いな通路が現れていた。
「入っちゃってイイの?」
私が問うと、奴は言った。
「うん、もう条件は満たしたからね~。僕を倒せばOKなのさ、グッジョブ!」
奴は、ビッと親指を立てた。