第二百七十節 そうだったんですか~……
とりあえず落ち着いた所で、リーさんに声を掛けた。
「リーさん、すみませんでした」
それに首を振って答える。
「いえ、どうかお気になさらないで下さい。私の方こそ、過信していました。まさか、あそこまで追い込まれるとは夢にも思っていませんでしたよ。私も、まだまだ修行が足りません」
リーさんは、頭を掻きながら恥ずかしそうに笑みを浮かべていた。
キム・ラタクに聞いた話の中で、ずっと疑問に思っていた事がある。
それを、聞いてみるには良い機会だ。
私は大さんに声を掛けてみた。
「あの……いくつかお聞きしたい事があるんですが、宜しいですか?」
「ん? 構わんが?」
不思議そうにしながらも頷いているので、そのまま聞いてみた。
「私が聞いてきた話で気になっていた事なんですが、まず一つはなぜ剣術は雷陀亜流と言う名なんでしょうか?」
「ん? なぜと言うと?」
更に不思議そうな表情を浮かべているので、私は続けた。
「いえ……大さんのお名前から察すると、雷陀亜書流になる気がするんですが」
「ほう……そう考えたか」
妙に納得したように頷いてから、ふと笑みを浮かべて私に向き直った。
「これは我が家系に纏わる話でね。本来、雷陀亜流は5つの流派が存在した。そしてそれぞれの家が競うように雷陀亜流は成長を遂げて行ったのだが、ある時我が家系から優れた者が現れてね。その者が、雷陀亜流奥義を編み出したのだ。そして雷陀亜流奥義の書を持つ家系として、雷陀亜書家と改名したのだよ。そして結局、奥義に敵う者は現れず何時しか我が流派に淘汰されて行ったのが成り行きだ」
「なるほど、そう言う事だったんですか」
これで一つの疑問が解決した。
私が納得していると、大さんが聞いてくる。
「それで、まだ気になる事があるのかな?」
その問いに、深く頷いてから続けた。
「はい。話によれば、どなたか大切な方を亡くされて剣術を封印されたとか……聞いたのですが……」
少し様子を伺いながら聞いてみると、大さんは呆れたような声を上げた。
「あぁ……その話か……」
大さんは、リーさんと顔を見合わせて微妙な笑みを浮かべている。
そして私を見て呟くように言った。
「それは、方便だよ」
「え? ウソ?」
おもわず私が驚くと、大さんは困ったような表情を浮かべながら話を続けた。
「うむ……ずいぶん前の話になるがな。どこから聞きつけたのか一時期、妙に雷陀亜流の噂が広まった時期があってね。とてつもない数の弟子入り志願者が、ここに殺到したのだよ。だが我が流派は、平和の為の剣術。広める気など更々無い上に、下手に悪用されては困る。それに元々、滅多やたらに弟子を取らない事もあってね。仕方が無く、流派は消滅した言う理由をつけた訳だ。しかし噂が広まるにつれて、何故か君が言ったような話に勝手に変ってしまったのだな。結果的に望んだ状況である事は変り無いので放置してあるのだが、全くおかしな話だよ。いや~はっはっは」
「なるほど……」
やはり噂とは、当てにならないものなんだな。
だが、まぁ真相が解って私もスッキリしたので良かった。