第三十九節 なんと、まぁ……
ちなみに困った伯爵の話を総合すると、こうだ。
東の地域は鉱物が豊富で、かなり栄えているそうだ。
その発掘と細工で、城下町も賑わいを見せていた。
そんなある日、突然に魔物が攻めて来た。
当然、騎士団は立ち向かったが全く歯が立たなかったそうだ。
人々は逃げ惑ったが、かなりの人数が犠牲になった。
そして城には魔物がはびこり、もはや人が近づけない状態になっていると言う。
今回は、その魔物の討伐だ。
だが、これで一つ疑問が解けた。
ここまで私達が、これほど素直に来られたからには訳がある。
沙耶は、この討伐を条件に我々の入国を認めさせたと考えるのが筋だろう。
だが、騎士団でさえ手に負えない相手を、この少数でどうしろと……
私は皆に聞いてみた。
「さて、どうする? 数も居そうだし……まともに勝てそうな相手じゃないぞ?」
それに、誰もが唸っている。
答えは出ないようなので、私は切り出した。
「まずは、北を目指さないか?」
皆の視線が一斉に集まると、さらに続けた。
「私達だけで無理なら、誰かの力を借りるしかない。そして今、当てがあるのは?」
「女神ネコミミ!」
全員の声が重なった。
そして、次の日……
早朝から馬車を走らせ、北へ向かっている。
一応は出発前にその旨を伯爵に伝えてみたが、
「あ~、全然構いませんよ~。どうせ誰も行きゃ~しないんですから、
ノンビリやっちゃってください」などと、微妙に投げ槍な答えが返ってきた。
「あっ! そう言えばっと! 北へ行くなら、これが役に立ちますよ~」
何やら本棚を一生懸命に漁って、
「おっ! あった、ありましたよ~。
やっぱり、コレですよね~……はいっ!」と手渡されたので受け取って見てみると、
『丸秘温泉マップ完全版 幻の秘湯を巡れ!』
いやいや、旅行じゃないんだから……
そのついでに、オニャン公国の詳しい地図も頂いた。
むしろ、こっちがメインなのだが……
地図を見てみると、それに神殿の場所は書かれていない。
伯爵によれば、
「あんな所、わざわざ行く奴なんて居ないんですよ~。だから、誰も知らなくて。あはは」
あははじゃないと思うのだが……
あれで、本当に大丈夫なのだろうか?
まぁ、オニャン公国内を自由に行けると言う許可証を頂いたので、
私達は構わないのだが……
一つ使えそうな情報と言えば、
「あっちは、メッチャクチャ寒いですよ~。暖かい服は、一杯用意していって下さいね~。
そのカッコじゃ、コロっと死にますよ~」と言っていたので、
かなりの防寒対策をしてきた。
さすがに、そのくらいは当てにして良いだろう。
実際に、今にも雪が降りそうなくらいに寒いのは確かだ。
これ以上北へ行くなら、それなりの覚悟はするべきである。
地図を広げながら、道程を考えてみる。
まず一日目は、この真ん中付近にあるマタタビの町に泊まる事になるだろう。
極寒の中でも野営に耐えられそうな装備は持ってきているが、
なるべくなら寒い中で野宿はしたくない物だ。
そして二日目の夕暮れ頃に、一番北に位置するネコマタの町に着く計算になる。
しかし、それは最低限のペースで進めた場合の話だ。
まぁ、あくまで予定である。
計算が大幅に狂う事も、当然の如く視野に入れるべきだろう……
そして、その先には山しか書かれていない。
何の情報も無いのは困った物である。
現地で聞き込みながら、対策を立てるしか手はないだろう。
だいぶ冷えてきたと思ったら、道の横に雪が残っている。
防寒着を取ってもらって着込むと、ちらほらと雪が降り出した。
「これは冷えるな……」
だが、またしばらく走っていくと雪は水を含んでミゾレ混じりになってきている。
どうやら上空は、まだ冷え切っていないようだ。
もしかすると、このまま冷たい雨になるかもしれない。
まぁ、通常なら運転台に居る私は悲劇に見舞われるのは当然なのだが、
これはその辺りの馬車とは一味違う。
私は上と左右から、5枚の板をスライドさせて引き出してくる。
その板には巧みに幌が張ってあって、はめ込んで行くと、
運転台がシッカリと囲まれる仕組みだ。
雨避けを組み上げると、後から遥子の声が聞こえた。
「ねぇ? 何それ?」
皆が、不思議な物を見るような顔をしている。
そう言えば、これを使うのは初めてか……
「これは、おやっさんお勧めの雨避けさ。そっちにも冷たい風が行かなくて良いだろ?」
それに、遥子は首を傾げる。
「それで、前見えるの?」
「あぁ、もちろんさ」
それこそが、このシステムの凄い所だ。
前と横の目の位置には板ガラスが組み込んであって、
前面に下がっきている幌は、手綱が当たる部分だけがスダレ状になっている。
これで馬車の運行にも支障をきたさないナイスな構造だ。
この世界にはゴム素材はあるようだが、ビニール素材はまだ見た事が無い。
その代わりに、革と金属とガラスを上手く使って仕上げてあるのがまた見事だ。
両サイドが二段の持ち上げ式のドアになっていて、上段は窓として使えて、
下段は出入りが出来るようになっている所もまた重要なポイントである。
難を言えば、ワイパーが手動な事くらいだが、
それを加味しても、すでに完成された領域であると言って良いだろう。
これは、本当に良く出来ている。
おやっさんが、どんな雨でもへっちゃらだと豪語するだけの事はある。
これこそ、まさに機能美の象徴だろう。
冷たい雨が降りしきる中を走り続けていくと、
暗くなった頃にマタタビの町へと辿り着いた。
時間的にはまだ4時半なのだが、すでに辺りは相当に暗い。
この雨だと、どこかに馬車を預けて遠くの宿まで歩くのは大変だ。
どこか近い所は無いものかと走らせていると、
赤い合羽を着た少女が、
『厩舎 宿 共にあり』と看板を持って立っていた。
その横に馬車を止めて、窓から顔を出して聞いてみた。
「ちょっとイイかな? この馬車も預けられるのかな?」
その言葉は聞こえていないようで、私の馬車を見て呆然としている。
まぁ確かに、これ珍しいよな……
もう一度聞くと、はっ! っとしたように私を見た。
「はい! 宿の隣に厩舎を備えてありますので、大丈夫です!」
「そうなんだ、場所は?」
私の言葉で、急に走り出した。
あらら……乗って行けば良いのに……
その後を付いていくと、意外にすぐ側だった。
指示されるままに小さめの厩舎に馬車を入れると、
「いらっしゃいませ!」
明るく声をかけてきた。
荷物を降ろし、移動の準備していると少女は馬車を興味津々に見ている。
「馬車、好きなの?」
また、はっ! っとしてこちらを見た。
「すみません、こんな馬車見たことなくて……」
なるほど……
「馬車ではないんですが、父がソリを作っておりますので興味があるんです」
ほう……ソリね~。
「あっ、すみません。宿の方へどうぞ」
慌てた様子で、厩舎から屋根が繋がった宿へと走っていった。
しかし、これは助かった。
これなら皆が濡れなくて済む。




