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第三百四節 どこですか~? その4

 やがて頂上に近づくと、かなりの人数と思える声が聞こえてくる。

遠いので何を言っているのか聞き取れないが、かなりドタバタしている感じだ。

深い森の中から静かに覗き込んでみると、大きな丸太で巨大なキャンプファイヤーを

組んでいるようだ。

しかし生贄と言っても魔物が欲しがっているのなら、

まさか人を火あぶりにすると言う事は無いはずだが……

だとすると、コレは単なる儀式用か。

そして、その先にはそれなりに大きな祠のような建物があって、

その前では数人が槍を持って立っているが……

ほう、やはり奴等が魔物か……

注意深く見ていると、村人の中にも魔物が紛れている。

確認できた数は、全部で6体。

さて、どうしたものか……


 見張りを立てて居ると言う事はカモメと言う人は祠の中に居る可能性が高いが、

出来る限り強行突破は避けたい。

無理をすれば、魔物を盲信している村人に危険が及ぶ。

まずは、それを気付かせる事が肝心だろう。

私は犬ミミに聞いてみた。

「さっき言ってた解呪だが、どれだけの範囲で効果があるんだ?」

「ん? もちろん対象は一人だよ?」

少なっ!

「ならば、連続して出来るのか?」

「う~ん……そんなにポンポンは出せないけど、呪文を唱える時間があれば連続で出す事は可能だよ?」

また、微妙だな~……

ならば、手は一つしか無いな。

「これから指示する通りに、連続で解呪を掛けてもらうが大丈夫か?」

それに犬ミミは素直に頷いた。

「うん、それなら大丈夫。任せておいて!」

「では、作戦開始だ!」



 まずは村人に紛れている魔物から指示する。

「最初は、あそこの女性だ。頼む」

私が指差すと、不思議そうに聞いてきた。

「え? 村の人に掛けちゃうの?」

「イイから黙ってやってくれ。今は、あんたの解呪だけが頼りなんだ」

「うん、わかった」

呪文を唱え始めた犬ミミを横目に夕菜に指示を出す。

「村人は、騒ぎながら逃げ出して来るはずだ。向こうから下に降りて皆を非難させてくれ」

「うん、わかったわ」

犬ミミの解呪で一人目がトカゲの魔物に変化すると、村人は目を丸くして凝視している。

「よし、次はあいつだ」

私は紛れていた村人を、ひたすらに指示して行く。

やがて村人達は、次々と現れるトカゲの魔物に驚きパニックに陥った。

「ばっ! 化け物だ~!」

「うわ~! 助けてくれ~!」

その様子に、槍を持って見張りをしていた奴等がそれを納めようと躍起になる。

「よし、今だ。あの槍を持った奴等を頼む」

犬ミミは素直に頷いて解呪をひたすらに唱えた。

慌てて逃げ出してくる村人を、夕菜が山の下へと導いている。

「さて、そろそろだ。行くぞ!」

私と犬ミミは、やや下りの叢の中を真っ直ぐに魔物の元へ走る。

そして剣を引き抜いて、魔物の中へ飛びかかって行った。


 突然の奇襲に一手遅れた奴等は、まさに格好の餌食だ。

左右の横薙ぎだけで、十分にトカゲどもを倒す事が出来た。

その時、祠の障子の様な戸が勢い良く両側にスライドして大きな声が聞こえた。

「いったい、何事だ~!」

中から出てきたのは、やはり神主のような着物を着た奴だった。

腰を抜かして逃げ遅れた村人達は、そいつに向かって必死に祈りを捧げている。

私は、後ろから付いてきた犬ミミに指示を出した。

「奴に解呪だ!」

犬ミミが呪文を唱え始めると、奴も焦ったように呪文を唱え始める。

私は奴に向かって走った。

思い切り放った横薙ぎに驚いて、奴の呪文が中断される。

更に追撃を掛けていると、ようやく奴に変化があった。

犬ミミの解呪で、見る見るトカゲのような魔物の姿へと変化して行く。

この辺りは、トカゲの名産地なのだろうか?

「お……おのれ~!」

奴が唸りを上げたその瞬間、私は渾身の袈裟懸けを放った。

僅かな沈黙の後に、奴が呟く。

「く……口惜しや……この恨み晴らさずには……ぐはっ!」

そのまま大量の血を噴出しながら、うつ伏せに倒れ込んだ。

奴は瀕死の状態でありながらも、僅かに顔を上げてこちらを見ようとしている。

「貴様……いったい」

私は剣を持ち替えて、真上からその頭部に向かって真っ直ぐ降ろした。

「んぎゅぉ!」

その声と共に、奴の縦筋に見えていた瞳孔が開いて行く。ようやく絶命したようだ。

「しつこいんだよ……」

私は一言呟いて、奴から剣を引き抜いた。



 ふと周りを見ると、逃げ遅れた村人が信じられないと言った表情で私を見ている。

なんか面倒だが、ここは締めないとマズイよな~……

私は大きな声で叫んだ。

「これが、あんた達が信じていた神の姿だ! これまで、どれだけ愚かな事をしていたのか十分に解っただろう! 村に戻って、皆に真実を伝えるがイイ!」

それを聞いた村人達は、逃げるように山を駆け下りて行く。

私は彼等を見届けていると、夕菜さんがこちらへ歩いてきた。

軽く手を上げて声を掛けてみる。

「おつかれっ」

笑顔で頷くのを確認してから、大きく息を吐いた。

「さてと……」

改めて、祠の中に視線を移す。

障子のような戸が両側に全開で開いている事もあって、中は明るく部屋の様子が良く判る。

そして正面は祭壇のような飾り付けがしてあって、横に長い箱が置いてあった。

まさか棺桶?

部屋の中を見渡してみると、全て木の板で組まれてある割と大きな部屋だ。

隠れる所は全く無さそうだが、念の為に注意しながら歩みを進める。

後ろから付いてきた犬ミミが言った。

「まさか、あの中に?」

犬ミミが走り出そうとしたので、私は片手を広げて制止する。

「まずは確認だ。何が出てくるか判らない」

「そ……そうだね」

棺桶を確認してみるが、コレと言った仕掛けは無さそうだ。

私はいつでも突きを放てるように剣を構えながら、犬ミミと夕菜さんに言った。

「それじゃ静かに蓋を開けてくれるか?」

その蓋が開いていくと、女性の唸り声が聞こえた。

「カモメ!」

「ちょっと待て!」

私は棺桶の中で縛られた、まるで巫女のような格好をした女性を確認する。

どうやら見た所、魔物では無いようだ。

まずは、口を塞がれた布を外して聞いてみた。

「君は誰だ?」

「私は白井カモメです」

そりゃカモメは白いよな……

試しに犬ミミに聞いてみる。

「何か、二人しか判らない事を聞いてみてくれないか?」

「え? えっと……それじゃ~……今日の下着の色は!」

それにカモメさんは顔を真っ赤にした。

「こんな時に何言ってるのよ! このバカっ!」

その反応を見た犬ミミは、私を見て頷きながら言った。

「うん、本物だよ!」

こらこら……


 縛られていた縄を外して棺桶から出すと、カモメさんは思い出したように言った。

「あっ! そう言えばアイツは? 嫌らしい目付きで、私は神だとか言ってた奴!」

辺りをキョロキョロ見渡しているので、私は入り口の方を指差す。

「あそこに転がってる奴の事か?」

カモメさんはトカゲの残骸を目を丸くして凝視する。

「え? あれは、どう見ても魔物だし……」

「あぁ……あれが、人間に化けてたんだよ」

私がまた指差すと、カモメさんは神妙な表情を浮かべた。

「え? それじゃ、犬ミミが言ってたのって本当だったんだ……」

「だから言ったじゃない! ぜんっぜん信用してくれないんだから!」

まるで駄々をこねるように両手の拳を上下に振りながら言う犬ミミを、

カモメさんは申し訳なさそうに見た。

「ごめん……私は、またフザケテるのかと思って……」

その言葉に、私はおもわず笑った。

「あっ、笑ってるし! 酷いな~、もう!」

私を指差して怒る犬ミミに、冷たい視線を投げてみる。

「そりゃそうだろ? その悪フザケのせいで、斬られそうになったのは誰だっけ?」

「そ……それは」

突然大人しくなった犬ミミに言ってみる。

「これで全て解決だろ? そろそろ元の所に戻してくれないか?」

「え?」

だから、え? じゃないし……

「責任もって、元の所に帰すとか言ってなかったか?」

「そうなんだけど……どうしよう……」

おいおい……

その様子を見ていたカモメさんから、一気にダークなオーラが放たれた。

「あんた、まさか……他の時代から呼んだんじゃないでしょうね?」

「え? いや、その……そうなんです、呼んじゃいました……」

伺いを立てるように呟く犬ミミに、ダークなオーラが全開で放たれる。

「あんたって人は~! あれほど勝手に使うなって言ったじゃないの! それに肝心の時の砂時計は、村人に取られちゃったでしょ! 何やってるのよ!」

時の砂時計? 何かのアイテムか?

「盛り上がってる所悪いが、私達を元の所へ戻せる物が村人の所にあるのか?」

私の問いに、カモメさんは素直に答えた。

「えぇ……そうなんです。だけど、没収されるように取られちゃったので……」

「あぁ、それなら心配ないよ。今頃、村人達の間では魔物の話で大騒ぎになっているはずだ。それを取り返すなら、今しか無いかもしれないな。すぐに村に向かおう」

それに皆は揃って頷いた。












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