第二百四十一節 そう来ましたか~……
所構わず観察しまくっている亜牙朗の様子に半ば呆れた笑みを浮かべてから、
遥子に視線を向けた。
「なぁ、ちょっとコレ見てくれるか?」
私はレンズの位置を合わせながら、遥子に差し出してみる。
それを面倒臭そうに覗き込むと、少し驚いたように首を傾げた。
「ん?」
険しい表情でそれを見直してから、私に視線を向けた。
「魔法陣じゃない、これ……」
「やっぱりか」
となると、やはりこれは……
私が考えていると、遥子は続けた。
「それも、発動系の魔法陣ね」
ふと遥子を見る。
「ん? それって何だ? ノア婆さんが使ってたような奴か?」
遥子は、その問いに首を振った。
「あれは、受ける側の魔法陣よ。あの場合は、ノア婆さんが発動させてるの。う~ん……なんて言ったらイイかしら。発動系って言うのは、どちらかと言うと魔法の詠唱みたいなものね」
なるほど。
どうやらこれは、その発動系を使って魔法を飛ばす為の銃らしい。
この魔法陣をハンマーで押し出すようにして、何かと接触させるのだろう。
だが魔法と言っても、それをどうやって飛ばす?
それに、弾丸は何だ?
発射方法は何となく理解できたが何を詰めるのかサッパリ解らない。
とりあえず聞いてみる。
「あのさ、この中に魔法を詰め込むなんて事は出来るのか?」
それに呆れた表情で首を傾げる。
「さすがに、それは出来ないんじゃない? そんなの聞いた事無いわよ?」
「だよな~……」
それじゃ、なんだ? 何を入れると言うのだ?
私達が悩んでいると、翔子が言った。
「あの……魔法陣は、どうです?」
「ん? 魔法陣?」
首を傾げる遥子に、翔子は頷きながら答えた。
「はい。つまり発動の魔法陣があるなら、受ける側の魔法陣も必要ですよね?」
「あぁ、そうか! それなら詰められるわね!」
「どう言う事だ?」
「説明するより、試しにやってみるわ。何か書くものある?」
そう言いながら、メモとペンと手にする。
二枚の紙に魔法陣を書き終わると、それを持って甲板に出て行った。
私達も、立ち上がって付いて行く。
「行くわよ」
遥子が海に向かって二枚の紙を叩くように重ね合わせると、
光の弾が物凄い勢いで水平線に向かって飛んで行った。
「熱っ!」
遥子は、燃え上がった紙を慌てて手放す。
私はすぐに駆け寄って、その燃えた紙を足で踏んで消した。
「大丈夫か? 火傷しなかったか?」
「うん、平気。それより、これが原理のはずよ」
なるほどね~。あれが発射の原理か。
しかし発射と同時に燃え上がるってのは、どうなの?
かなり危険な気がするのだが……
飛んで行った光を呆然と見ていた亜牙朗が、はっ! としたように聞いてきた。
「あんなのが飛ばせるのか? アレ?」
私は一度頷いて、それに答える。
「あぁ、だが使える精度にするには微調整が必要だし相当に難しいと思う。何しろ、いきなり燃え上がったからな。下手すれば、アレごと暴発して手が吹っ飛ぶだろう。利き手を失いたくなければ、いきなり薬莢に詰め込んで実験するのは辞めた方が良いな……」
「そうか、それは残念だな。だけど、驚いたぜ。そんな、凄い物だったのか~」
亜牙朗は、光が飛んで行った水平線を見つめて唸るように納得していた。
とりあえず私達は、そのままテーブルに戻った。
私は銃を組み直して、亜牙朗に渡した。
「なかなか面白い物を見せてもらったよ、ありがとう」
すると亜牙朗は、受け取った銃をまた私に差し出した。
「なぁ……コレなんだけどよ。旦那が預かってくれないか?」
「ん? 何でだ?」
首を傾げる私に、少し照れながら答えた。
「いや……俺が持ってても、タダ飾って置くしか出来ねぇしよ。だが旦那達だったら、コレを使えるまでにしてくれるんじゃねぇかって思ったんだ。良かったら、預かってくれねぇかな?」
「確かに、それはありがたい申し出だが……本当にイイのか?」
その問いに、亜牙朗は私を真っ直ぐに見た。
「あぁ……だが、やるとは言わねぇ! 必ず、生きて戻って来てくれ! その時に返すと約束してくれるなら、好きに持って行ってくれて構わねぇぜ!」
ん? その言い回しって?
亜牙朗には魔王の話などしていなかったはずだが、どう言う事だ?
私は横目に安を見ると、どこか申し訳なさそうにしている。
そうか……安からの情報か。
だが、その心意気は心の底から嬉しかった。
亜牙朗の熱い眼差しに答えるように、私は強く頷いて銃を受け取った。
「わかった。必ず返しに戻って来るよ」




