第三百六節 どこですか~? その6
村長の家を後にした私は、洞窟へ向かいながら聞いてみた。
「ところで君達は、タイムスリップが出来るのか?」
その問いにカモメさんはふと立ち止まって犬ミミに冷たい視線を投げる。
「そうですね……もう、ここまで巻き込んでしまったのですから全てお話しするべきですね」
シュンとした犬ミミを横目に見ながら、カモメさんは続ける。
「時間を移動するのは、コイツの能力なんです。だけど、一人で時間移動を使わせるともうムチャクチャで……それを暴走しないように抑えるのが、この時の砂時計です。私が最初に連れて来られたのは、もう少し先の時代でした。それは本当に酷い世界でした。そこは魔物が神を語り、騙された人々は無益な戦いに明け暮れ荒廃しきった世界だと言われました。その時に、この砂時計を渡されたんです。そしてその能力で時間をさかのぼって魔物を倒せと……だけど、魔物はこの大陸だけでも物凄い数でして……とても、私達だけで倒せるとは思えなくて」
カモメさんは、まるで自信を失うかのように細い声になって行く。
なるほどね~。
「かなり大変なようだな……出来れば協力したい所だが、私は魔王と言われている者を倒さねばならない」
「はい……それは、良く解ってます」
か細い声で答えるカモメさんに、人差し指を立てて続けた。
「だが、一つだけ言える事がある。状況から考えて、私はこの世界の未来から来た事になる。そして私達が居た時代では、神を語る戦略を使うような魔物の話は聞いた事が無い。実際にこの戦略は多くの人間を巻き込むだけに魔物にしてみれば物凄く有効だと思うし、出来れば相手にしたく無い程に厄介だ。だが私がそれを知らないという事は、魔物達はこの戦略を無意識に避けていると言う予測が付く。つまり君達が目的を達成し神を語る魔物を退治し切った事で、この戦略は人間に通用しないと魔物達に知らしめたと言う話に繋がるんだ。それだけでも判っていれば、もう少し前向きに考えられるんじゃないか?」
するとカモメさんは、思い出したように手を叩いて言った。
「あっ、そうか……それって良くある、タイムスリップ物の話ですよね?」
私は頷いて話を続ける。
「まぁ、そう言う事だ。時の流れが変れば、タイムパラドックスが起きても不思議では無い。つまり私達がココへ来たのは、想定内の事象だ。偶然ではなく、必然とも言えるだろう。少なくとも現状では、君達の旅は成功したと言う未来に繋がっている。そうじゃなければ、私達が今こうして存在する事が出来ないからな。だが、これは可能性の一つとも言えるんだ。下手を打てば、あっさりと未来が変るかもしれない」
そんな言葉に、カモメさんはふと笑みを見せた。
「なるほど……わかりました。可能性を信じてみます」
少し希望を取り戻したカモメさんの眼差しに、私は素直に頷いた。
洞窟の前に来た私達は、来た時の状況をカモメさんに話していた。
「それで、気が付いたらココに居たのね?」
「あぁ、間違いなくココだ」
するとカモメさんは、時の砂時計を持って私に言った。
「これを使えば基本的には同じ時代に戻れるんだけど、問題はしっかり場所を特定できるかなの。もし時の砂時計が別の場所にあったとしたら、そこへ飛んでしまう可能性があるの。そう言う意味では、成功率は五分って事になってしまうわ」
その言葉に、私は少し考えてから答えた。
「なかなか厄介だな……少なくとも、敵の真っ只中に戻ったりしない事を祈るよ」
「それは、凄くイヤね……」
おもわず呟いた夕菜さんと顔を見合わせていると、カモメさんが声を上げた。
「とにかくやってみるわ!」
カモメさんは、時の砂時計を地面に置いて様子を伺う。
しばらくすると、砂時計に反応があった。
何かボンヤリと光り出しているような気がする。
すると、カモメさんが声を上げた。
「ん? 反応があるわ……これなら行ける! 帰れるわよ!」
その声で犬ミミは呪文を唱え始める。
何か良く聞こえないが、ヘブライ語のような感じで複雑な呪文のようだ。
犬ミミが静かに手を翳すと、前方にあの歪みが現れた。
それを見て、カモメさんは強く頷く。
「これで道が開いたわ。あまり長くは持たないわよ!」
「わかった。では、行かせてもらうよ。旅の無事を祈っている、二人とも頑張れよ」
そんな私の言葉に、カモメさんは笑みを浮かべる。
「えぇ、私達こそありがとう。貴方達の事は忘れないわ」
私はカモメさんと頷き合ってから、夕菜さんに視線を送る。
「じゃ、行こうか」
そして私達は、来た時と同じように歪みの中へと飲み込まれて行った。