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第二百七十五節 手伝いですね~……その2

 皆で馬車に乗り込んで厩舎まで戻ってくると、リーさんは私達に言った。

「では、私は馬車を片付けてから食事の準備をします。呼びに来るまで、もう少し干草の小分けをお願いします」

「はい、わかりました」

私達が馬車を降りると、リーさんは手綱をあおってそのまま進ませて行く。

遥子が、その荷台を見つめながら言った。

「あの大きいの、降ろせたの?」

「あぁ、意外に普通に降りたよ」

「へぇ~……」

何か感心するように、走り去る馬車を見送っていた。



 あれから、何時間経っただろうか?

すでに辺りは暗くなり始めているので、結構な時間が過ぎたのだろう。

ひたすらに干草を掻き分けていると、リーさんが来た。

「どうも、お待たせしました。って、え~! ほとんど終わっちゃってるじゃないですか! 皆さん、凄いな~」

「え? これって、今日の仕事じゃなかったんです?」

おもわず私が問うと、リーさんは顔の前で手を横に振りながら答えた。

「いやいや、私だけでやっていたら数日掛かる大仕事ですよ」

その時、何か横から殺気に近い視線を感じた……

恐る恐る横を見てみると、遥子が激しく冷たい視線を私に浴びせている。

あれ? 私のせい?

私は黙ったまま自分を指差して少し顔を前に出すと、冷ややかな視線のまま頷いている。

あれれ~? 何でかな~?

先に指示を受けていたのは、遥子じゃなかったかな~?

だが、ここで下手に突っ込んだら私の命が危ないのは明らかだ。

「まぁ、仕事が進んだみたいだし……これは、これで……」

伺いを立てるように言うと、遥子は私を怒鳴りつけた。

「これは、これでじゃないわよ! 疲れちゃったじゃない!」

「え~! それも、私のせいかよ!」

「そうよ! 決まってるじゃない!」

堂々と腕を組んで言い放つ遥子に、私は頭を掻きながら答えた。

「参ったな~」

そんな私達の様子に、皆は笑みを浮かべていた。



 リーさんの案内で道場の裏手へ歩いて行くと、今度は随分と可愛らしい建物があった。

「あら、可愛いオウチね」

遥子が言うのも、もっともである。

この丸み帯びたデザインは、何と言ったら良いだろうか?

作りとしては三角の屋根があって壁に窓が付いた普通の家なのだが、

何故か直角と言える所が全く無く全体に丸み帯びている。

赤い屋根に壁はピンクに近い明るい色で、全く大さんのイメージと繋がらない。

いったい、どうなってるの?


 リーさんが玄関を開けて、中に声を掛けながら入って行った。

「どうも、お待たせしました」

辺りを見渡しながらリーさんの後ろを付いて行くと、ピンクの壁紙や藤色の家具など

パステルカラーが多く使われていて妙に可愛らしい雰囲気だ。


 そしてリビングと思われる部屋の中央にドンと置いてある中華で使うような

大きな丸いテーブルの奥の席で、大さんは腕を組んで静かに目を閉じて座っていた。

う~ん、イメージの方向性が完全に反対向きなんですが……


 リーさんに席に座るように促されたので、私達は素直に座った。

この激しい違和感の中で、どうしても疑問を拭いきれずに思い切って聞いてみた。

「あの……ここは大さんの家ですか?」

私が家の中を見渡しながら言うと、大さんは眉間にシワを寄せて

目をつぶったまま黙っている。

もしや、問題発言をしてしまったのだろうか?

私が緊張しながら大さんの様子を伺っていると、奥から女性の声が聞こえた。

「ここは私の家よ」

そう言いながら出てきたのは、馬車のレースで連続優勝をしていると言う

渥野祥華アクノ・ショウカさんだった。

その時、何故か大さんが突然に立ち上がった。

「出たな、祥華っ!」

いや、今祥華さんの家だって言ってたし!

しかし大さんは、またあの時のように両腕を水平に広げて首を左右に揺らしている。

やはり、これはこの人のポーズらしい……


 大さんの謎の動きを、祥華さんは半ば呆れた感じで見ながら歩いてきた。

そして、静かに私達へ視線を向ける。

「話は聞いたわ。しばらくココに居るんですって?」

「はい、お邪魔させて頂きます。申し訳ございません」

私が恐縮しながら言うと、祥華さんは笑みを浮かべた。

「いいえ、遠慮しなくて構わなくてよ。どうせ、この人が勝手に決めちゃったんでしょ?」

「何っ! 勝手にとは人聞きが悪いな!」

大さんが反論すると、祥華さんは冷たい視線を投げて言った。

「何だかんだ言って、いつも勝手に決めてるじゃないの! 違うとは言わせないわよ!」

すると、大さんはビッと祥華さんを指差した。

「世界征服を狙っているお前に言われたくは無いっ!」

「だから狙ってないって言ってるでしょ!」

「なんだとぅ?」

また喧嘩が始まりそうなので、私はおもわず二人の間に割って入る。

「まぁまぁ……ひとまず落ち着いてください」



 そんな事をしている間に、いつの間にかリーさんがテーブルに食事を運んでいて

すっかり準備が整っていた。

「さぁ、皆でいただきましょう」

リーさんが二人を呆れた様子で見ながら言うと、

大さんと祥華さんは少し恥ずかしそうにしながら席に付いた。


 私も改めて席に付いてテーブルに並べられた料理を見てみると、

チーズや卵をふんだんに使った料理のようだ。

ピザに似た感じの料理が、大判の皿に乗せられてテーブルの中央に置いてあるので

どうやらそれがメインらしい。

見た所コレと言ったトッピングは見当たらないので、きっとプレーンピザに近いのだろう。

しかし、中華のテーブルにイタリアンって凄く微妙なんですが……


 大さんが拝むような感じで静かに手を合わせると、

リーさんや祥華さんも同じようにしているので私達もそれに習うように手を合わせた。

「大自然に感謝して、いただきます!」

大さんの渋い声に続けて、私達も復唱した。


 まずはリーさんが、ピザに似た料理を小皿に分けて皆に回し始める。

すると大さんが笑みを浮かべて言った。

「これは、この牧場で取れた物をふんだんに使っている! 美味いぞ~」

それに頷いてから、口に入れた瞬間に皆で声を揃えるように言った。

「これは美味しい!」

こんなに濃厚なチーズってあるんだ!

だが、変な癖はまるで無い。

個人的にはブルーチーズとかは苦手な方なんだが、これならいくらでも食べられる。

さすがは取れたてだ。これは本当に美味しいとしか言いようが無い。

そんな私達を見て、大さんが満面の笑みを浮かべて続けた。

「うむ、そうだろう! これこそが大自然の力だ! 最高じゃないか~! いや~はっはっは」

そう言いながら、大さんもピザを口に入れると納得したように頷いていた。


 それから色々と食べてみるが、どれもが驚きの連発だった。

卵にしてもミルクにしても、パンツェッタ辺りの飲食店など比較にならないレベルだ。

これなら、毎日食べても飽きない気がする。

新鮮さって、本当に大事なんだなと痛感してしまった。












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