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第二十五節 作戦ってか?

 さっきから、なんだ? この女性陣の笑顔は……

まさか、もう貰った気で居るんじゃないだろうな?

きっと、これの事を言うのだろう……現金な奴等だと……


 しかし、ホイと1億とは……

確かに危険な仕事には違いないが、いくら何でも出し過ぎだろう。

いったい、どれだけ相手さんからボッタ食っているやら……


 その時、ドアがノックされた。

私が出ると、二人の女性が立っている。

金髪のロングに青い瞳。動きやすそうな余裕のある服にも関らず

スッとしたいでたちは、まるで外人モデルのようだ。

「どちらさん?」

二人は黙ったまま、丸めた長い紙を渡してきた。

それを慎重に受け取ると、おもむろに開いてみる。

地図だ……

もう用意したのかよ……

「すると、お仲間ね?」

その問いに、無愛想に頷いた。

何やら、いきなり嫌われているようだな……

「まぁ、入って」

手の平を部屋に向けると、無表情のまま入ってきた。


 ひとまず座るが、妙に気まずい。

非常に困った……

「とりあえず、自己紹介をしたいんだけど、いいかな?」

返事が無い……

う~ん……厄介な奴等だ……


 私が一通り仲間の紹介を終えると、

ようやく二人が口を開いた。

「ダッツ……」

「ナーヴェ……」

……

それだけかいっ……



 私は、地図を見ながら悩んでいた。

多分、仕掛けるならここしかない……

しかし、これは正規ルートではない。

沙耶に聞いた所によれば、この部隊は二つに分かれて行動しているという。

そして、その両方を足止め出来なければ何の意味も無い。

ここに足止めするには一箇所に纏めるか、もしくは片割れを葬り去るか……

なかなか、一筋縄に行きそうに無い……


 突然に、遥子が声をかけてきた。

「ねぇ? 大丈夫?」

ふと視線を上げると、皆が注目している。

「ん? どうした?」

それに、遥子は大きく息をついた。

「さっきから、ずっと下を見たままよ! 心配するじゃない!」

そうか……私は、固まっていたか……

「いや、すまん。なかなか難しくてな……」

皆、安心したように溜め息をついた。


 私は、ふと聞いてみる。

「火薬って、どこで手に入れるんだ?」

皆、それに不思議そうな顔で首を傾げる。

おや? 何故、わからない?

「凄い威力で、ドン! と爆発する黒い粉なんだけど……そこの二人は知ってるよね?」

それに、ダッツとナーヴェは知らないとばかりに首を傾げている。

あれ? どうして?

その時、翔子が言った。

「もしかして、こう……ド~ン! となる奴ですか?」

「そうそう、それだよ」

人差し指を立てて頷くと、翔子は続けた。

「それは、魔法玉の事ですね?」

ん? いや、ちょっと違うと思うのだが……

「魔法玉って何?」

私の質問に、目を丸くした。

「港に着いた時、盛大に鳴っていたのですが、気付きませんでした?」

あれは、花火じゃないのか……

「もっと、こう大規模に爆発する物が欲しいんだけど、

トンネル工事とかで固い岩盤に穴開ける時って、どうしてるの?」

「そんな時は、魔法で破壊してますね」

なるほど……この世界には、火薬って物が無いのか……

「で、その魔法玉は、どこに売ってるの?」




 今、皆を乗せて馬車を走らせている。まずは、現地の偵察だ。

かなり深い森に囲まれた山道だが、通商路に使われている道らしく

土の割りには段差も無く綺麗だ。


 ひとまず、ルートの分れ道まで来た。

道は二股になっていて、右が正規のルートだ。

左は旧道で、結局は先で同じ道になるのだが、

勾配が大きいので今のルートが作られたそうだ。


 私は左に向かって馬車を走らせ、目的の場所に到着した。

そこには、大きな橋が架かっている。

下は深い崖になっていて辺りが良く見渡せる。

私は状況を確認する為に、橋に掛かった所で馬車を止めて降りてみた。

この大きな橋は、どうやらレンガのアーチ橋のようだ。

思ったより立派である。

横から覗くと6つのアーチになった、かなり長い橋だ。

周りを見渡すと右の上方に、正規ルートらしき道が見えた。

良く見ると、一台の馬車が止まっている。

あれは何だ?

ふと後ろを見ると、いつの間にやら皆も馬車を降りている。

私はダッツに駆け寄って聞いてみた。

「あの馬車は、何だか判るかい?」

それに無表情で答えた。

「軍の、偵察隊……」

ほう……

続いて、遥子と翔子に聞いてみた。

「あの馬車の辺りから、ここに魔法を打ち込めるか?」

二人は、それに頷いた。

ほう……ならば、いけそうだな……

「皆、戦闘準備だ!」





 今、軍を先導しているのは私だ。

先ほど縛り上げた、偵察隊の鎧を借りて本隊に合流している。

こう言う時は、顔の隠れる甲冑の兜はとても便利である。


 遥か後方で、爆発音が聞こえた。向こうも、始まったようだ……

「今のは何だ? 敵の攻撃か?」

ただの、魔法玉なんですがね……

うろたえる隊員達に、隊長が指示を出す。

「急げ、この為の別行動だ」

二股の道まで来ると前方から一人、甲冑姿の兵士が息を切らせて走ってきた。

「大変です! この先で、敵が待ち伏せています!」

「何? 隊長っ! 回避しましょう!」

私が大袈裟に叫ぶと、隊長は素直に頷いた。

「では、後方部隊にも知らせてくれ!」

ビッと敬礼を交わしてから、左のルートに向かって馬車を走らせた。

まさか、今のが伊代だとは思っていないようだ……

見張りの片割れは背が小さかったのでこの人選になったのだが、

必至に走ってくる姿は、かえってナイスだったかもしれない。




 しばらくすると、後方部隊が凄い勢いで馬車を走らせてきた。

そして、部隊からの報告が上がる。

「大変です! 後方から敵に攻め込まれています!」

隊長は、それに頷いた。

「なんと、挟み撃ちにする気であったか! では、こちらは敵の後ろを取るぞ。急げ」

私は、馬車のペースを少し上げて走らせた。

安たちが、上手く後方部隊を誘導してくれたようだ……


 やがて、橋が見えてきた。

速度を落とすことなく、その橋を渡っていく。

真ん中を少し過ぎた辺りで、後方から爆音がした。

「何だと? 敵の攻撃だ! 戦闘準備~!」

その時、私は手綱で一気に馬をあおった。

私の馬車が急加速していく

「何? 我等も追うぞ! 行け~!」

隊長は驚いて、私の後を追いかけてくる。

だが、その差は信じられない勢いで開いていった。

「さすが、おやっさんと大さんのお勧めだ! このままブッチ切るぜ!」

やがて、軍を遥かに引き離した私が橋を渡りきると、また後ろで爆音が響いた。

私は軍を取り残し、そのままの勢いで前方へ走り去った。


 その先から正規ルートに回り込んで遥子と翔子を向かえに行くと、

奴等はようやく騙された事に気付いたようだ。

橋までは遠くて人間が豆のようにしか見えないが、怒り狂っているのが良く判る。

しかし橋の前後は見事に破壊され、もはや軍隊は動きようが無い。

問題は、魔法で撃ち抜いた橋の先だ。

木が吹っ飛ぶどころか、巨大なクレーターが二つ生まれている……

さすが、この二人の魔法は半端ではないな……


 こちらに向かって、弓矢が飛んで来ているようだが、

さすがにここまでは届かない。

ん?

橋に光が見えた。それは物凄い勢いで、こちらに向かって突進してくる。

「やっべ……」

私が回避行動を取ろうとしたその時、耳元で大きな声が響いた。

「破~!」

遥子から放たれた白い光は敵のそれをアッサリ粉砕し、

尚も威力を落とさずに橋へと突き進んで行く。

終わったな……

辺りに爆音が響き渡ると、その魔道師が居た付近の橋の表面ごと

えぐられたように消滅していた。

そして橋の向こうには、新たなクレーターがまた一つ生まれていた。

あぁ……可哀想に……

私は、橋に向かって合掌を捧げた……


 黙祷を終えた私は、そのまま悠々と馬車を進ませて

待たせてある仲間の所へ向かった。

これで、最低でも数週間は軍を足止めできたはずだ……

下手すれば、月単位で帰れないかもしれないな……

それまで、橋が崩壊しなければ良いが……



 街まで戻って来ると、ダッツとナーヴェを先に降ろした。

「今日は、ありがとう。君達が魔法玉の扱いを熟知していたお陰で、本当に助かったよ」

私の言葉に、首を振って話し始めた。

「いえ、こちらこそ失礼な態度で申し訳ございません」

お? 初めてまともに話したぞ?

「貴方が、どんな人物か判らなかったので……」

何だか恐縮しているので、私から話しかけた。

「いや、君達は何も間違っていない。忘れてくれ」

それに続けて、二人は言った。

「貴方は、何者なのですか?」

「私か? 私は何処にでも居る、美の探究者さ。それじゃ、後は宜しく頼むよ」

軽く手を上げると、二人は深く頭を下げた。



 次の日の午後……



 私達の目の前に、1億の現金が積んである。

女性陣と安は満面の笑みを浮かべているが、

私としては、その子供銀行のような紙幣に微妙な心境である。


 沙耶が言った。

「それで、今回の作戦内容だけど、私の所に報告が上がっているわよ。

まさか、あの二人がサポートに回るとはね……」

首を振りながら、微笑むと続けた。

「貴方達の実力を甘く見ていたわ。でも、どうやってあのルートに誘導したの?」

「あぁ、それは簡単だよ。正規のルートに敵の待ち伏せを匂わせただけさ」

私が軽く言うと、沙耶は大きく溜め息をついた。

「なるほどね……だけど、本当に助かったわ。ありがとう」

「それよりも、情報が欲しいのだが?」

少し眉を顰めて言うと、沙耶は頷いた。

「わかってる……でも今は、時期が悪すぎるの。もう少しだけ、待って頂けないかしら?

魔の大陸までは、必ず送り届けるわ」

沙耶に、頭を下げられてしまった。

このプロフェッショナルが言うのだ、間違いは無いだろう。

ならば、今は待つしかないか……
















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