第二百八十四節 オバ帝国の視線 鷺戸夕菜の場合 その2
何? 一体、何なの?
永遠に続くかと思われた、お披露目パーティーから開放されたのはイイけどさ。
網目様に呼び出されたと思ったら、イキナリ明日出発しろって意味わかんない!
それも、行き先が噂の幽霊屋敷ってどう言う事?
そもそも幽霊なんて相手に出来る訳無いじゃないのよ!
大体からして、あたしは勇者じゃないっつぅの!
その辺、解ってるのかしら?
あたしがブツブツ言ってると、幾代さんが声を掛けてきた。
「もう明日の準備は整ったのか?」
それに大きく溜め息をついた。
「幾代さん……あたし達、何でこんな恥ずかしいカッコで行かなきゃならないの?」
「それは、カカア様のご意向なのだから致し方無いだろう。私は、それに従うまでだ。だが……確かに、それは酷いな……」
何か幾代さんに、可哀想な子を見るような目付きで見られてしまった。
それも、そのはずよ……
古い文献の記述を参考に特別に誂えた勇者の鎧を着られるって話だったんだけど、
これで行けって言われて渡された鎧を試しに着てみてビックリしたわ!
だって、さっきのパーティーで着てたのなんて比較にならない位に恥ずかしいんだもの!
鎧らしい部分と言えば肩に付いてる飾りのような金属と、
腰周りの後ろでヒラヒラしてる薄い金属だけ。
膝から下だけこんな頑丈そうなの履いてても、全く無駄だと思うのよね!
お腹は思いっきり丸出しで、太ももまでモロに露出しまくり。
これじゃ、下着姿で歩いてるようなもんじゃないの!
いったい、どこにこんな記述が載ってたって言うのよ!
まさか、こんなカッコで練り歩くハメになるなんて……
あぁ……あたし、素直に死にたいわ。
頭を抱えて嘆いていると、幾代さんは大きく息を付いて言った。
「まぁ……私も、こんなギラギラした派手な鎧は好みでは無いよ。だが、これも重要な任務だ。耐えるしか無いだろう?」
「だって……」
あたしが言いかけると、幾代さんはふと笑みを浮かべた。
「言いたい事は良く解る。だがな~……こればかりは、どうにもならないさ。この鎧も、カカア様が特別に用意した物らしいぞ?」
「え? それ本当なの?」
驚いて問いかけると、幾代さんは深く頷いて続けた。
「あぁ、私もさすがにこのド派手な鎧には納得が行かなくてな。これを持ってきた者を締め上げて聞き出したのだが、やはりカカア様からの特注品だと言う事だった。そもそも、こんな気の狂ったような鎧なんて今まで見た事が無かろう?」
なによ、それ……
それじゃコレが嫌だって言ったら、あたしってもしかして反逆罪?
もう、何よそれ……
本当に死にたくなってきたわ……
その時、ジジィが言ったの。
「ふぉっふぉっふぉ、全くエロい娘じゃのぅ。先が思いやられるわい」
その瞬間に、剣を引き抜いて思いっきりジジィに飛び掛かると
あたしの剣をヒラリと避ける。
「ふぉっふぉっふぉっ」
ヒラヒラと舞うように走り回るジジィに、あたしは更にキレて斬り掛かると
部屋の中に甲高い金属音が響いた。
そこには、あたしの攻撃を剣で止めている幾代さんが居る。
「止めないで! 殺す! 奴だけは確実にブッ殺す!」
「まぁ、待て! これから長い付き合いになるのだぞ? 今からそんなでどうする!」
半ば呆れながら言う幾代さんの後ろには、目障りな奴がフラフラ跳ねるように動いている。
「ふぉっふぉっふぉっ」
馬鹿にしたように舞い踊るジジィを、あたしはひたすらに凝視していた。
いつか、ブッタ斬ってやるんだからね……
とりあえず落ち着いてから、あたしは言った。
「おいジジィ!」
「なんじゃエロ娘!」
「エロ娘とは何よ! こんなの好きで着てるんじゃないわよ!」
思い切り怒鳴りつけると、ジジィはビッ! とあたしを指差した。
「お前こそジジィとは何じゃ!」
「ジジィだから、ジジィって言ったんじゃない!」
「そう言うお前こそ、エロ娘以外の何者でも無いわい!」
怒鳴りあいが激しさを増してあたし達が勢い良く立ち上がると、
幾代さんが呆れたように間に入ってきた。
「まったく……お前は、名前で呼ぶと言う事を知らないのか?」
何であたしだけに言うのよ……
「だって、ジジィの名前なんて知らないし……」
ふて腐れながら言うと、ジジィが言ったわ。
「ワシだってエロ娘の名なぞ知らぬわ!」
おもわず剣を引き抜こうとすると、幾代さんがそれを抑えて制止する。
「そうか……自己紹介もまだであったのだな。まぁ、夕菜は騎士団に来てまだ間が無いからな。知らなくても仕方が無いか。だが、このジジィは……あ……」
微妙な表情で振り返った幾代さんを、ジジィは冷たい視線で見つめている。
「いや、これは失礼……こちらは、オバ帝国を代表する実力を持つ王宮魔道士。、朝翁様だ」
え? もしかして凄く偉い人だったの?
ヤバ……
あたしが戸惑っていると、ジジィは人を馬鹿にしたような口調で言ったわ。
「ふぉっふぉっふぉっ。役職は嫌いじゃから、自由にさせてもらっておるがの。お前のようなエロ娘よりは幾分マシじゃて」
エロい流し目でニヤケルジジィが、妙にイラついた。
こいつ……やっぱり、いつかタタッ殺す!