第二百八十五節 オバ帝国ですね~……その3
宿に戻った私は、金銀の斧と交換してきたライフルを操作してみている。
銃身はかなり長く、綺麗なラインの木製ストックが付いている。
そして、なんと驚く事にスコープ付だ。
だが、覗いても何も見えないのは困ったものである。
普通に考えればスコープなんて望遠鏡の応用だと思うのだが、何がいけないのだろうか?
色々とイジっていると、良く見るボルトアクションの長物の銃に似ているのだが
何か操作に違和感を覚える。
どうやら私が知っているスナイパーライフルとは若干操作法が違うようだ。
とりあえず普通に操作してみると、発射に関しての動作は同じようで
ボルトを引いてから引き金を引くと、中で金属の打撃音がしている。
問題なく機能しているようなので、壊れてはいないだろう。
普通ならここでボルトを引けば薬莢が排出されるはずなのだが、何度引いても
薬莢は出てこない。
だがボルトを引いた状態で中を覗いてみると、一つの薬莢が入ったままだ。
となると、これも弾の交換は必要ないと言う事なのだろう。
しかし少なくともどこかに薬莢を排出するレバーがあるはずなのだが、
これと言った突起は見当たらない。
不思議に思いながらも、他に操作できる所が無いか探していると
木製ストックの前方側面に小さな四角い蓋を埋め込んだような部分がある。
もしや、これがそうか?
爪で引っ掛けてみようと試みるが、やたらにピッチリしていて取っ掛かりが無い。
となるとだ……引いてダメなら押してみなと……
何気にその部分を押してみると、カチッと言う音と共に開いた。
へぇ、良く出来てるじゃん。
私は構造に感心しながら、その中を良く覗き込む。
すると、綺麗に畳まれたレバーがあった。
なるほどね……
ボルトを引いた状態を維持したままで、そのレバーを手前に動かしてみると
中に埋まっていた薬莢がヒョコっと後ろに押し出されるように出てきた。
とりあえず出てきた薬莢をバラしてみると、思った通り中に水晶は入っていないようだ。
「ほう……なるほどね~」
やはり中には、小さな魔法陣が刻印されているようだ。
薬莢を覗きこんでいると、後ろから声がした。
「それで? それ、使えそうな訳?」
遥子が、薬莢を一緒に覗きながら聞いてくる。
「う~ん……どうやら前に貰った水晶とは、全くサイズが違うようだ。このまま入れても中でカラカラ動いてしまうだろうから、多分使えないだろうな~。それとこのスコープらしい物を覗いても、どう言う訳か何も見えないんだよ。また呼び出して聞いた方が早いかもしれないな」
「ふ~ん……なら、さっさと呼び出したら?」
「そうだな、確かにその通りだ。入り口辺りで呼び出してみるか」
私はそのまま、薬莢を元の状態に組み直した。
私達は宿の敷地に移動して、コンパクトを取り出す。
ひとまず表示が出ていない所を見ると、食事中では無いらしい。
赤いボタンを押し込むと、辺りに稲妻が落ちたように激しく光が走る。
そして目の前に綿理間将の馬車が現れた。
「ん? ここ、どこ?」
不思議そうに辺りを見渡している綿理間将に言った。
「また、いきなりですみません。ここはオバター城の近くにある宿です」
「へぇ、オバ帝国か~。そのうち行こうと思ってたから丁度イイよ」
そう言いながら私を見てビッと指を差す。
「あっ! それ手に入れたんだね! やっぱり、まだあったんだ」
「えぇ。それでちょっと見てみたんですが水晶のサイズも違うようですし、このままじゃ使えない部品もあるようなんです。見て頂けますか?」
「うん、イイよ! それじゃ、馬車に上がっておいでよ」
階段状の台を降ろすのを待って私達が馬車に乗り込むと、綿理間将は作業台を起動させて座った。
「それじゃ、見てみようか」
その言葉に、素直にライフルを渡す。
そしてスコープを覗き込むように見ると、何か納得したように頷いた。
「なるほどね、これも魔力が切れちゃってるんだよ。この上の部分に入ってるはずなんだ」
スコープの上にある丸い蓋を回して外すと、中からギンナンの剥き身のような
緑色の丸い石が出てきた。
「それは何です? 浮遊鉱石に似てますね」
「そうだね。良く似てるんだけど、これは魔道鉱石と言ってね、空を飛んだりはしないんだけど注入した魔力を増幅して長く保存しておく事が出来るんだ。ヨウジョ国で良く採れるんだよ」
その言葉に翔子が反応した。
「あっ! それなら知ってます。魔力を注入するお手伝いをした事ありますので」
「へぇ、そうなんだ。じゃ、やり方解るよね。ちょっと注入してくれる?」
翔子は石を両手で包み込むんで静かに目を閉じると、
その手からぼんやりと青い光が溢れてきた。
私達が様子を伺っていると、突然に包み込んだ両手をどけた。
「出来ました、これで大丈夫です」
「え? もう終わったの?」
「ええ、これ小さいですから。もっと大きいのは時間掛かりますよ」
「へぇ、そうなんだ」
そんなやり取りをしている間に、綿理間将はその石を組み込んでスコープを覗いている。
「よ~し、動いたぞ。次は水晶だね」
おもむろに立ち上がると、後ろの棚を漁り始める。
「確かね~、この辺りにあったんだよね~……おっかしいな~」
どうやら、また見つからないようだ。
素直に探し当てられないのは恒例の事らしい。
「ん? お! あった! これだ~」
そう言って、以前水晶の弾が入っていた箱とソックリな箱を取り出した。
いや、その違いが解るって逆に凄いんですが……
綿理間将が箱を開けると、そこには一回り大きな楕円形の水晶が沢山入っている。
それを一つ取り出して薬莢に詰め込んで銃に組み込むと、銃を一度構えながら言った。
「うん、大丈夫。それにしても、これは良く出来てるね~」
そう言いながら私に銃を縦にして私に渡してくる。
「まぁ見てごらんよ、ここを切り替えると暗闇でも見えるよ」
「え? 暗視付きですか?」
私は驚きながら銃を構えてスコープを覗き込むと、十字が刻まれた普通のスコープだ。
そしておもむろに丸いダイヤルを回すと、全体が緑色に切り替わった。。
視線をズラして裸眼と見比べると、暗い所がバッチリ見えている。
確かに暗視機能が働いているようだ。
そしてスイッチを切り替えると、また辺りが普通に戻った。
「へぇ、これは凄いですね」
私が感心していると、綿理間将は笑みを浮かべて言った。
「さて、どこで試したらイイかな~?」
そのまま馬車を降りて辺りを見渡しているので、私達も付いていく。
そして、ふと遥か遠くを指差した。
「あの山なんて、どう?」
「え? 届いちゃいます?」
驚いて聞き返すと、素直に頷いた。
「きっと大丈夫だよ。撃ってみれば?」
立ったままの構えは少し辛いが、座って構えても遠くの山は見えない。
まぁ、このまま撃つしかないか。
まずは適当に構えてみると相当の重量があって、
ちょっと気を抜いただけでも手ブレが凄い。
きっと、金属を多用しているのだろう。電動ガンのように楽はさせてくれないようだ。
ちょっと真面目に構えないとダメだな。
私は一度銃口を下に向けた。
さて……
右手でグリップを握って、下に向けた銃全体の重みを支える。
ストックを肩に付けながら、銃の少し前方に下から左手を添えて押し上げる。
頬を銃に付ける様にスコープを覗き込むと、遠くの山が見えた。
それほど倍率は高く無いみたいだな……
私が狙っていると、綿理間将が近づいてきて言った。
「それじゃ見難いでしょ。この丸いのを回してごらんよ」
私が視線を外して指差している位置を確認すると、スコープの手前に
本体と一体化したダイヤルがあった。
素直に頷いてダイヤル回してみると、遠くの山が一気に近づいてきた。
「おぉ!」
倍率が調整機能で急激に上がったので、おもわず驚いてしまった。
「凄いですね、コレ」
スコープを覗きながら言った私に、綿理間将が答える。
「本当に良く出来てるよ~、これならどこでも狙えるよね」
倍率の上がったスコープで遥か彼方の木に合わせるが、さすがにこの倍率では
手ブレも相当に多くなってしまう。
少し脇を締めて静かに息を吐きながら身体を安定させると、手ブレが収まってきた。
よし、これなら行ける。
私は、そのまま引き金を引いた。
激しい金属音と共に銃身が跳ね上がって、私の身体が大きく仰け反った。
これは凄い威力だ……何とかこらえたが、下手に構えて撃ったら怪我をしそうな勢いだぞ。
一息ついてから、その銃身を元に戻してまたスコープを覗き込む。
そして私が狙った木を見つけて、呟くように声を漏らした。
「おぉ……当たってるよ……」
それに遥子が驚いた声を上げた。
「え? まさか、あんな遠くを狙って当たったの?」
「あぁ、狙ったのは間違いなくあの木だ。見事に穴が開いてるよ」
「へぇ……凄いじゃないの」
私達は顔を見合わせて、いつしか不敵な笑みを浮かべあっていた。