第三百十四節 会いに行きますかね~……
道場の掃除を終わらせてから皆で厩舎へ向かっていると、遥子が聞いてきた。
「それで、いつ行くの?」
「あぁ、今日の夕方に向こうで会う事になっている。済まないが、また瞬間移動を頼めるか?」
「うん。別にいいけど、場所は解ってるの?」
怪訝そうに聞いてくる遥子に、頷きながら答えた。
「話によると、オバター城の裏門まで行けば見えるらしい。オバ田理園って言う孤児院らしいぞ?」
「何か嫌ね……その名前」
「だな……」
そして夕方頃……
だいぶ日が暮れてきた頃に、牧場の手伝いも切りの良い所まで来た時
遥子達が歩いてきた。
「そっちはどう? あたし達の方は大丈夫よ」
「あぁ、そろそろ終わろうと思っていた所だよ。ちょっと待っててくれ」
私は散らかった牧草を、急いでかき集めてその場を片付けた。
すでにリーさんには遥子が伝えておいてくれたそうなので、私達は
エプロンとバンダナを外して厩舎の隅にある棚に置いた。
今は皆してかなり軽装だが、別に重装備して行く必要は無い。
念の為に私と安と伊代は剣を持ってきてあるので、
もし何かあっても十分に対応できるだろう。
「おまたせ」
私が遥子に言うと、それに頷きながら答えた。
「それじゃ、行くわよ。皆、集まって」
そして私達は、白い光に包まれて行った。
光が消えて辺りを見渡すと、見覚えのある景色だ。
「ここって、ハカセの所か?」
私が問うと、遥子はキョトンとして言った。
「そうよ。いきなり裏門じゃ目立つじゃない?」
「そうだな、確かにココなら問題無いな」
すると、黒いローブを被った人達がどこからともなく集まってきた。
「おや、皆様方でしたか。何やら凄い光が見えましたが、どうされました?」
私は、おもわず頭を下げる。
「いえ、ちょっと場所をお借りしただけなんです。すみません」
「そうでしたか。では、お気をつけて……」
そう言って黒いローブの人達は、また宿の方へ静かに戻って行った。
多分ハカセに雇われている人なのだろうが、何か怖いよな~あの人達……
私達は、オバター城の裏門まで来て辺りを見渡す。
すると、右斜め向かいにそれらしい門が見えた。
「あれが、そうかな?」
「かもね、行って見ましょうよ」
私達が歩みを進めると、その門の横に文字を浮き彫りにしたなかなか立派な看板があった。
『オバ田理園』
「ここみたいだな……」
私が呟くと、門の向こうに見えるかなり地味な木造の建物から大きな声が聞こえた。
「だから、すぐそこまで行くだけだってば!」
「ダメよ! もう門限は過ぎているのよ? ここから出す訳に行かないわ!」
「だから、門から出ないから~!」
おや、あれは彼の声だ……いったい何事だ?
良く見ると、建物の入り口で相当にオバちゃんっぽい職員のような人と揉めている様だ。
「ちょっと、行ってみるか?」
それに遥子が素直に頷いたので、私達は門を入って建物に近づいて行った。
すると彼が気付いて、私達に手を振っている。
その隣で、怪訝そうにこちらを見つめる職員の表情があまりに対照的だ。
微妙なパーマの掛かったショートと、何気に小太りな外見が
オバちゃん独特の雰囲気を醸し出している。
こう言う人って、結構厄介そうだよな~……
怒らせたら、違う意味で強そうだし……
まずは何とかして、この職員を説得しなければなるまい。
私は彼に軽く手を上げて笑みを浮かべると、すぐに職員に視線を向けて頭を下げる。
向こうも合わせる様に頭を下げてはいるが、厳しい表情は変らない。
さてと……
「すみません。私は道場の者で、今野勇太と申します。こちらの門限を知らなかったので、こんな時間に待ち合わせてしまいました。大変申し訳ございません。ご迷惑でしたら、後日に出直します」
その言葉で、職員は焦ったように営業スマイルを見せた。
「あ、いえ……ご存じなかったのでしたら、仕方がありませんわ。もしお話があるのでしたら、面会室をご利用になってください。それならば、問題はありませんので……あっ、申し遅れました。私はここの園長で、田理菜衣子と申します」
そりゃまた……
かなり無茶な名前に驚いたが、私は深く頭を下げた。
「ありがとうございます、そうして頂けると助かります」
その言葉に、園長はスッカリ機嫌を直したようで満面の笑みを浮かべた。
「では、どうぞお入りになってください」