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第二百六十二節 何事ですかね~……

 一通り店を見て回ってみたが、どうも私達の興味をそそるような物が無かったので

少し早めに待ち合わせの店の前に戻ってきた。

一応は武器や防具を扱った店があったのだが、入ってみて皆で呆れてしまった。

どうやら実用よりも外見をひたすらに重視するのが貴族らしい。

物自体よりも、宝石の数で値段が決まるのはどうかと思うが……



 やがて遥子達の声が聞こえてきたので、そちらに視線を向けて唖然とした。

全員が両手に荷物を満載状態で歩いている。

どんだけ買ったんだよ……

私達が微妙な表情を浮かべながら見ていると、遥子が気付いて声を掛けてきた。

「あら、早かったわね。いっぱい買っちゃった~」

ニコヤカな遥子達に、半ば呆れた笑みを浮かべながら答えた。

「本当に、物凄い荷物だな……さすがにそれだけあると、馬車に置きに行った方が良くないか?」

「そうね~、これで店に入ったら確かに邪魔よね……」

「この斧も結構重いしな、一度馬車に積んで来るか」

皆が頷くのを確認して、私達は馬車が置いてある方へ歩き出した。


 その時、綿理間将が思いだした様に声を上げた。

「あっ、そうだ! そしたら僕は、宿の予約を済ませて置くよ。あの店の前で待ち合わせれば、問題無いよね?」

「あっ、すみません。宜しくお願い致します」

おもわず恐縮すると、綿理間将は笑いながら答えた。

「誘ったのは僕なんだから、そんなに固くならなくてイイって~」

そんな言葉に安心して、私達も笑顔で頷いた。



 馬車を預けてある厩舎が見えてくると、何やら大きな声が聞こえてきた。

「そこに直れぇ~! 叩き斬ってくれるわぁ~!」

「申し訳ございません! 命だけはお許し下さい!」

おいおい……穏やかじゃないな。いったい何事?

私達はお互いに顔を見合わせてから、静かに近づいて行った。


 やたらと集まっている野次馬の後ろから様子を伺ってみると偉そうな格好をした貴族が、

下品極まりないド派手なデザインの剣を引き抜いてギャンギャンと怒鳴り散らしている。


 その前には一般人のように思える男性が土下座をしていて、その後ろでは

女性が子供を抱きかかえて座り込んでいる。

と言う事は、謝っている方は親子なのかな~?


 ひとまず、呆れた様子で成り行きを見ている人に聞いてみる。

「何か、あったんです?」

「あぁ……それがどうも、あの子供が食べ物を持ったままそこで怒鳴ってる貴族にぶつかったらしくてさ~。服が汚れたとかで、怒りまくってるんだよね」

そりゃまた大人気無いな……

「誰か、止める人居ないんです?」

私の問いに、両手を半端に上げながら答えた。

「そりゃ無理だろうな~。何しろ、剣を抜いちまってるしさ~。こうなったら誰か斬らないと、貴族としては引っ込みがつかないだろうよ」

おいおい、またムチャクチャな話だな……

私が呆れていると、遥子が後ろから声を掛けてきた。

「ねぇ、何とかしてあげなさいよ」

「何とかって……どうするんだ?」

「そんなの、あんたが考えなさいよ!」

こらこら……

だが、このままでは良くない事態になるのは明らか。

さて、どうしたもんだか……

その時、安がいきなりダッシュした。

何をするのかと思っていると、安はそのまま貴族に強烈なタックルを決めた。

「ぬお~! なんだ~?」

貴族がメッチャ吹っ飛ばされるようにブッ倒れると、

安はそのド派手な剣を拾って戻ってきた。

おいおい……どうするつもり?

「旦那! 剣でやす!」

おいっ! それを、どうしろと!

貴族は立ち上がると、物凄い形相でこっちに向かって歩いてくる。

あぁ、もう……この際、仕方が無い。

私はド派手な剣を受け取ると、剣先をその貴族に向けながら問いかけた。

「この剣で、誰かを切らないといけないんだよな?」

「あぁ、そうだ! とっとと、それを返してもらおうか!」

睨みつけながら手を差し出してきたので、私は話を続けた。

「いや、残念ながらこの剣を向けているのは私では無い。勝手にそっちへ向いてしまうのだよ。どうやら、この剣は持ち主を斬りたがっているようだ。素直に、そこに直ってもらおうか」

「なっ! そんな馬鹿な事が……」

私を怒鳴りつけようとした貴族に歩み寄って剣先を顔の前に持って行くと、

目を丸くして固まった。

「ほらほら……どうしても勝手に行ってしまうんだ。それ以上怒鳴ると、この剣の怒りを抑えられなくなるがそれでも良いのか?」

「や……やめろ……」

「いや、それはこの剣に言ってくれ。この剣には、高貴な魂が住みついているようだ。このような場で抜かれた事に、ご立腹だそうだよ。おっと……もう押さえきれなくなりそうだ!」

私が更に半歩前に出ると、貴族はそのまま後ろへ倒れるように座り込んだ。

「わ……わかった! わかったから辞めてくれ!」

こちらに手の平を向けながら、抜けた腰を引きずるように後ずさる貴族に私は続けた。

「いやいや、私に謝られても困る。この剣に住み着く魂に謝って貰わなければ、止まりはしないよ。あぁ~! 危ない~!」

剣をワザとらしく貴族の目の前で揺らしまくると、怯えるように叫んだ。

「わかりました! 剣に住み着く魂様! どうかお許し下さい~!」

私は、これ見よがしに大きく溜め息をつく。

「ふ~、危なかった~。どうやら、お許しになってくれたようだ。もし謝らなかったら、大変な事になっていた。いや~、本当に助かった。ご協力に感謝する」

私が剣を反対に向けて貴族に渡すと、それをビビりながら受け取った。

そして、渡した剣を見つめたまま呟いた。

「魂が……この剣に……」

あらら、マジで信じちゃってるよコイツ……

だが、これは好都合だ。私は、勢いに任せて話を続けた。

「いや~、大した物だ。英雄の魂が宿りし剣を所有しているとは、羨ましい限り。まさに、これこそ家宝! どうか末永く大切になさって頂きたい! ささ! この素晴らしい事実を、一刻も早くお家の者達に伝えなければなりません! さぁ! 急いで!」

「あ……あぁ……あい、わかった! かたじけない! では、失礼仕る!」

貴族は剣を大事そうに持つと、喜び勇んで走り去って行った。

その姿を見届けると、遥子が呟くように言った。

「英雄の魂って……あんた……」

その一言にこらえきれず、私は思いっきり噴出した。

それに釣られて、安達も噴出すように大笑いを始める。

腹を抱えて大笑いしている私達の様子を見て、集まっていた野次馬達も

ようやく状況を把握したようで辺りは大爆笑に包まれて行った。



 ひとしきり笑い終えた所で、改めて荷物を持って馬車に行こうとすると

先ほどの親子が私達の前に立ちはだかった。

「あ……あの……本当にありがとうございます! 貴方は命の恩人です! 私に出来る事でしたら何でも!」

父親らしき人が土下座を始めたので、また荷物を降ろして

それを止めるように両手を差し出す。

「いやいや、お気になさらないで下さい」

そのまま抱えるように引き起こすと、今度は三人で頭を下げてくる。

「本当に、ありがとうございます」

その時、遥子が優しい声で言った。

「怖いオジサンが沢山いるから、これからは気をつけるのよ?」

その声で子供は顔を上げると、花が咲いたように笑った。

「うん! 僕、気をつける! ありがとう!」

その笑顔に、おもわず癒されてしまう。

私は、子供の頭を軽く撫でながら続けた。

「良かったな」

「うん!」












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