第四十六節 マジッすか……
出発前に、隊長が宿代わりに自宅を提供してくれると言ってくれたので
本当に助かった。
そして一緒に馬車も預かってくれると言うので後は遥子達に任せて、
私と安は敵陣を目指している。
何だか相当に違う方向に話が行ってしまったが、
一番に困っていた問題が解決したので良しとしよう。
さて、もうすぐ頂上だ。
しかし、この寒さは本当に堪える。
かなり吹雪いているので、防寒装備をしていてもかなり辛いものがある。
もしこんな雪山で迷ったら、速攻で遭難してしまうだろう。
寒さを凌ぐために顔を覆っているので息が辛いのだが、
僅かに露出した肌が相当痛いので外せば余計に辛いだろう。
ふと安の事が気になった。
「大丈夫か?」
私が問うと、安は妙に明るく答えた。
「大丈夫でやす!」
ずいぶん元気だな……
「山登りは得意なのか?」
「もちろんでやすよ! 潜入も脱出も、山あっての物種でやす」
それは、どうかと思うが……
だが、それも今は心強い。
「この山を越えて行くとアジトが見えてくるはずなんだが、先頭を代わってくれるか?」
「がってんでやす」
安はサクサクと歩き始めた。
速っ……
だが、足場はしっかりと見極めている。
これは、ある意味プロの領域じゃないか……
とにかく私は付いて行くだけで良さそうだ。
かなり助かる。
ふと安が立ち止まった。
「見えやした……」
ん? どこだ?
目を凝らして良く見ると、木々の隙間から僅かに見えた。
こいつ、凄いな……
「どこか、観察できる場所ってあるかな?」
「任せて下さいやし」
そう言うと、安はまたサクサクと歩き出した。
「ここでやすね」
おぉ……絶好のポイントじゃありませんか……
雪が腰くらいの高さまで壁のように競り上がっているので、
しゃがんでいれば見つかる事は無い。
そこから僅かに頭を出せば向こうの全容が完全に見渡せる。
「安は、物凄い才能だな……」
それに、安は照れ笑いをした。
おもむろに小さな望遠鏡をを取り出して、敵陣の様子を伺ってみる。
あのドーム状の建物がそうらしい。
一瞬何も見つからなかったのは、周りの白さで距離感が麻痺していたせいだろう。
望遠鏡を徐々に降ろしてくるとソリが小さく見えた。
どうやら、あのドームはかなり大きな建物のようだ。
その時、ソリの側に赤い何かが見えたので望遠鏡をゆっくりとズラしていく。
ん? なんだありゃ……
サンタがワラワラ居やがる……
「これじゃトナカイを開放するって言っても、一筋縄には行きそうに無いな……」
「ああ……かなりの数だ、これは難しいだろうな……」
「そうだよな~……って誰? うぉっ!」
何故か横に座って居るトナカイに驚いて、私達は飛び跳ねた。
「通りすがりのトナカイだが、何か?」
「いやいや……トナカイがしゃべってるのが大問題で……」
トナカイは、こちらに冷たい視線を向け話しだす。
「ん? トナカイが話しちゃいけないなんて誰が決めたんだ?」
「いや……確かに、決まっちゃいないけど……」
「うむ、ならば宜しいではないか。ノープロブレム!」
おいおい……
本当に、いいんだろうか……
だが、トナカイなら奴等の事は詳しいよな?
何だか良く判らない状況だが、この際だから聞いてみるべきだ。
「ところで、あいつ等はいったい何なんだ?」
トナカイは、軽く溜め息をついて言った。
「あれはセント・ネコデスが作ったキメラだよ」
「キメラ?」
「あぁ……要は、魔物と人間のハイブリットだ」
ハイブリットって……トナカイが言うと微妙だなぁ……
「また何で、そんなものを?」
「子供達に、プレゼントを配る為さ」
配ってたんだ……
その時、トナカイは大きく溜め息ついて話し始めた。
「全く皮肉なもんさ。セント・ネコデスは子供達に夢を与えようと、
魔導を駆使してサンタと言うキメラを作ったのさ。
しばらくは良かったさ、そりゃ子供達も喜んでな。
だがな、ある日魔物を製造していると噂が立って強制的に騎士団に連れて行かれた。
サンタ達は帰りを待っていたが、何時まで経っても帰ってこない。
様子を見に行ったサンタが見たものは、
火あぶりの挙句に晒し者にされていたセント・ネコデスの変わり果てた姿だった。
それにサンタ達は怒り狂ってな、人間への復讐が始まったんだよ。
私達トナカイはそれに反対していたのだが、私達が居なければサンタは飛べない。
皆、無理やりに連れて行かれてな。今じゃ、あぁして奴隷のように使われている状態さ。
そして何とか逃げ残っているのは、もう私だけになってしまった……」
なるほどね……
なんだか、どっちが悪いんだか判らなくなってきたな。
「ちなみに、私達の世界にもサンタクロースの神話があるんだけどさ」
その言葉に、トナカイの目が鋭くなった。
「ん? 私達の世界だと?」
「あぁ、私は違う世界から連れてこられたんだ。それで、何故か魔王を討伐する羽目になってね」
「なるほど……それで、他の人間とは臭いが違ったのか」
臭いが、違うんだ。
私は、また敵陣に視線を向けて話を続けた。
「それで、言い伝えのサンタクロースなんだけど、あそこに居るのと良く似てるんだよね」
その疑問にトナカイが答える。
「あぁ……それは、私の爺さんが生きていた時代の事だろう」
ん? 爺さん?
「私の爺さんは、次元移動で異世界に行く事が出来た。多分その時に目撃されたのだろう」
行けるのか?
「だが、今じゃそんなトナカイは居ないよ。異世界に行けるトナカイは鼻が赤いのが特徴なんだ」
「あっ! それ歌にある」
おもわず出た私の言葉に、トナカイは頷いた。
「うむ、ならば爺さんに間違いないな。大体だが、500年に1回ほど爺さんみたいのが生まれると聞いているよ」
500年かよ……それは、さすがに待ってられないな。
その時、おもむろにトナカイは私に蹄を向けた。
「それでだ!」
ん?
「さっき、トナカイを開放するって言ってたよな?」
真剣な眼差しを向けてくるトナカイに、私は答えた。
「あぁ、サンタが飛んで攻めて来たら人間に勝ち目は無いからな。
そのつもりで偵察に来たんだけど……」
一つ頷いて、トナカイは続けた。
「私も、そのつもりで見ている。利害は一致するはずだ、ここは、共同作戦と行かないか?」
なるほど……トナカイが味方になれば、確かに心強いかもしれない。
私は笑みを浮かべた。
「では、作戦会議と行こうか」
私達は、対サンタ防衛本部へと戻った。
「あの……新しい仲間が出来たんですが、どうします?」
それに、皆は笑顔を浮かべる。
「おぉ、それは素晴らしい! ささ、中へ入れてくれ」
「では、さっそく……」
「うおっ! 何事だ!!」
おもむろに入ってきたトナカイに驚いて、皆が腰を抜かしている。
「なっ……なかまって……まさか、それか!」
それに、一つ頷いて答える。
「えぇ。そうですが、何か?」
「何かもクソもねぇだろ! トナカイと言えばサンタの犬じゃねぇか!」
トナカイは、フン! と言った顔をしている。
私は、また答えた。
「彼は、奴等の仲間じゃありませんよ」
「なっ! 何を証拠に……」
その時、ようやくトナカイは口を開いた。
「それは、私が説明したからだ」
「おわ~! トナカイがしゃべった~!」
「世界の終わりだ! 助けてくれ~!」
しばらく、彼等のパニックは続いていた。
ようやくパニックは収まった物の、皆は目を丸くして壁に張り付いている。
私はトナカイを撫でながら言った。
「そんなに、怖くないですよ。ねぇ?」
トナカイは、それに頷いた。




