第三百五十節 どの辺りが美なんだか……
アレモは軽く息をつきながら難しい表情を浮かべると、もう一度馬券に視線を移す。
「でも……さすがにコレだけの金額ですと、ここでは払い戻しが出来ないでしょうね」
「え? そうなの?」
少し驚くと、アレモは頷いた。
「えぇ。ここは我々王家が運営しているんですが、一定以上の高額配当になった場合は基本的にはお城で換金して頂く事になっているんです」
「ん? 騎士団長とエラクナさんは、無事に払い戻しが出来たみたいだが?」
私の問いに、ピーが怒ったように言った。
「あぁ……それは、いわゆる例外になりますね。全く、騎士団なんだから規則ぐらい守って欲しいです!」
アレモはピーに向けて、なだめる様な優しい笑みを見せてから私に続けた。
「後でお城に来て頂ければ、現金化して預かる事ができます。それと、ある程度の単位でしたら分割して引き出す事も可能ですよ」
「そうか、それは助かるよ」
私が納得していると、アレモはどこか思いつめたように溜め息を付いてから話を続けた。
「実際に高額払い戻しの直後に襲われると言う事件が多く発生していますので、お城には専門の預かり所があるんですよ」
おもわず私は眉を顰める。
「それは、また物騒だな……」
すると、アレモは私に真剣な眼差しを向けてきた。
「えぇ……お城の中なら、そう言った事件は防げるんです。それに街の警備も、以前より強化して居ます。ですが、大抵は警備の隙を付く様に襲われているんですよね。払い戻した方それぞれに護衛をつけると言う案も出ましたが、さすがに訪問人数の多い日は皆さんの帰り道までは手が回らなくて……」
「だよな……」
少し溜め息交じりに答えると、アレモはまた続ける。
「そこで何とか事件を減らすために少しづつ持って帰る事が出来るようにしたのですが、それでもまだ時折事件が起きるんですよね……本当に困ってます」
暗い表情を落とすアレモに聞いてみた。
「それ、どんな奴なんだ?」
「それが、かなりの人数が居るようで何かの組織ではないかと考えています。でも、顔が凄く大きくて柄の悪い大男が居たと言う目撃証言がとても多いですね」
あ~、なるほど……そう言う事ね。
まったく、やる事成す事いちいち半端な奴だな。いったい、どの辺りが美なんだか……
「なぁ? アレモ」
「はい?」
「もしかしたら、もう事件は起きないかも知れないぞ?」
「え? 何か知っているんですか?」
驚いたように聞き返してくるアレモに、私は頷いた。
「あぁ、ちょっとな……まぁ楽観視は出来ないが、ちょっとこのまま様子を見てくれ。まだ続くようなら、改めて対策を練ろう」
「はい、わかりました」