第三十一節 何とかね……
どうにか、勝てた。
いつもながら勝負は一瞬だ。
これでは、心臓がいくらあっても足りやしない。
まぁ今回は、奴等が私達を舐めて掛かってくれたので助かった。
奇襲が成功したから良い物の、
これからは戦略も色々と考えなければなるまい。
すでに、第二戦の時間も迫っている。
さて、どうしたもんだか……
その時、遥子が言った。
「ねぇ? 次は、ハッタリ効かせてみない?」
ん? 遥子が、ハッタリとか言うようになったか……
だが、面白い……
私は、不敵な笑みを浮かべた。
「いいね、それ……」
私達が入場すると、次の対戦相手が目の前にきた。
おもむろに腕を組み、全員で冷ややかに相手を見る。
これが、作戦内容の全てだ。
だが今回ばかりは、その威嚇が予想以上の効果を見せた。
「す……すみません……棄権します……」
相手チームは、顔面蒼白になりながら負けを申告していた。
そして、私達は難なく不戦勝を獲得した。
それが功を奏したのか、3戦4戦と不戦勝が積み重なっていく。
結局そのまま、優勝まで漕ぎ着けてしまった。
ナイス威嚇、と言った所であろうか?
表彰式で賞金とニャーの鏡を受け取ると、
コメントは避けて早々と会場を後にする。
さすがに、これ以上は目立ちたく無かった……
次の日……
朝起きると、何やら外が騒がしい。
何事だ?
女性陣も、私の部屋に雪崩れ込んできた。
「一体、この騒ぎは何? 外が、人で溢れてるわよ?」
「わからん、私も気になっていた所だよ」
その時、安が物凄い勢いで部屋に入った来た。
「旦那! 大変でやす!」
何だ?
驚いていると、安が雑誌らしき物を開いて見せた。
『スクープ! 最強戦! 覇者、津世伊蔵は魔物だった!』
少し離れて居ても見えるほど、デカデカと書いてある。
記事に出るの早いな……
「まぁ、あれじゃさすがに誰でも判るよな……」
タイトルに納得していると、安が首を振った。
「問題は、その横でやすよ!」
何々?
ヨウジョ・ジャパン圧勝? 魔物を瞬殺?
伝説の勇者、遂に現る?
こりゃ参ったな……
無責任に、書き立てないで欲しい物だ……
何やら、ちょっとした騒動が始まりそうな気がした……
案の定、沙耶が訪ねてきた。
「一日で、ずいぶんと有名になったわね」
何と、無責任な……
「困るんだよな、こう言うの……
これで、魔の大陸には余計に行き辛くなったぞ? どうしてくれるんだ?」
それに、笑みを見せた。
「それは、大丈夫よ」
何を根拠に……
「船は、私達が用意するわ。貴方達がいくら有名になろうと関係ないわよ」
なるほどね……
まぁ、その辺りは沙耶に任せるしかないか……
「だけど、この街に紛れ込んでいる奴等からは間違いなく抹殺対象よ。
覚悟はしておいてね?」
また、さっぱりと言いやがる……
「気にしてくれるなら、隠れ家でも用意してくれないか?」
私の質問に、沙耶は笑みを浮かべた。
「また、手伝って欲しい事があるの」
はい?
利用するのも、大概にして欲しいものだ。
その時、遥子が言った。
「それで、報酬は?」
おいおい……
「あぁ、そう言えばコレ……」
私は、荷物の中からニャーの鏡を取り出した。
直径20センチほどの円形の鏡である。
猫をかたどったフザケタデザインは、まるで子供のオモチャにしか見えない……
「一応、元所有者の末裔に返しておくよ」
私が渡すと、首を振った。
「それは、貴方達に持っていて欲しいの。これから役に立つはずよ」
まぁ、確かにそうだが……
下手に、魔物が見える事を宣伝するよりはマシか……
私が考えていると、沙耶が笑みを浮かべた。
「何考えてるか、判ってるわよ」
ん?
「だけど魔物が見えるなんて公になったら、本気で狙われるでしょ?」
何だよ……知ってたのかよ……
ってか、どんだけ収集力あるんだか……
盗聴全力の名前は、伊達じゃないってか……
「それは、フェイクとして使って貰って構わないわ。
それに貴方が持っていた方が、鏡が本物かどうか確かめるのも早そうでしょ?」
まぁ、確かにその通りだ。私は、大きく溜め息をついてから質問した。
「それで、まず何をすれば?」
沙耶は、私に向き直って言った。
「ニャンコ神殿に、行ってくれないかしら?」
また、どこまで行かせる気だよ……
「大体、本当にあるのか? その神殿……」
私が疑いの目を向けると、沙耶が怒るように言った。
「あるわよ! 絶対にあるわ! 私の話が、信じられないとでも言いたいの?」
「いや……そういう訳じゃないんだが……」
まぁ、微妙な事は確かなんだが……
沙耶は、ひとつ溜め息をついて話を続けた。
「サイバエを越えて、さらに北へ行くとオニャン公国があるわ」
やっぱり猫なのね……
「簡単に、行ける場所なのか?」
私の質問に、キョトンとした顔で答える。
「行けないわよ? だから、頼んでるんじゃない」
おいおい……
「ところでオニャン公国は貴族社会で礼節に厳しいのが有名なんだけど、
貴方達は大丈夫かしら?」
沙耶の質問に、私はおもむろに腕を組んだ。
「それは、ちょっと無理じゃないか? 初めて聞いた国の礼節など知る訳が無い。
大体にして、常識なんぞ国によって違うんだろ?
そもそも、冒険者にマナーを求める事自体が間違っている気がするが?」
その答えに、大きく溜め息をつく。
「確かにそうね……それじゃ、またあの二人に手伝わせるわ。
今、デヴォンニャー公爵に連絡を付けているから、もう入国許可が取れている頃よ。
それじゃ、二人が来るまでに出発の準備をしておいてね」
沙耶は、そう告げると早々に部屋を立ち去って行った。
また、急な話だこと……