第二百四十七節 とりあえず終わったね~……その2
ニュービンボーデス島の岸壁に加瀬朗さん達が見事なコンビネーションで船を着けると、
ふと亜牙朗が聞いてきた。
「ところで、旦那はいつ戻るつもりなんだ?」
「そうだな……解決すべき問題は、まだ山のようにあるからな~。少なくともユックリはしていられない。できれば、明日には出発したい所だな」
それに亜牙朗は大きく息をついて続けた。
「そうか、旦那も大変だな~。まぁ、こっちの事は俺達に任せておいてくれ」
「あぁ、頼む」
私は笑みを浮かべて頷いた。
亜牙朗は加瀬朗さん達と挨拶を交わしてから船を下りてゆく。
私達は見送りがてら一緒に船を下りた。
そして亜牙朗がおもむろに振り向く。
「ちょっと早いけど、先に言っとくよ。皆、本当に色々とありがとう」
深く頭を下げる亜牙朗に遥子が笑みを浮かべて言った。
「何言ってるのよ、あんたには勇太が随分と世話になってるんだから言いっこ無しよ。あたし達こそ、本当に助かったわ。これから海軍になるけど、頑張ってね」
何だよ、全部言われちまったよ……
「まぁ、そう言う事だ。色々ありがとう」
私が手を差し出すと、亜牙朗も強く頷いて手を差し出す。
そして私達は、堅い握手を交わした。
私はふと振り返って言った。
「安はどうする? 明日まで時間があるから亜牙朗と一緒に居るか?」
「そうでやすね……そうするでやす」
安は頷いて亜牙朗と一緒に船に歩いて行った。
さてと……
ふと伊代を見ると、やはり不安そうに安を見つめている。
「伊代、一緒に行って来い」
その言葉に、花が咲いたような笑みを見せて走って行った。
その時、向こうから海賊達がドタバタと走ってくる。
ソイツ等が船の前まで来ると、大きな声を上げた。
「加瀬朗さん! お待ちしておりました!」
「おう! 今行くから待ってろ!」
しばらくすると、加瀬朗さんは満面の笑みを浮かべて船を下りてきた。
「んじゃ、ち~と行ってくらぁ! おう! 行くぜ!」
加瀬朗さんを先頭に、一行は意気揚々と街へ歩いて行った。
私はそれを見届けてから呟いた。
「さて、私達はユックリするか」
「そうね、何かあのテンションだけで疲れたわ」
私達は、その言葉に笑いながら船に戻った。
そして、次の朝……
今日は何故だか早く目覚めたので甲板に出ていると、安と伊代が戻ってくるのが見えた。
何やら二人で話しているようだが、どうも安の表情が暗い。
どうした? 何かあったか?
二人は私が見ているのも気付かないようで、一生懸命に話している。
そしてそのまま船の渡し板を登って来ると、ようやく会話が聞こえた。
「だから、あの振り方じゃダメなんだ。コツを掴まなければ、使い物にならないぞ」
「そうは言っても、出ないものは出ないでやすよ」
「いや、そんな事は無い。必ず出るはずだ。きっと、何かが足りないんだ」
ちょっと会話が怪しすぎるんですが!
私が戸惑っていると、二人はやっと気付いた。
「あ……旦那。おはようでやす」
「あ……おはようございます」
やっとかい……
「おはよう」
私も挨拶を返してから、少し考える。
これって、聞いて良い話なのだろうか?
ひとまずは、軽くジャブからだな……
「ところで、何の話だ?」
その問いに、安が暗い表情で下を見ながら答えた。
「それが昨日の夜から特訓してもらってるんでやすが、全然出ないんでやすよ……」
おいおい……マジですか?
私が怪しげな視線を送ると、伊代がハッとして顔を赤らめながら慌てて続けた。
「違うんです! 今まで、剣の特訓をしてたんですよ! その小太刀は魔剣のはず! 絶対に、何かを出す事が出来るはずなんです!」
なんだ……小太刀の話だったか。微妙に残念な気が……
それにしても昨日の夜からって、どんだけ特訓してたんだよ!
まぁそれは置いておいて、小太刀だよな。
私が腰から小太刀を鞘ごと抜いて、伊代に見せる。
「安の剣は、これと同じ物のはずだ」
頷いた伊代を確認してから、私は続けた。
「つまり、これが何かを放つと言う事だよな?」
「はい、そうなんです。属性は解りませんが、何かあるはずです」
確かに、これは魔剣と書いてあった。
まぁ、ひらがなだったが……
言われて見れば、この剣は使ったこと無かったな。
「それじゃ、ちょっと船を下りてみよう」
私が渡し板を歩いて行くと、二人も着いてくる。
ひとまず小太刀を腰に戻して、抜いてみた。
これが魔剣ならば、いつもの振り方で何かが出るはずだ。
私は上段に構えて、それを一気に振り下ろした。
すると、何か黒い影がボワ~っと剣から溢れた。
「ん? これがそうか?」
「そうでやす! あっしも、そのボワ~っとしたのは何度か出やした!」
ほう……黒い影ね~。
私は、その場で考えを巡らす。
黒い影と言う事は、属性は闇である可能性が高いな。
闇か~……ゲームでなら聞いた事はあるが、実際にどう使うんだ?
振って出ないとなると、後は……
「あの、どうしました?」
ふと見ると、伊代が心配そうに聞いている。
「あぁ、すまん。ちょっと考えていた。どうやら、これは闇属性の気がする。そして素直に振って出ない所を見ると、確かに何かが足りないんだろうな。ちょっと船に戻ろう」
また三人で渡し板を登って行く。
そしてキャビンに入ると、丁度遥子達が出てきた。
「あら、おはよう。ずいぶん早いじゃないの」
私は、遥子に頷いて続けた。
「あぁ、何故か目が覚めてな。それより、ちょっと聞きたい事があるんだがイイか?」
「ん? 何?」