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第二百五十九節 店ね~……

 私は、ひたすらに綿理間将の馬車に付いて行く。

まぁ見失う事は無いと思うが、一定の距離を保つように慎重に手綱を調整していた。

街中では馬車の速度を上げる事が出来ないのでかなり心配だったが、

意外に大人しく綿理間将の馬車に合わせてスローペースで付いて行ってくれている。

先頭で誘導してくれて助かった……馬が元気すぎるのも、こう言った時は考え物である。

危うく暴走車両になる所だった。


 やがて私達は、パンツェッタの港町を通り過ぎて行く。

大きな水道橋を横目にアレモが居る城の方へ向かっていたが、ふと左へ曲がった。

住宅地を抜けると前にかなり大きな建物が遠くに見えてきた。

あれが、そうか?

それにしても……誰だよ、あのデザインにした奴は!

ウェディングケーキのような丸み帯びた白い建物が土台の上に乗っかっている様子は、

どう見てもワシントンD.C.の国会議事堂なんですが……



 その建物を呆れるように見ながら付いて行くと、大きな門の前に来た。

綿理間将は入り口で馬車を止めて、受付の人と話しているようだ。

左右を見ると、ひたすらに長い壁が競り立っていてその敷地が相当に広い事を思わせる。

また走り出したので私も馬車を走らせると、受付の人は私達に頭を下げている。

ここはスルーしてイイらしい。

そのまま付いて行くと、敷地の右の方へ曲がって行った。

馬車をユックリ走らせながら左右を見渡してみると、まるでどこかの森林公園のように

綺麗に木が植えてあるので遠くまでは見渡せないがやはり相当に広いようだ。

しかし王族や貴族は、何故こう言った無駄なスペースを作りたがるのだろうか?

かなり謎である。


 厩舎が見えてきたので、後ろに声を掛ける。

「別に持って行く物は無いと思うが、準備は大丈夫か?」

「えぇ、必要な物以外はシッカリ仕舞ったわ」

それに頷いて前に視線を戻した。


 やがて厩舎の入り口まで辿り着くと、数人が綿理間将の馬車に駆け寄ってくる。

また何やら話しているようだ。

しばらくすると、私達の方にも二人ほど走ってきた。

「それでは、馬車をお預かりさせて頂きます」

私は、それに頷いて手綱を渡した。


 綿理間将が、笑みを浮かべて歩いてくる。

「これで馬車は明日まで預かってくれるよ。とりあえず行ってみようか」

私達が頷くと、綿理間将は嬉しそうに歩き出した。


 しばらく歩いて行くと、例の建物が見えてきた。

どうやら、かなりデカイらしい……

ふと遥子が、その建物を指差して呟いた。

「ねぇ……アレってさぁ?」

「やっぱり思ったか?」

それに頷いて遥子は聞いてくる。

「何で、ここだけアレ?」

「だよな……」

私は笑みを浮かべながら続けた。

「確かにアレが作られた時期と場所はメッチャズレているが、元のデザインは古代ローマのパンテオンから来ていると聞いた事がある。しかし、それ等は聖堂として使われていたはずだ。だがここは、どう見ても娯楽施設みたいだからな。貴族の受けが良いように派手に作ってみたら、こうなったんじゃないか?」

「ふ~ん……なるほどね~。じゃ、アメリカのもそうな訳?」

そんな問いに、少し首を傾げながら答えた。

「まぁ建築物の場合は、当時の流行りとかもあるけどな~、それでも象徴としての意味合いで考えるなら、そうなのかもな……」

「あっ、そう……」

遥子は、半ば呆れた様子でそれを見ていた。



 やけにピカピカの立派な敷石を歩いて行って、正面の大きな階段を上がって行く。

そして建物の中に入った瞬間、その装飾に私は呆れた。

このビカビカな感じって、あの魔法学校より酷いぞ。

全く、貴族って生き物は……


 とりあえず見渡してみるとさすがに中は広く、異様に高級そうな店が沢山並んでいる。

貴族連中がウヨウヨ歩いている所を見ると、あれは皆買い物客なのだろう。

「それじゃ、まず店に行ってみよう。当日でも予約が必要かもしれないからね」

私達は頷いて綿理間将に付いて行くが、ここは本当に広い。

高級店の商店街があったら、きっとこんななんだろうな~。

いい加減セレブな風景に飽きてきた頃に、綿理間将が振り向いて言った。

「あの、お店がそうだよ」

それを見て、私達はおもわず笑った。

「なんすか、アレは?」

「ん? そんなにオカシイ?」

綿理間将は平然としているが、どう見ても変だろうよ。

その壁には巨大な真実の口のような彫刻が施されていて、口の部分が入り口になっている。

見た目からしてどうかと思うが、そもそもアレって本来はマンホールだろ?

その中で食事って、どうなのよ……



 まぁ深く考えるだけ気が滅入りそうなので、そのまま真実の口に入って行く。

10メートルのほどの暗い通路を抜けると、店の様子が見えた。

店の中にはやたらと松明が掲げてあって、高級な店と言うよりは

ワイルドな雰囲気の方が完全に勝っている。

すると私達の前を、葉っぱの王冠を被った上半身に油テラテラのマッチョが、

トレーを片手に持って通り過ぎて行った。

それは、どこのコスプレだよ……

良く見ればあちらこちらにテラテラマッチョが歩いているので、

どうやら店員はマッチョ限定のようだ。


 そして奥では、貴族達が食事を楽しんでいるようで……ん?

「あ……あった……」

私が正面の壁を凝視して呟くと、綿理間将も同じように呟いた。

「あ……ホントだ……」

その壁には、ギラギラと光を放つ金の斧と銀の斧が

交差するように並べて飾ってあったのだ。

戻って来たテラテラマッチョな店員に、声を掛けてみる。

「あの、アレはどこに行けば手に入りますか?」

私は、それをビッと指差した。

すると、店員はそれを追うように視線を壁に向ける。

そして呆れたような笑みを浮かべて答えた。

「あぁ……アレの事ですか。すぐ近くの雑貨屋に売ってますよ?」

はぁ? なんで?

「アレが、雑貨屋に売ってるんですか?」

そんな問いに、店員は続けた。

「えぇ……だって、アレ偽物ですもん」

はぁ……そうでしたか……


 とりあえず当日でも予約が必要と言う事なので、綿理間将は予約表に名前を書き込んだ。

そしてテラテラマッチョな店員に、色々と説明を受けてからこちらに振り向いた。

「やっぱり、相当に時間が掛かるみたいだよ。店に入るのは夜になるみたいだから、色々見て回る時間がありそうだね。まずは、その雑貨屋から行ってみようか?」

「そうですね」

私達は素直に頷いて、すぐ近くにあると言う雑貨屋に向かった。



 教えても貰った雑貨屋の前まで来ると、確かに雑貨と言った雰囲気の店だ。

とりあえず中に入ってみると、台所用品から洋服まで本当に色々なものが置いてある。

そして、物の見事に貴族の姿が無い。

特に仕切っている訳ではないのだが、店員らしき人ばかりが数多く居る所を見ると

どうやらココは職員向けの店と考えて良いようだ。

まぁ、貴族様方には興味が無い物ばかりなのだろう。


 奥の方へ入って行くと、金の斧と銀の斧が笑えるほどに並べてある。

こんなに置いてあって、どうするよ……

少し呆れながら並べてある斧を手にしようとすると、綿理間将が私を止めるように言った。

「ちょっと待って!」

おもわず振り向くと、珍しく真剣な表情を浮かべている。

そして、端の方に並べてある斧を指差した。

「悪い事は言わない……アレにしておきなよ……」

え? まさか?

「それって……」

そう言いかけた所で、綿理間将は口元に人差し指を当てて続けた。

「金が2本と銀が2本、全部で4本ね。絶対に買いだよ」

私は素直に頷いて、指示された4本の斧を持って普通に会計を済ませた。


 かなり重いので手提げ袋を二つに分けてもらったのだが、それでも結構重い。

まぁ、純金と純銀の塊が重いのは当たり前の話なのだが……

しかし今から馬車に戻るのも面倒なので、このまま持っていた方がイイだろう。


 とりあえず遥子達を見ると、私達とは全く違う方向に視線が行っている。

確かに欲しがる物が違うからな~。

私は遥子に声を掛けた。

「なぁ? 色々と見たいだろ? 別行動にするか?」

それに嬉しそうに頷く。

「うん、お洋服とか見て来てもイイ?」

「あぁ。まだ相当時間があるみたいだから、あの店の前で待ち合わせれば大丈夫だろう。ひとまず、男性と女性に分かれればイイかな?」

「うん、じゃ行ってくるね」

そう言うと、遥子達は嬉しそうに歩いて行った。

あれ? 伊代が残っている……

「伊代は、こっちでイイのか?」

その問いに、静かに頷いてから答えた。

「あまり、お洒落に興味は無い……どうせなら、武具とか見たいし……」

「そうか」

私は、笑みを浮かべて頷いた。












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