第三十四節 あらま……
やがて暗くなる頃に、ようやく開けた所が見えてきた。
だが、何か微妙に寂れた雰囲気が漂っている。
どこか遠くの温泉街で見たような、宿場町と言った感じの町並みが続いている。
そのまま馬車を進めていくと、宿場の手前から馬車が道を埋め尽くしている。
大渋滞に巻き込まれてしまったようだ。
凄いな……もしかして、全部ここで止められているのか?
「ちょっと、様子見てくるよ」
皆が頷くのを確認すると、馬車を降りて前の方に歩いて行った。
何やら、大声が聞こえてくる。
「だから、何で行けねぇんだよ! もう5日も待たされてるんだぞ!」
あぁ……怒ってるねぇ……
「こっちは、生活掛かってるんだよ! どうにかしろよ!」
全く、その通りだ……
その時、違う声が響いた。
「これは、サイバエの命令だ! この先へ行く事は許さん!」
あらら、偉そうだね~……
掻き分ける様に人だかりを避けていくと、
その声の主がようやく見えた。
え?
マジっすか?
私はそのまま黙って馬車に戻って荷物の中を漁っていると、
その様子に気付いた遥子が聞いてきた。
「まさか、居るの?」
「あぁ、居るな。ちょいと実験だ、見に来るか?」
私が鏡を取り出すと、それに皆が頷く。
「よし、ならば皆は手ぶらで来い」
私達が人込みを避けて奴の前の方まで来ると、おもむろに鏡を向けてみた。
すると鏡から真っ白い光が溢れ出した。
おぉ?
その光は見ていられないほどに眩しくなり、おもわず目を塞ぐ。
周りの人々も、その光に驚き呆然としている。
やがて、沈黙を破るように突然大声が響いた。
「ばっ! 化け物だ~!」
辺りは、一斉にパニックに包まれた。
「遥子、今だ!」
私の声と共に、白い閃光が放たれる。
それは魔物を飲み込み、一瞬でそれを消滅させた。
「よし! 戻るぞ!」
私達は、慌てて馬車に乗り込むと鏡を仕舞って何事も無かったように澄ました。
何だか、前の方で異常な歓声が沸き上がっている。
良く判らんが、放っておこう……
しかし、あの鏡……
かなり眉唾物だと思っていたが、本物だったとは驚いたな……
つまり沙耶の家に伝わる話も、疑いようのない事実になってしまった訳だ。
ひとまず、目指すべき神殿は存在すると考えて良いだろう。
この旅が、無駄骨にならずに済みそうだ。
とりあえずは、一安心である。
さて、問題は魔物の行動だ……
詳しく確認できなかったが、あれは騎士団か憲兵の類だろう。
いずれにしても、役人に化けるとは良く考えた物だ。
津世伊蔵もそうだったが、
人間社会でそれなりの地位を獲得すれば物事を有利に進められる事実を
奴等は知っているという事だ。
非常に厄介な敵である……
下手に目立った事をすれば、権力を行使してでも潰しに掛かって来るだろう。
これからは、相当に警戒を強めるべきである……
しばらくすると、馬車が進み始めた。
遅い流れに合わせて進んでいくと、ようやく状況が判った。
どうやら、さっき文句を言っていたオッサンが英雄扱いされている。
きっと、あの人が退治したと思われたのだろう。
まぁ本人も乗り気みたいなので、このまま放置だ……
馬車を誘導している人に聞いてみた。
「ここから次の宿まで、どのくらいありますか?」
「あぁ、それなら止めておいた方がいいよ。今からだと朝方になっちまうよ」
そうか……ならば今日は、ここに泊まるしかないか。
「ども!」
その人に軽く手を上げると、そのまま左へと馬車を旋回させた。
さて、馬車を預けて宿にチェックインを済ませると
何やら皆の目の色が輝いている。
「ん? どうした?」
それに、遥子が答えた。
「向こうに、お土産屋さんとか沢山あったよ! 見に行ってみようよ!」
本当に、買い物が好きだな……
まぁ、他にやる事も無いから良いか……
「じゃ、行ってみようか」
それに、ダッツとナーヴェまで喜んでいた。
宿を出ると、すでに辺りはパーティー状態で、
さっきのオッサンが大声で叫んでいる。
「今日は、俺のおごりだ~! 皆、飲んでくれ~!」
あんなに大盤振る舞いして、大丈夫か?
後で、どんな請求が来ても知らんぞ……
店を覗いてみると、確かにお土産屋さんと言った雰囲気だが色々と置いてある。
まぁ、全体的に民芸品と言う感じなのだが、手に取って見ると良く出来ている。
竹細工のような物は色々な動きをして、
トンボ玉のような装飾品は本当に綺麗だ。
「良く、出来ているねぇ」
静かに感心するのは私と安だけで、
女性陣はアレがイイのコレがイイのと大騒ぎをしていた。
ふと質問してみる。
「そう言えば、安はどんな武器が使えるんだ?」
「そうでやすね、あっしは短剣なら使えやすが」
短剣ねぇ……
「じゃ、槍は?」
それに、首を傾げている。
「そうか……」
諦めたように頷くと、安は続けた。
「長い物を持つと、全然動けないんでやすよ」
確かに……
「だから、コレを使ってるでやす」
ん? それって……
おもむろに、背中の袋から出したそれには見覚えがある。
「小太刀か……」
「そう言うんでやすか? 丁度良かったので、お城から頂いて来やした」
来やしたって……
「たまに、こうして投げるでやすよ。だから予備もあるでやす」
投げる予備って……ちょっと違うような……
確かに、投げ自体は間違っちゃいないのだが……
だが、待てよ?
「それ、2本同時に持った事あるか?」
「無いでやす」
ほう……いいかも……
「なぁ、伊代。明日の朝、ちょっと手合わせしてくれないか?」
「えぇ、いいですよ」
伊代は、快く承諾してくれた。
これは、楽しみだぞ……




