第二十九節 オッサンの視線 不毛輝の場合
俺様の名は、不毛輝。
出身は、チョイワル族。傭兵をやってる。
今年も運がねぇぜ、まんまとAブロックに入っちまった。
まぁクジ運の悪さだけは、何時まで経っても変わらねぇな……
人生もそうだ。大体にして、この俺様がこんな所でくすぶってるのがおかしいってんだ。
そもそもな……
あ……今は、それどころじゃねぇ。その話は今度だ、すまねぇな。
この、第1試合だけは見逃せねぇ。
ここの闘技場は、一般的な円形の構図だが、
馬車のレースも開催するくらいだ。
その広さは、半端じゃねぇ。
遠くの席になんて居たら、何も見えねぇってもんさ。
普段は滅多に客席なんて来ないんだが、バッチリ見える席に座れたぜ。
まぁ、こんなもんは簡単だ。ちょいと脅して……いや、交渉してだ。
そりゃもう、好意的に譲ってくれたのよ。
まぁ、これも俺様の人徳ってやつかな?
しかし、あいつ等も運が悪いよな。
クジの受付で声をかけてきた奴なんで応援してやりてぇが、
こちとらそうも行かねぇ。
奴には可哀想だが、じっくり戦略を練らせてもらうぜ。
奴が声かけてきた時は、そりゃ驚いたさ。
何も知らねぇで、出場しようってんだから大したもんよ。
まぁ、見た感じは優男って風体でよ。
どこの種族だか知らねぇが、とても強そうには見えねんだ。
何? 本当に、覚えてるかだと?
あったりめえよ!
あんな黒髪は、この辺りじゃ珍しいんだ!
それも、あんなに女ばっかり連れやがって……
忘れようにも、忘れられねぇってんだ!
ちくしょうめ!
まったく、羨ましい限りだぜ……
それでも、お嬢ちゃんばかりなのが救いだが、あの隣に居る女だけは別格だ。
あのクリっとした目に、気の強そうな感じがたまらんね。
あんな美人は、そうそう居ねぇってもんだ!
俺様が見ても、惚れちまいそうだぜ!
おっと……そんなこたぁどうでもいい。
どうせ奴等、すぐに殺されちまうんだ。
可哀想によ……
ん? 何故、止めないって?
何? 俺様が悪いだと?
いや、まてまて……俺様は、ちゃんと棄権を勧めたんだぜ?
だが、全然聞かねぇのよ。あいつ等!
また、奴の言い分がこうだ。
「大丈夫ですよ、危なくなったら逃げますんで」
って、無理だっつ~の!
一体、どこに逃げるってんだよ!
鬼ごっこじゃねぇってんだ! まったく……
おっと、そろそろ始まるぜ。良く見ておかなきゃな……
しかしあの兄ちゃん、どこで手に入れたかしらねぇが、いい鎧を付けてやがった。
まさか、本当は強いんじゃ?
いや……まさかな……
まずは、前年度の覇者から入場だ。
物凄い歓声だぜ、うるせぇったらねぇな!
その名も、津世伊蔵十字団。
あの堂々とした風情が気にいらねぇが、そいつぁ伊達じゃねぇ。
奴等、間違いなく強い。
今じゃ、この大会のお陰で確固たる名声を得やがった。
噂に聞いた所によっちゃぁ、どこの国からも引っ張り凧だって言いやがる。
まぁ敵陣に奴等が現れたら、そりゃ兵士だってビビッちまうだろうよ。
お?
兄ちゃん達が、入ってきたぜ。
その名も、ヨウジョ・ジャパンだそうだ。
まったく、ふざけてるぜ。
だが、何だ?
ヤッコサン、ビビッてねぇのか?
ニヤけてやがる……
知らないってのは、怖いねぇ……
いよいよ、始まったぜぇ。
さぁて、どう攻める?
まず、真っ向勝負じゃ無理だ。
それでアッサリ殺された奴は、もう数え切れねぇ。
ん? 滅多に死なないはずだと?
あぁ……そりゃ、奴等が有名になってからの話だ。
最初は知らねぇからよ、皆して景気良く飛び込んで行ったさ。
それで、知ってる奴が何人も死んだ。
あんな残酷な野郎は、戦場でもお目にかかった事ねぇよ。
それからは、もう奴等と当たると皆で棄権さ。
命が大事なら、それが一番いいのさ。
だが、今年の俺様は一味違うぜ。
ん? 何? 試合はどうなった?
おぉ、そうだな……
……
あぁ、すまん……
だがよ……
いったい、どうなってるんだ?
奴と、真っ向から打ち合ってるなんて、こんな光景は……
それに、良く見てみろよ!
十字団は、もう伊蔵だけしか残ってねぇじゃねぇか!
そんな馬鹿な!
うわ! 眩しいじゃねぇか!
何だ? 姉ちゃんの魔法か?
おい……嘘だろ……奴の首が無ぇ……
勝っちまったよ……
え? おいおい……嘘だろ?
何だよ、あの首から生えてるのは!
げ! 化け物になっちまった!
あいつ等、さすがに逃げないと……
あ、斬っちまった……
……
わりぃ……もう、良く判らなねぇや……
今日は、帰るわ……