第三百二十四節 飛空移動船ですね~……
光が消えて行くと、私達は飛空移動船の工場前に立っていた。
そのまま中へ歩みを進めて行くと、相変わらず甲高い金属音が響いている。
と言う事は、まだ完成して無いんだろうな~。
あまり期待せずに工場の中を歩いて行くと、飛空移動船は何やら全面を布のような物で
カバーされていてどこまで出来ているのか良く解らない。
あの中は、どうなっているんだろう?
それを気にしながら更に歩いて行くと、遠くに沙耶達の姿が見えてきた
何か妙にニコヤカに見えるのだが、気のせいでも無さそうだ。
また喧嘩してるのかと思っていたが、今日はどうも違うらしい。
不思議に思いながら近づいて行くと、私達に気付いたようで皆して手を振っている。
私達も合わせるように手を振りながら歩みを進めて行った。
「今日はどうしたんだい? 何か仲が良さそうだけど」
私の問いに、沙耶は軽く笑みを浮かべて言った。
「別に、いつも喧嘩してる訳じゃないわよ」
いや、してましたが……
「まぁ、あれよ……」
沙耶は、ふと飛空移動船へ視線を移して続ける。
「ようやく完成したわ。さっそく動かしてみたいんだけど、今日は大丈夫?」
「え? もう試験とかしたのか?」
「何言ってるのよ! それも兼ねて今から飛ばすのよ! こんなの動かしてナンボでしょうよ!」
「そりゃそうだけど……いきなり落ちたりしないよな?」
「飛ぶんだから、落とそうと思えば簡単に落ちるんじゃない?」
いや、そうじゃなくて……
「そもそも動かし方とか、大雑把にしか教わってないぞ?」
その問いに親方が答えた。
「あぁ、確かにそうだ。だがコイツは、普通の操船技術なんぞ全く通用しねぇ代物だ。実際に飛ばしながら掴んで行くしかねぇのさ」
そりゃまた豪快な……
「まぁ、俺達も一緒に乗るから安心してくれ。だよな?」
親方が沙耶に視線を送ると、キョトンとして答えた。
「え? 私も乗るの?」
「そりゃそうだろ! 設計したのは、お前さんだろうがよ!」
「それはそうだけど、私はまだ死にたく無いわよ!」
おいおい……
その時、私達の冷たい視線に気付いて沙耶はハッとしてこちらを見る。
「あっ、設計は完璧よ! 問題無いわ!」
ホントかよ!
「もう、しょうがないわね~。一緒に乗るわよ! 乗ればイイんでしょ!」
何をヤケになってるんだよ……
私は親方に聞いてみた。
「あの全体を覆っているのは、どうするんです?」
「あぁ、あれは錆びないようにしてるだけだ。すぐに外すから心配しないでくれ」
なるほど、と言う事は金属製なのね。
「だが、アレだな~……」
腕を組んで考え込む親方に、私は声を掛けてみる。
「どうかしました?」
すると私を、ハッとしたように見る。
「いや、あれだ! これを動かすには、機関部に何人か欲しい事は確かなんだよな。誰か居ねぇかな~……」
ふと遥子を見ると、どうやら同じ事を思いついたようで笑みを浮かべながら頷いている。
私も合わせるように頷いて、親方に視線を戻した。
「あの、3人で足りるなら良い人材が居ますよ」
それに親方は、驚いたように聞いてくる。
「おぉ! 本当かよ! すぐに呼べるか?」
「えぇ、行き先は解ってます。少し時間を頂ければ、呼んで来ますよ?」
「そうか! それじゃ頼むぜ!」
嬉しそうに目を丸くする親方に、割り込むように沙耶が聞いてきた。
「もしかして、海奈良間加瀬朗の事?」
おっと、バレたか。
「あぁ、そうだ。あの3人の操船技術と連携は半端じゃない。例え物が違っても、すぐに勘をつかむはずだよ」
「う~ん……確かに、彼等なら信頼できるわね。それじゃ、呼んで来てもらえるかしら?」
すると親方は軽く手を上げて、向こうへ歩き出しながら言った。
「そんなら、戻るまでに出航の準備を済ませちまうぜ! そんじゃ、頼んだぜ!」
私は、沙耶に視線を移す。
「じゃ、行ってくるよ」
それに頷くのを確認してから、私達は工場を後にした。
工場の外まで来ると、私は遥子に声を掛ける。
「次は健三さんの所だ。何度も瞬間移動を使わせて悪いな、大丈夫か?」
「あぁ、もうだいぶ慣れたからね。そんなに魔力は使わなくて済んでるわ」
それに私は驚いて聞いてみる。
「それって、使うほどに魔力の消費が減るって事?」
すると遥子は少し考え込んでから答えた。
「う~ん……ゲームみたいに、数字として現せる感じじゃ無いのよね~。でも何度か使ってれば、間違いなく消費は減るわね。だけど、ひたすら同じ魔法を使ったからって減り続けるもんじゃないわ」
ほう、なるほど……
私は納得しながら、おもわず呟いてみる。
「そう言うもんなのか」
「そう言うもんなのよ」
何気に、遥子も同じように頷いていた。