第二百四十三節 マウイ島ね~……その2
叫ぶような鳥の喚き声が辺りに響く中、何か違う声が聞こえた。
ん? 誰だ?
私はその場に立ち止まって、周囲を警戒する。
それに気付いた翔子と蓮は、私にピッタリと寄り添って来た。
さて、どうするべきか……
もしかしたら、近くに凶暴な動物が潜んでいるかもしれない。
ここで剣を抜きたい所ではあるが、きっと奴等が密かに見ているはず。
変に警戒を強くしてしまうのも考え物だ。
まぁ最悪の場合でも、居合いで抜けば何とか間に合うだろう。
私は剣を抜きたい衝動を必死に堪えた。
「フンバラバ……」
「ハンバラバ……」
何やら、どこかで聞いたような掛け声が聞こえる。
そして奴等が、木の影から覗くように現れた。
左右に視線を送ると、全部で五人居るようだ。
見る限りは確かに部族のようだが、それにしても……
これは、マサイ族もビックリだ。
確かに部族は顔やら身体にやたらと何かを塗る習性があるようだが、
こいつ等ちょっと変だろ!
それも、単色をベタ塗りって何? 意味が解らないんだけど……
赤い奴とか青い奴とか居て、何か気色悪い。
そして、手には槍を持って……ん? 槍じゃないぞ?
何だ、あれは?
奴等が手にしている白い棒の先には、ピンクのハート形や黄色の星形の物体が付いている。
それは、どこの変身グッズでしょうか?
五人が私達の前に並ぶと、それぞれ違う色を肌に塗りたくっている。
赤青黄緑ピンクって、どっかの戦隊じゃないんだからさ……
すると赤い奴が、棒をこちらにビッと向けて大きな声を上げた。
「お前達は何者だ!」
「私はパンツェッタから来た冒険者だ」
素直に答えると、ソイツ等は一斉に首を傾げた。
「おい……今、あいつ何て言ったんだ?」
「いや、俺もわかんねぇよ」
あらら……やっぱり言葉が違うのね。
これは困ったな。
とりあえず訳避け自動を取り出して前に差し出してみると、奴等はビクっとして下がった。
「それは何だ! まさか武器か!」
私が首を振ると、不思議そうな表情を浮かべた。
「あれ? あいつ言葉を解ってるのか?」
それに素直に頷くと、ビックリしたように言った。
「なんだ! 気持ち悪いぞ! 何で解るんだ!」
私が訳避け自動を指差すと、皆はそれを注目した。
「あれが何だ? あれで言葉が解るのか?」
ふと赤い奴が手を伸ばすと、青い奴がそれを制止した。
「ダメだ! 触ってはいけない! これは、あいつの作戦かもしれないぞ!」
いや、違いますが……
受け取ってくれない事に困っていると、青い奴はまた大きな声を上げた。
「あいつ等は、きっと敵に違いない! 変身だ!」
はぁ?
「よし! 変身するぞ!」
マジですか?
呆れるように見ていると、赤い奴がハートの付いた棒を頭の上で回し始めた。
すると何やらキラキラし始める。やがて、その場でクルクルと回り始めた。
何だよ、マジで変身する気かよ!
これは厄介だ。
とりあえず、この手の輩を調子に乗せてはいけない。
私は赤い奴に歩み寄って、そのまま思い切り蹴りを入れた。
「ふごぉ!」
赤い奴はクルクル回りながら、吹っ飛ぶように転んだ。
「ぬおっ! こ……腰が! 腰が~!」
あらら、自爆ですか……
「レッド! 大丈夫か!」
レッドって、また……
「くそ! こうなれば、俺が仇を!」
今度は、青い奴がクルクルと回り始める。
私は、そいつにも歩み寄って思い切り蹴りを入れた。
「ふごぉ!」
やはり同じような反応で、吹っ飛ぶように転がっている。
「腰が~! うぉ~!」
もしかして、こいつ等ってバカなのか?
だが、これで二人は動けまい。
さて、どうする?
残りの奴等を見ると、その悲惨な光景に目を見開いている。
「こ……これは大変だ! 戦士長に報告するぞ!」
「そうだ! 一刻も早く、報告しなければ! レッド! ブルー! あとは任せたぞ!」
今度は、赤い奴と青い奴が目を見開いた。
「え? ちょ……ちょっと待って……」
しかし虚しく伸ばした手は、走り去って行く彼等には届かなかった。
私は転がっている二人を見下ろしているが、さっきから全く動かない。
どうやら、死んだ振りをしているようだ……
今時、そんな手は子供でも使わないだろ!
訳避け自動を赤い奴の手に置いて、話してみる。
「どうだ? 言葉が解るか?」
それに一瞬ビクっとしたが、まだ死んだ振りを続けている。
「別に、貴様の命を奪おうと言う訳では無い。だが、これ以上そのままで居るなら本当に殺すぞ?」
それに驚いて目を見開いた赤い奴と、目が合った。
「あ……その……」
もはや、どうして良いのか解らないらしい。
「私は探し物の為に、この島まで来た。戦士長とか言う奴の所まで案内してもらうぞ?」
「いや……しかし、この腰では……」
少し動くだけでも、激しく辛そうだ。どうせ、ギックリ腰とかだろうけど……
ひとまず翔子と蓮に視線を向けて聞いてみる。
「なぁ? 二人で、回復魔法は使えるのか?」
「えぇ、遥子さんに教えて貰いましたから大丈夫ですよ?」
教わったんだ。
「そうか、ならばこの二人を回復させてやってくれるか?」
私が指差すと、翔子が嫌そうな表情を浮かべて言ってきた。
「え? 良いんですか? また、襲ってくるかもしれませんよ?」
「う~ん、しかしこのままじゃ使い物にならないしな~。まさか、この期に及んでそんなバカな事しないよな~?」
赤い奴を冷たく流し見るようにして問いかけると、必死に頷いている。
二人が赤い奴の横に並んで静かに呪文を唱えると、
遥子の時と同じように七色の光が綺麗に弾け飛んだ。
赤い奴は何が起きたのか全く理解していないようで、
私と翔子達をニワトリのような動きで交互に見ている。
「もう普通に動けるはずだ。まずはそこに座ってみろ」
それを聞いた赤い奴はユックリと身体を上げる。
途中まで動いて、何かに気付いたようだ。
「お? おぉ? 痛くない! 凄い!」
驚きながら身体を確認している赤い奴に、私は言った。
「さて、どうする? 素直に言う事を聞くなら、そっちの青いのも治してやるが?」
「お願いします! 何でも言う事を聞きます! どうかブルーを助けてあげてください!」
赤い奴は土下座しているので、もう大丈夫だろう。
私は翔子と蓮に視線を送って、目配せしながら頷いた。
青い奴にも魔法を掛けると、やはり同じように驚いている。
「これは、いったい何なんだ? 信じられない……」
私達を見て呆然としている青い奴に、赤い奴が言った。
「この力が何なのかは、俺にも解らない。でも、彼等は命の恩人だ。俺は、戦士長の所へ案内しようと思う!」
拳を握り締めて力強く訴えると、青いのも同意するように頷いた。
まぁ、ほぼ自爆パターンだったと言う事はこの際黙っておこう……