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第二百九十六節 まったくね~……

 北の洞窟は馬車で行けば然程時間は掛からないそうで彼等は直ぐにでも出発したい

雰囲気を漂わせていたが、まずは皆の都合も確認しなければならないので

明日の早朝に城の前で待ち合わせる事にしてハカセの宿に戻ってきた。

今は、部屋にあるテーブルを皆で囲むように座って一息ついた所だ。


 まずは、それぞれの都合を確認しなければならない。

リーさんと綿理間将に聞いてみた。

「明日は、何か予定とか入ってますか?」

「えぇ。一緒に行きたいのは山々なんですが、私は動物達の世話がありますからね~。今日のうちには牧場に戻るつもりです」

「ですよね~」

すると綿理間将が続けた。

「馬車が必要になるんでしょ? 僕は暇だから一緒に行くよ」

それはありがたい。

「宜しくお願いします」

私が綿理間将に頭を下げると、リーさんが続けてきた。

「それじゃ、大さんには私からこの事を話しておきます。まぁ皆さんなら大丈夫だとは思っていますが、討伐隊が手も足も出ないのですから相当に凶暴で丈夫な魔物だと思います。十分に気をつけて下さいね」

「ありがとうございます」

リーさんに頭を下げると、今度は綿理間将が続ける。

「いや~、それにしてもあの偽物勇者達は面白いよ~。何か使えないかな~、上手くすれば儲かりそうなんだけどな~?」

そんな疑問に、私はおもわず口走った。

「それなら、まずは芸を覚えさせないとダメなんじゃないですか?」

「芸って……動物じゃないんだからさ」

そう呟いた遥子を、綿理間将はジッと見た。

「動物? 芸? あっ! そうか!」

何か思いついたようだが、まさか本当に仕込もうってのか?

「そうだよ! つまりあれは勇者って言う珍しい動物だと思えばイイんだよ! それを見せて歩けば、けっこう儲かるんじゃない?」

見世物小屋かよ……

「いや、それは人道的に反する気がするんですが……」

すると笑みを浮かべながら片手を顔の前で左右に振る。

「いやいや、別に鞭でピシピシしながら火の輪くぐりとかさせる訳じゃないよ?」

それにしては、やる気満々な目付きでしたが……

「つまり勇者を見たいって人は沢山要る筈だから、その機会を作ってあげるのさ。そこで握手とかサインとかすれば、なかなか面白い催し物になるんじゃない?」

あぁ、つまり芸能人化する訳か。

ん? ちょっと待てよ?

もしそれが可能なら、奴等の行動も制御できるって事だよな?

「あの、もしそれが可能ならその催し物を全て管理して頂けるんですよね?」

「うん、そうだね。彼等が率先して、そんな商談をしそうな雰囲気は無いしね~」

「では彼等の動きと安全を、それで管理して頂けませんか?」

「うん、それは構わないけど……彼等が何て言うかな~。僕が管理しますって言っても納得しそうに無いよ?」

「それなら、彼等には管理ではなく案内人として紹介すれば納得すると思います」

「あぁ、なるほどね~。案内人か~。これは面白くなりそうだよ?」

あの、なんか凄く悪人の目になってるんですが……



「では、そろそろ私は行きますね」

暗くなる前には牧場に戻りたいそうなので、宿の入り口まで皆で出て行く。

馬車の準備を済ませたリーさんが言った。

「本当に楽しかったです。綿理間さん、またお会いしましょう。皆さんもどうかお気をつけて、ご無事をお祈りしています」

そして私達は手を振り合って、リーさんの馬車を見送った。


 やがて馬車が見えなくなると、綿理間将が呟いた。

「いっちゃったね~」

「ですね~」

私が相槌を打つと、ふと私を見て言った。

「お腹すかない?」

「え? すきました?」

「うん。お腹すいた人、手あげて~」

綿理間将と一緒に振り向くと、見事に全員が手を上げていた。

「よし、決まりだね。僕が行きたい所でイイよね~? さぁ、食べに行こう~!」

意気揚々と歩き出す皆を、私は半ば呆れ顔で見ながら付いて行った。



 皆で先ほど買い物をしていた商店街を歩いて行くと、綿理間将がふと指差した。

「ここだよ」

その看板を読んで、しばし固まってしまった。

『明度喫茶』

字が違うし……


 その入り口は、いきなり狭い階段になっている。

どうやら店は、この階段を上がった所らしい。

何やら、雑居ビル的な作りである。

狭い階段を綿理間将に付いて行くと、それを上がりきった右側に入り口が見えた。

綿理間将がその扉を開けると、カランカランと音が響く。

その瞬間に中から黄色い声が聞こえた。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

やっぱり、そうなのね……

呆れながら中を覗いて見て、おもわず目を背けた。

何だ、この明るさは?

どう光っているのか良く解らないが、中が異常なくらいに明るい。

片手で光を遮りながら中を見てみると、これまたショッキングピンクや

蛍光イエローのメイド服を着た店員がうろついていた。

明度って、そっちかよ……

「お席にご案内しま~す」

言われるままに付いて行きながら他の席を見渡すと、

鼻の下を伸ばした貴族達がメイドを凝視している。

「ここイイでしょ~? 皆、可愛いでしょ~?」

綿理間将は、すでにデレデレモードである。

確かこの人、自分で美食家とか言ってなかったか?

まったく、どっちが目的なんだか……


 試しにメニューを見てみるが、全く意味不明である。

『らぶびーむケーキ 5500エン

すーぱーどりーみーむむスペシャル 6200エン

みるきーどろりっしゅアタック 6800エン

テラすらっしゅ光線 7500エン

秘技かいてん飛空脚 8800エン……』

おいおい、だんだん必殺技みたいになってきたぞ……ってか、どんどん高くなってるし!

もはや何を頼んで良いのか全く解らないので、メニューを綿理間将に渡して全て任せた。

すでに綿理間将は、メイドと話したくて仕方ないようなので丁度良いだろう。



 しばらくするとメイドが、何やら黄色っぽい物体がやたらと重なった皿を運んできた。

「お待たせしました、らぶびーむケーキです」

何? その高さは……30センチ近くあるんじゃね?

それが目の前に置かれたので良く見てみると、

どうやらホットケーキのような感じの食べ物らしい。

おもわず何段重なっているのか数えてみると、18枚のようだ。

しかし、その皿はどんどんと運ばれてきて、私達それぞれの目の前に置かれた。

え? まさか、これ一人分なの?

量が異様に多い事は認めるが、普通はこんなに食べないだろうよ。何を考えてるんだ?

理解に苦しみながら私がそれを見つめていると、メイドは木で出来た小さな容器を

皿の上で構えながら言った。

「ウサギさんがイイですか? クマさんがイイですか?」

「いや……普通にお願いします」

すると綿理間将が続けてくる。

「もう、ノリが悪いな~。ウサギちゃんでお願いしま~しゅ」

ダメだこりゃ……

やがてホットケーキの上に蜂蜜のようなトロトロの液体で、幼稚園児が書いたような

謎の動物が描かれた。

「ウサギさん、出来ました~!」

いや、それは絶対に違うだろ!

強いて言えば、宇宙人のグレイにとても良く似てるんですが……


 さっきから、妙に甘えた綿理間将が気味悪い……

だが他の客である貴族達を見渡すと、同じようにメイドに甘えている人ばかりだ。

ここは、こう言うのが規則なのだろうか?

私達は、皆で顔を見合わせて呆れるしかなかった。


 とりあえずパンケーキらしき物を食べてみると、ごく普通の味である。

確かに問題なく食べられる味だが、さすがに18枚は多いだろう。

しかし横を見ると安達はサクサク食べていて、すでに完食しそうな勢いだ。

私は半分近く残ったホットケーキを指差して言った。

「なぁ、食べるか?」

それに安は目を輝かせた。

「え? イイんでやすか?」

おいおい、まだ行けるのかよ……

すると、遥子が続けた。

「あっ、あたしも食べきれないわ」

「それならあたしが貰います!」

「あっ私も!」

コイツ等、本当に良く食べるな~……

しかし、これに5500エンとは……いったい幾等になるんだよ!

何気に飲み物も出てきたから、普通に4万超えるぞ?

まぁ綿理間将が払うそうだから別にイイけど……



 皆が食べ終わって落ち着いた頃に言ってみた。

「さて、そろそろ出ます?」

すると、涙目状態で私を凝視した。

「え? もう行っちゃうの? そんな寂しい事言わないで!」

そのキャラは誰だよ!

「まぁ、まだ居たいのならば構いませんが……」

そう答えると、突然嬉しそうにメイドに声を掛けた。

「すみません! みるきーどろりっしゅアタック、追加お願いしましゅ!」

まだ食べるのかよ!


 みるきーどろりっしゅアタックと言う甘そうで巨大なパフェを食べ終わると、

ようやく気が済んだようで綿理間将は満足そうに店の入り口で会計を済ませている。

その近くで待っていると、ふと奥にスタッフルームが見えた。

中で数人のメイドが話をしているようだが、意外に近い所に立っていたので

その会話が聞こえてきた。

ちょっと興味が湧いたので、少し聞き耳を立ててみる。

「ったく! やってらんね~ってんだよ! 何だよ、あのクソ貴族は! 手なんか握りやがってよっ! 調子こいてんじゃね~ってんだよ!」

「アンタもやられたんだ! ベタベタな手で触るなってんだよな!」

あらま~、なかなか強烈な舞台裏ですね……

まぁ綿理間将の事で無いようなので、一安心だ。

その時、一人のメイドが私の視線に気付いて目を丸くしている。

それを見た他のメイド達もこちらに視線を送って目を丸くしたが、

次の瞬間には揃って満面の笑顔に戻っていた。

そそくさとメイド達が私の横を通り過ぎる時、笑みを浮かべて声を掛けてみる。

「大変ですね、お疲れ様です」

「あ……ありがとうございます~……」

申し訳なさそうな表情を浮かべながらも私に悪意が無い事は伝わったようで、

揃って安心した表情を浮かべていた。












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