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第三百五十三節 戻るとしますか~……

 一通り屋台街を満喫した辺りで、アレモに声を掛けてみた。

「さて、そろそろ城に戻るか?」

するとアレモは激しく残念そうな表情を浮かべながら私を見た。

そこは子供かよ……


 しかし、あまり長い事ここで遊んでいるのもなんだしな。

まぁ、丁度良い頃合だろう。

城に向かって歩き始めながらふと後ろに視線を送ると、

すでに半泣き状態のアレモは保護者に誘導されるように

ピーとナッツに手を引かれて付いてきていた。



 ひとまずピーに換金所へ案内してもらったので、遥子が受付で現金に引き換えている。

遠目から様子を伺って居るが、まぁさすがに持ちきれないほどは引き換えないだろう。


 その時、ピーが聞いてきた。

「これから、どちらに行かれるんですか?」

「あぁ、そうだな。ちょっとこれからの事で騎士団長と話がしたいのだが、どこに居るのかな?」

すると、ピーはやたらと呆れたような表情を浮かべる。

「あぁ……今頃は二人して、馬車の話とかで盛り上がっているんじゃないですか?」

「なるほどね……その場所って、以前に鎧を借りた所かな?」

「えぇ、きっとそうだと思います」

微妙に自信無さげな言い回しだが、まぁ誰かに聞けば居所くらいは判るだろう。

「そうか、そしたら後で行って見るよ」


 ふと横を見れば、アレモはまだ涙目状態を維持している。

これは困ったな……

「今度は一緒に買い物でも行ってみるか?」

その言葉で、花が咲いたように笑顔が戻る。

「はいっ! ぜひ行きたいです!」

「まぁ何時と約束は出来ないが、近いうち必ず誘いに来るよ。それでイイかな?」

「はいっ! お願いします!」

目をキラキラ輝かせているアレモに、ピーとナッツは呆れながらも優しい笑顔を投げ掛けていた。



 私達が騎士団の集まっている所へ歩いて行くと、エラクナさんの大きな声が聞こえてきた。

「こんな嬉しい事は、一生のうち一度あるか無いかだっ! ほら、オメ~ら! ガンガン飲んでくれ~!」

おいおい……もう酒盛りしてるのかよ……

半ば呆れながら石壁の広間へ行くと、そこはすでに大宴会常態になっていた。

騎士団長も騎士達と一緒に盛り上がっているようだ。

大丈夫か? この騎士団……



 私達に気付いたエラクナさんが、木の椅子にデンと座って私達に手招きをしている。

「おう、来たか~! アンタ等も飲んでくれ~!」

ひとまず側まで歩いて行って、囁くように言ってみた。

「いや……酒はちょっと……」

「あ? 酒?」

そう言ってエラクナさんは手にした瓶を見つめる。

「あぁ~そっか! アンタ等は知らねぇもんな! これ酒じゃねぇんだよっ!」

「え? そうなんです?」

私が驚くと、エラクナさんは自信に満ちた表情で瓶を差し出した。

「騎士団専用、勝利の水だ!」

水かい!

「まぁ水って言っても、タダの水じゃねぇぜ!」

エラクナさんはそう言いながら冷たそうな水が入った木箱から瓶を一本取って、

コルクのような栓を強引に引っこ抜く。

「コイツは、パンツェッタの酒場に作らせた特製だ! まぁ飲んでみろよ」

「はぁ……」

グイっと瓶を差し出されたので、素直に受け取って飲んでみる。

ん? これって……

あの酒場で飲んだ、炭酸飲料みたいな奴じゃないか。

「あぁ、なるほど。コレでしたか~」

私が一人で納得していると、エラクナさんが不思議そうに聞いてくる。

「ん? コレ飲んだ事あるんか?」

「えぇ、以前にBerタリアンって所で出してくれましたよ?」

「マジかよ! あのオヤジ、勝手に出してやがるのか! ったく、ふざけてやがるな~!」

やたらと怒り始めたので、私は慌てて言った。

「いやっ! 酒以外のものって頼んだので、特別に出してくれたんだと思います。メニューには無いみたいなので大丈夫かと……」

「そうかよ……なら仕方ねぇか……」

妙に機嫌悪そうにしているので、瓶を見つめながらエラクナさんに声を掛けてみる。

「これって、貴重な飲み物だったんですね」

すると不敵な笑みを浮かべながら話し始めた。

「あぁ。これは俺達騎士団の仕来たりみたいなもんで、勝利を収めた時は必ず皆で飲むんだ。まぁアンタが言ったように、昔は酒だったんよ。だが、ある時に皆してベロンベロンになった所を思いっきり攻め込まれた事があってな。それから勤務中は酒禁止になって水になっちまったんだ。でもよ! タダの水じゃ、つまらねぇだろ? そこで俺があのオヤジに特注してコイツを作らせたって訳さ! どうよ! なかなかウマイだろ?」

「えぇ、とても美味しいです」

「だろ~!」

何とか機嫌がなおったようで、エラクナさんは嬉しそうに瓶の中身を飲み干した。

しかし炭酸飲料だけで、良くこれだけ盛り上がれるもんだな……


 ひとまず皆で椅子座っているうち全員に瓶が行き渡ると、

それぞれ恐る恐る口をつけ始める。

そして遥子が声を上げた。

「あら、これ美味しいじゃないの!」

すると、安も続くように言った。

「ホントでやす、これは飲んだ事ありやせんでした」

だがヨウジョ三人組と洋は、何故か微妙な表情を浮かべて固まっている。

「ん? どうした?」

私が聞くと、蓮が半泣き状態で言った。

「なんかピリピリってきました~……ピリピリって……」

それに翔子が、半分むせたような声で続ける。

「これは……ちょっとキツイですね……」

伊代と洋は、同意するようにひたすら頷いている。

するとエラクナさんが笑みを浮かべた。

「そうか~……お嬢ちゃん達には、ちぃ~とキツイか~。なぁ? 誰か、いつもの持ってきてやってくれや!」

すると二人の騎士が勢い良く立ち上がる。

「はいっ、ただいまお持ち致します!」

そのまま急いで横の扉の奥へと走って行ってしまった。

あまりに早いので何も反応できなかったが……良いのだろうか?

半分困った状態で扉を見つめていると、

やがて二人の騎士が4つのジョッキを持って戻ってきた。

そしてヨウジョ三人組と洋に優しくジョッキを差し出してくれる。

「どうぞ、ミルクです。これなら大丈夫ですよね?」

私は、おもわず立ち上がって頭を下げる。

「これは、すみません。ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらずに」

二人の騎士は私にも笑顔で答えてくれた。


 とりあえず座りなおして、エラクナさんに聞いてみる。

「もしかして、ミルクは常備してあるんですか?」

「あぁ、いつも飲んでるぜ! なんてったって身体が資本だからよ!」

そう言いながら笑みを浮かべて、丸太のような腕を自分で叩いている。

「なるほど」

私は、その激しく強そうな筋肉におもわず納得してしまった。



















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