第五十一節 北の神殿ね~……
「あれが北の神殿だ」
トナカイの言葉で視線を送ると、
何やら建物らしき物がある。
それを、見て思わず頭を抱えた。
やはり、そう来たか……
そこにある建造物は、どう見ても猫型。
建物の上に、猫の耳のような突起が飛び出している。
全体に青み帯びているので材質は違うだろうが、
簡単に言えばスフィンクスの猫バージョンだ。
ある程度の予想はしていたが
デンとそこにあると、もはや呆れるしかない……
建物の前に下りて、改めて神殿を見渡してみる。
確かに立派な建物ではあるが、とても誰かが居るような雰囲気は無い。
それは、忘れ去られた廃墟のようだった。
「我々は、ここで待機している。気をつけろよ」
私は、トナカイの言葉に頷いた。
まずは入り口を念入りに確認する。
これといった仕掛けは、無さそうだな……
「さて、入ってみるか……」
入り口に立つと、中は異常に広い。
遥か前方に、緩やかな階段が見える。
この寒さゆえ全てに氷が張り巡らされているが、さほど朽ちた感は無い。
誰かが手を入れているとも思えない環境なのだが……
よほど、しっかりした作りなのだろうか?
とりあえず、進んでみるとするか……
「氷が滑るから気をつけ……」
言い終わる間もなく、動く歩道状態で突き進んで行く姿が……
「あ~! 誰か止めて~!」
そんな叫びも虚しく、遥子が柱に激突した。
「いった~い……このっ! このっ!」
いや……柱に八つ当たりしても……
「あったまきた!」
え? ここで?
「ちょっと待った~!」
私は急いで駆け寄ると、遥子の魔法を止めた。
「気持ちは判るが、ここが崩れたらお陀仏だぞ……」
それにプイっと顔をそむけた。
その時、
「あ~! 止めて~!」
また動く歩道状態が……
私達は、滑ってくる蓮を受け止めた。
おや? 何故、同じルートを?
私は、安に声を掛ける。
「今、蓮が立っていた所に行ってみてもらえるか?」
「がってんでやす! お? あ~! なんで~!」
両手をバタバタさせながら滑ってきた安を、三人で受け止めた。
ほう、なるほどね……そういう事か……
「何なの? これ?」
遥子が床を見て、不思議そうにしている。
「これはアレだ。どうやら凍って滑るとか言うレベルの問題では無いな。
踏み場所を間違えると、そのまま真っ直ぐに突き進んでしまうようだ。
気をつけないと、全く先に進めないかもな」
私の言葉に、遥子は怪訝そうな表情を浮かべる。
「でも、どうやって気をつけるのよ……」
確かに、その通りだ。
立つだけで進んでしまうなら、気をつけようが無い。
ゲームならば行き当たりばったりでも良いだろうが、
生身の人間はそうも行かないだろう。
ならば、他にどんな選択肢があるかだ。
とにかく、行き当たりばったりで進んでみるは却下。
では、誰か一人が踏んでみる? と言うのも生贄のようで嫌だな……
ならば、人の代わりに何かを置いてみるってのはどうだ?
だが、必要な荷物は置きたくないしな……
何か、要らない物ね~……
私は辺りを見回す。
今来た入り口に目が止まった。
「おぉ! そうか、なるほど!」
一人で納得している私に、皆が驚いている。
「あぁ、悪い。ちょっと実験してみるよ。ここに居てくれるか?」
それに頷くのを確認すると、私は入り口まで戻った。
一度外に出て、降り積もった雪をひと掴みすると
握り締めながら皆が滑り始めた場所に置いてみた。
雪団子がスルスルと滑っていく。
「わ~、こっちに来た~。可愛い~!」
いや……注目すべきは、そこじゃ無いんだが……
私達は縦に並んでバケツリレーの要領で雪団子を渡し、
滑る床を避けながら慎重に歩みを進めて行った。
ようやく階段まで辿り着いた。
だが緩やかで長い階段を上がって行くと、その先は行き止まりだ。
そこに巨大な石像が一つ立っている。
こう言った物は激しく怪しいのが相場だが、試しに蹴りを入れても何も反応が無い。
だが、ただの石像にしちゃ不自然すぎる……
さて、どうしたもんだか……
何か無いかと周囲を一通り見回して確認してみるが、やはり石像に視線が戻る。
う~ん……
唸り込む私に、遥子が声を掛けてきた。
「これ以外に、何も無いわよね……」
「どうも、怪しいんだよな……これ……」
腕を組んで石像を見つめる私に、遥子も頷く。
「そうね~、でも仕掛けなんて無さそうよね~」
ん?
仕掛け?
「ん? 何か閃いた?」
首を傾げながら問いかける遥子に、視線を向けた。
「仕掛けだよな……そうだよ、仕掛けだよ!」
遥子は、さらに首を傾げる。
私は、バックを漁りながら言った。
「ここはニャンコ神殿だよな! だから……仕掛けはコイツだ!」
ニャーの鏡を出した。
「でも、どうやって使うの?」
不思議そうな表情の遥子に、私は笑みを浮かべた。
「こう言うのは、大体相場が決まってるんだ。多分こうだ!」
石像に向けたニャーの鏡から、眩い光が溢れ出す。
「皆、戦闘準備だ!」