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第二百八十九節 勇者ね~……その3

 とりあえず派手な一行が通り過ぎるのを見守っていると、見に来ていた人々が

自然と散り始めた。

それを見た騎士団達も、徐々にオバター城へと引き返し始めている。

私達はその流れが途切れるのを見計らって、大きな石のブロックから降りた。

「さて……行きますか~」

私が溜め息混じりに言うと、リーさんが同情したように答えた。

「まぁ彼等の命を救うと思えば、ひとまずは……」

何か納得が行かないが、このまま放置したら多分奴等は素直に死ぬだろう。

まぁ、行くしか無いか……


 行き先は決まっているが、その姿が何とか見える程度の距離を保って

派手な勇者一行に付いて歩きながら町外れまでくると先導していた騎士達が戻ってきた。

何だ? サポート無しで戦いに行こうって言うのか?

いや、それはあまりに無茶だろうよ。

アイツ等、死ぬつもりか?

だが遠めで3人を見る限り、そんな切羽詰った緊張感は感じられない。

ならば、何だ?

まさか最低限の予測さえも出来ていないのに、未知の相手に突撃しようってのか?

ありえない……

「これ、本当に誰か死にますね。安の夢も気になります」

私が呟くと、リーさんは静かに頷いた。

「えぇ、あれを見て私も確信に変りました。彼等を止めますか?」

すると、綿理間将が珍しく真面目な表情を浮かべて言った。

「でもさ、まだ相手が何者か判らないんでしょ? それに僕達が説得したって、奴等そんな事を聞きゃしないでしょ。なら、このまま少し様子を見るしか無いんじゃない? まずはどんな相手かを見極めないと助けようが無いし、下手すれば共倒れだよ?」

「確かに……」

ひとまずは、このまま様子を伺うしか手は無いか……



 幽霊屋敷に辿り着くと、派手な一行は慎重に家の様子を伺いながら見回っている。

だが、ここから見る限り外には仕掛けらしい物は無さそうに思えるのだが……


 やがて派手な一行は何か納得した様子で、剣を引き抜いて扉の両サイドに立つ。

あれ? 確か、まだその扉は良く調べて無いだろ?

もう踏み込むって、ちょっと軽率じゃないか?

「これって、ヤバくありません?」

私が言うと、リーさんも続けた。

「はい、いくら何でもちょっと仕掛けが早過ぎますよ。もしや彼等には、実戦経験が無いのかもしれません。これは危ないですね」

リーさんの言葉で一斉に足を速めるが、そこに付く前に一行は踏み込んでしまった。

「ヤバ……これは行くしかないぞ!」

私の掛け声と共に、皆で一斉に走り出した。

頼む……頼むから、間に合ってくれ!


 皆で一斉に家の中に踏み込むと、ギンギラの鎧を着た剣士が

壁から半身をヌゥっと出して人差し指を立てている化け物に斬り掛ろうとしていた。

「バカ! やめろ~!」

私は大声で叫んだが、その声が届く事は無かった。

その指から発せられた白い光がギンギラの剣士に触れた瞬間に

膝から崩れるように倒れて行く。

「くそ、遅かったか……」

残された派手な女性と魔法使いが、倒れた剣士に駆け寄る。

「あぁ、なんて事! 幾代! 返事をして!」

だが、今は感傷に浸っている場合では無い。

「おい、今すぐ壁から離れろ! お前等も殺されるぞ!」

何が起きているのかイマイチ理解できていないようだが、

さすがに身の危険は感じたようですぐにそこから離れた。

「お前等、すぐにここから出ろ! 邪魔だ!」

私が怒鳴りつけると、目を丸くして驚きながらも扉から出て行く。

「安! 奴の場所は解るか!」

その声に反応するように、安はビッ壁を指差して叫ぶ。

「旦那! そこでやす!」

壁からヌゥっと出てきたが、皆で回避すると奴はそのまま様子を伺っている。

なるほど……奴は、近距離専門か。

「安! ダークウィップだ!」

「がってんでやす! ダークウィップ!」

2本の黒い鞭が化け物を捕らえたと思ったが、

それは化け物をすり抜けて壁を思いっきり破壊してしまった。

すでにそこには化け物の姿が見当たらない。

「ダメか……」

しかし何だ? あの気味の悪い奴は……

アラブの人が着ているような白い服装だったが、顔は影のように真っ黒だった。

僅かに目が光っているような気がしたが、それ以外は全く判別が出来なかった。

魔物なのか幽霊なのかイマイチ解らないが、即死魔法で攻撃してくる事は間違いない。

さて、どうする?

確か遥子が、指を立てた瞬間が無防備だって言ったよな。

ならば……

私は銃をホルスターに入れた状態のままで、静かにハンマーを起こしながら言った。

「どこから出てくるか判らない、遥子達は下を見ていてくれ。安、壁から出てきたらすぐに教えてくれ」

「がってんでやす」

私達は皆で部屋の中央に集まって、それが出てくるのを待った。


「そこでやす!」

安が指差した方向に視線を送ると、また壁からヌゥっと化け物が出てきた。

私は、そのままユックリと化け物に歩み寄る。

「ちょっと! あんた、何しようって言うのよ!」

遥子の怒鳴り声が後ろから響く中、私は化け物を見つめたまま歩みを進めた。

徐々に近づきながら、即死魔法を放つタイミングを待つ。

かなり至近距離までくると、化け物はおもむろに人差し指を立てた。

素早く腰から銃を抜いて両手で構えたその瞬間に、化け物の額に向けて引き金を引く。

甲高い金属音を響かせて銃が真上に跳ね上がると同時に、

奴の頭は爆発を起こしたように粉砕し液状化しながら後ろの壁へ吹っ飛んだ。

「これで終わりだ!」

私は追撃をかけるように3発連射すると、化け物は銃の衝撃でビタンビタンと

壁に叩きつけられている。

ほぼ原形を失った化け物は、壁から滑り落ちるようにズルリと床に落ちた。

やがてその形は完全に崩れ去り、気味の悪いドス黒いゲル状に変化してしまった。

大きく息を付きながら後ろを振り向くと、遥子達は物凄く嫌そうな表情を浮かべて

そのゲル状の物体を見ていた。


 しばらくするとリーさんと綿理間将が、はっ! と顔を見合わせて

倒れたギンギラの人に駆け寄った。

上半身をリーさんが持って、足を抱えるように綿理間将が持つと安や伊代達も駆け寄る。

掛け声に合わせて軽々と持ち上げると、そのまま家を出て行く。

すると、外に居た派手な二人が駆け寄ってきた。

「幾代! しっかりして! お願い、目を開けてよ~!」

「なんと言う事じゃ……こんな事になるなんて」

多分あの様子では、もう息は無いだろう。

ギンギラの戦士の横で嘆く二人を遥子と家の中から見ているが、

とてもかける言葉など見つかりそうもない。


 その時、鼻を突く異臭が気になった。

ゲル状の物体に少し顔を近づけてみるが、どうやらそれでは無いらしい。

ならば、これは何の臭いだ?

私は奥へ続く扉に視線を送った。もしや、あの中か?

銃のハンマーを起こしながらその扉へと近づいて行く。

そして一息置いてから、扉を一気に開けた。

うわっ! 何だこの臭いは!

私が仰け反りながら条件反射のように口元を手で覆うと、遥子が怒鳴るように言った。

「何! この臭い!」

もはや、どう表現したら良いか解らないほど酷い臭いだ。

そこは部屋になっているようだが、やたらに暗くて全く見通しが利かない。

目を慣らしながら静かにそこを覗いて込んでみて、その悪臭の元が何であるか理解できた。

おもわず吐き気を催しながら扉を閉める。

私は銃をホルスターに納めながら呟いた。

「これは、酷い……」

そこには、腐り果てた大量の死体が無造作に転がっていたのだ。

「ねぇ? そこに、何かあるの?」

遥子も口元を手で覆いながらこちらに来ようとしたので、私は振り向きながら首を振ると

何かを察したように静かに頷いた。


 私は、遥子に聞いてみる。

「なぁ、その化け物の残骸を燃やせるか?」

ゲル状の物体を指差すと、不思議そうにしながらも答えた。

「えぇ、出来るけど……でも多分、家ごと燃えちゃうわよ?」

「そうか、頼む。燃やしてくれ」

それに一瞬、え? と言う表情を浮かべたが素直に頷いた。

「わかったわ、燃やしましょう」



 遥子の魔法で、ゲル状の液体が燃え上がるのを確認してから私達は幽霊屋敷を出る。

そして外で待っていた皆に言った。

「ここは危ないです。もう少し離れましょう」

ギンギラの戦士を皆で抱えて、私達は燃え逝く幽霊屋敷から離れた。


 安全そうな場所まで来てから、私はギンギラの戦士の首筋に手を当てる。

やはり脈が無い……だが、まだ暖かいぞ?

まだこの人が倒れてから10分も経っていないはず、もしや……

「伊代! その剣で、電撃を放ってくれ!」

「え? 大丈夫なんですか?」

驚く伊代に、私は続けた。

「あぁ、心臓が動く切欠を与えるんだ! すぐに頼む!」

剣を引き抜いて電撃を放つと、まるで感電するように鎧を伝わって

ギンギラの戦士の身体が跳ね上がる。

私はすぐに駆け寄ってギンギラな鎧の胸当てを外しながら声を上げた。

「遥子! 人工呼吸できるか?」

「え? あたし? でも……この際、仕方ないわね……」

何か諦めたように、ギンギラの戦士の横に座る。

遥子が口から空気を送り込むのを確認して、私は声を出して胸を押し込むように

心臓マッサージを試みる。

「1、2、3、4……」

15まで数えると、遥子がまた口から空気を送り込む。

私達は、ひたすらに蘇生術を試みていた。


 時折、目に痛みが走り開ける事が出来なくなる。

どうやら私は汗だくになっているようだが、今はそんな事を気にしている場合では無い。

私は、ひたすらに心臓マッサージを続けた。

少しでも望みがある限り……

……



 私達は、激しく燃えさかる幽霊屋敷を皆で遠くから見つめている。

やはり、あの即死魔法は強力なようで蘇生術を試みても全く息を吹き返す様子は無かった。

私が心臓マッサージの手を止めた頃には、もはや誰も言葉が見つからない状態だった。


 ふと残りの二人を見ると、完全に意気消沈しているようで

ギンギラの戦士の横に座ったままずっと下を向いている。

私は遥子に聞いてみた。

「なぁ、あの桃って馬車の中か?」

それに少し首を傾げて答えた。

「えぇ、そうだけど?」

そう言った直後に、私を思いっきり睨みつけた。

「まさか、アレを使うつもり?」

「あぁ……この際、仕方ないだろう」

すると遥子は、大きく溜め息をついて頭を抱えながら首を振っている。

「まさか、こんなに早く使う羽目になるなんて……」

やがて何かを吹っ切ったように、フンっと息をついてから怒鳴るように言った。

「もう、どうせ使うなら早い方がイイわ。すぐにでも戻りましょう。一気に移動するわよ! 皆あたしの側に来て! ほら、早く!」

ギンギラの戦士を丸く囲むように、私達は側に寄り添う。

「それじゃ、行くわよ!」

そして私達は白い光に包まれて、大さんの牧場へ瞬間移動した。












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