第二百六十一節 オバ帝国の視線 鷺戸夕菜の場合
その頃、オバ帝国では……
あれは、まだあたしが幼かった頃……
「あたしね~、大きくなったら勇者になるの~」
「そうかい、ならば夕菜は人一倍頑張らぬとな~」
「うん、あたし頑張る~」
そんな祖母との会話が、今は激しく懐かしいわ……
あ、あたし?
あたしは鷺戸夕菜、騎士団の一員よ。
最初にこの話を聞いた時は、それは驚いたわ。
幼い頃の夢が叶ったと思った。
国の為の特別任務だって言われて、凄く嬉しかったのも確かよ!
だけど、それもほんの束の間だったわ。
いったい、何でこんな事に……
もう、嫌っ!
すでに5日間も、ずっと挨拶しっぱなしだし!
こんなの、絶対に勇者じゃないわよね!
いや……そもそも、勇者じゃないんだけどさ……
もうメッチャ派手な鎧を着せられて、死ぬほど恥ずかしいんですけどっ!
大体、何でこんなにあっちこっち露出が多いのよ!
そもそも誰よ! こんな気が狂ったようなのを作ったのは!
勇者の定義って、絶対にこうじゃ無いでしょっ!
まさか、これで行けなんて言わないわよね?
これじゃ生き恥を晒しに行くようなものだわ!
あぁ……あたし、これからどうなっちゃうのかしら……
あたしが頭を抱えていると、また偉そうな人がグラスを片手に持って挨拶に来たわ……
「これは、これは勇者様。ご機嫌麗しゅうございます」
だから勇者じゃないっつぅのっ!
とりあえず頭を下げて居ろって言うから大人しくやってるけどさ、
いったいコイツ等って何なの?
なんかカカア殿下の顔色ばっかり伺っちゃってさ!
バッカじゃないの?
アンタ等の事なんて、はなっから見て無いっつぅのっ!
その時、幾代さんが囁くように言ったわ。
「もう少しの我慢だ、とにかく耐えろ……」
そりゃ幾代さんは、騎士の鎧だから良いわよね。
まぁそれでも、いつも身にまとってる鎧と違ってやたらにギラギラなんだけどさ……
でもさ? 勇者一行って、本当にこうなの?
こんな派手な奴等が、マジで世の中に居るの?
実際に、こんな集団を見たら思いっきり引くわよ?
それに、こんなんじゃ敵に宣伝してるようなもんじゃない!
どんだけ頭オカシイのよっ!
だけどそんだけ気が狂った集団なら、ちょっと会ってみたくなるのも心情だわ……
勇者一行って、どんな人達なのかしら?
あたしは、勇者の仲間として一緒に居る魔法使いのジジィに聞いてみたわ。
「ねぇ? 勇者一行って、本当に居るの?」
「そんな事、このワシが知るかい!」
おいっ!
コイツ、年食ってるだけかよ!
その時、ジジィが真面目な表情を浮かべてこっちを見た。
何だろう? 何か知ってるのかしら?
するとジジィが言った。
「小娘よ! ちょっとエロいカッコしてるからって、イイ気になってるんじゃないぞ」
ゴルァっ!
あぁ……少しでも期待した、あたしが馬鹿だった。
年の功なんて、完全に幻想よね。
こんなんで、やっていけるのかしら……
激しい疑問と不安が、あたしの心の中に渦巻いていた。