第四十八節 行ってみるか~……
「こりゃ凄いな!」
「旦那! 怖いでやす!」
「大丈夫だ! トナカイを信じろ!」
「わ……わかりやした……」
私と安はトナカイのソリに乗って、景気良く空を飛んでいる。
普段見えない山々が、白く彩られていてとても綺麗だ。
ふと見下ろせば、森の木々が小さく見える。
不思議な浮遊感が、ありえないほど気持ちが良い。
おっと……
早くもドームが近づいてきた。
さすがに、到着が速いな。
「安、そろそろ準備だ!」
「了解でやす!」
トナカイは着陸態勢に入ると、静かに降下して行く。
さて、ここからが本番だ。
私達は、サンタの群れの中へ突入して行った。
「はっはっは~。はっはっは~」
今、私は手を上げながら目一杯低い声で笑っている。
これが仲間の挨拶らしいのだ。
トナカイに、とにかく笑って居ろと言われたので、とにかく笑っている。
やがて、サンタ達も笑い出した。
「はっはっは~」
「はっはっは~」
ソリが少し左へと向きを変えた。
トナカイが群れを発見したようだ。
私は手を上げながら、ひたすらに笑い続ける。
サンタの群れを抜けたその時、トナカイが2回首を振った。
作戦開始だ。安が転がるようにソリを離れた。
私はサンタの群れに向かって、ひたすらに笑い続ける。
「はっはっは~」
後は、どこまで時間を稼げるかだ……
やがて安が戻ってきた。
素早く荷物の中に隠れて、私を2回突付く……
私は、トナカイに合図した。
「は~!」
その掛け声と共に、トナカイの群れはソリを残したまま
蜘蛛の子を散らすように走り出した。
「はっはっ……はぁ?」
サンタの群れが、唖然としている。
その時、私のソリは一気に加速した。
「しっかり、掴まっていろよ?」
トナカイが私達を気に掛けると、物凄い勢いで空へと舞い上がった。
「はっはっは~! 奇襲成功せり~!」
トナカイ達が、一団となって一斉に町を目指す。
さぁ、第二次作戦の開始だ。
私達はトナカイ達と共に、本部の前へと降りた。
通りに溢れかえったトナカイの群れに、皆が口を空けて呆然としている。
隊長の前まで来ると、私は言った。
「トナカイ開放作戦は成功しました。これより、第二次作戦に入ります。その前に宜しいですか?」
隊長達に、どうしても伝えなければならない事があったのだ。
頷く隊長に、話を続けた。
「これからサンタ達が町に攻めて来るでしょう。ですが、彼等を殺さないで頂きたい」
それに、隊長は眉を顰めた。
「なんだと?」
周りの戦士達からも怒号が飛び始めると、隊長がそれを制止した。
「一体、どういう事だ?」
一つ頷くと、さらに続けた。
「毎年サンタ達が、何故この日に攻めて来るのかを考えれば想像は付く筈です。
今日と言う日は、彼等にとって重大な意味を持っているのです。
これ以上は、説明せずともお解かりですよね?」
皆の顔色が、変わって行くのが判る。
「そして、この少人数であの大群に挑んでも、勝利を収めるには戦力不足も甚だしい」
その時、隊長は怒鳴った。
「だが、それでも俺達は奴等に負ける訳にはいかねぇんだ!」
私は隊長の言葉に頷いて、さらに続けた。
「それは、良く判っています。サンタに降伏しろなどとは言いません。
そこで、お願いです。サンタ達を、説得するチャンスを私に与えてください。
このまま、彼等と殺し合っていても何も解決しません。
この因縁を断ち切るには、
まず我等人間が変わらなければならないのです。
そして、この危機を切り抜けるには、もはや和平交渉しか手段はありません」
隊長は、真剣な表情で考えてから静かに答えた。
「ちょっと……待ってくれ……俺達に、少しだけ時間をくれ……」
防衛隊の皆を中に入れると、本部の扉は閉められた。
しばらくすると、遥子が問いかけてくる。
「ねぇ? どういう事なの?」
私が遥子達に説明しようとすると、トナカイが口を開いた。
「私から話そう……」
皆がトナカイに注目すると、ゆっくりと話を続けた。
「セント・ネコデスが人間達に殺されたのは、昨日説明した通りだ。
そして今日は、彼の命日に中る……
サンタ達にしてみれば、それはまさに親を殺されたようなものだ。
毎年わざわざこの日を選んで攻めて来ているのは、
人間達がセント・ネコデスに行った残酷な所業を
命を掛けて思い返させようとしているのだろう。
つまり、これはサンタ達にとって弔い合戦……」
遥子が、目を潤ませながら言った。
「なんかサンタさんも可哀想じゃない……」
それにトナカイは続けた。
「うむ……だからこそ、こうして手を組んで戦いを辞めさせようとしている。
そして彼は、この無謀な作戦を快く引き受けてくれた」
トナカイの言葉で、遥子は私を見ているので答えた。
「まぁ、そう言う事なんだよ……このまま殺し合っても、悲劇が増えるだけだしな」
それに遥子は強く頷くと
「絶対に辞めさせようよ! そうじゃなきゃダメだよ!」
私は、ふと笑みを浮かべた。
「よし! これから魔法の出番だ。宜しく頼むぞ!」
「うん!」
やがて、隊長を先頭に防衛隊の皆が真剣な表情で出てきた。
それに、私達も向き直る。
しばらくの沈黙の後、隊長が重い口を開いた。
「色々話し合ってはみたが、完全な同意は得られていない。
皆、仕方が無くと言った感じだ……」
大きな溜め息をついてから続けた。
「俺達でさえ、こうだ。
家族を殺された町の人々は、もっと納得が行かないだろうよ……」
確かに、その通りだ……
「だがよ……だがよ……」
悔しさで、唇をかみ締めているのが判る
また、しばらくの間を空けて話し始めた。
「確かに、このままでは俺達には滅びる道しか残されていないだろう。
だが、もし……交渉が無理だと判断したら……その時は……」
「はい、それで構いません。その時は、私も心を鬼にします」
「しかし奴等は、そんな交渉に乗ってくるのか?」
不安げな隊長に、私は微笑んだ。
「えぇ、戦力を同等以上に見せるだけのハッタリは咬まして来ます」
隊長は一つ頷くと、鋭い視線を投げかけた。
「判った……よし、やってみろ!」




