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第二十四節 何が来るやら……

 私達が宿に戻ると、部屋の前で遥子が仁王像のように待ち構えていた。

「それで? どうなった訳?」

こりゃ、参ったな……


 私がシングル部屋に入ると、皆が雪崩れ込んでくる。

壁際に置いてあるテーブルに、3つの椅子を囲むように置いて

私と遥子が向かい合わせに座った。

安が困っているようなので、壁に向いた椅子に座らせる。

そのままでは椅子に座りきれないので、三人組にはベッドに並んで座ってもらった。


 ひとまず状況を話してみるが、やはり私の独断が気に入らないらしい……

「大体ね、アンタはいつも勝手過ぎるのよ!」

そう言われても、困るのだが……

「そもそも、良く判らない依頼なんて受けないでしょう。普通!」

まぁ確かに、普通はそうだが……

「もう、知らない!」

何やら、怒って部屋を出て行ってしまった。

まぁ、遥子達の大部屋に戻ったのだろう。

三人組は、私に気を使いながらも、おずおずと遥子に付いて行く。

すでに女王様だな、あれは……

「何か言った?」

突然に開いたドアから遥子が覗いている。

「いや……何も……」

私が言い終わる間もなく、強くドアは閉められた。

何だよ……まさか読心術とか使ってるんじゃあるまいな……

だが遥子も、すでに手詰まりである事は感じているはずだ。

しばらくは、私の好き勝手にやらせてもらうさ……


 私は、安に言った。

「ひとまず今日の所は、もう何も出来ない。帰ってもいいぞ?」

「いや、それが……帰る所は、無いでやす……」

「はぁ?」

私は驚いて質問してみた。

「じゃぁ、昨日はどうしたんだよ。素直に帰っただろ?」

安は、小さな声で話し始めた。

「昨日までは、あったんでやすよ……ですが……追い出されちゃいやした」

追い出されたって……

「何か、やらかしたのか?」

私の問いに首を振って、真っ直ぐにこちらを見た。

「いえ! 誓って何もしていやせん! 家賃を払って無いだけでやす!」

いや、やってるし! それに威張って言う事じゃないような気が……

しかし、困ったな……

仲間にしてしまった手前、このまま放り出す訳にもいくまい。

私はフロントに、もう1つ部屋を頼みに行った。


 カウンターでシングル部屋を1つ頼むと、

ウエイター風の男性は残念そうな顔を浮かべる。

「あぁ……すみません、すでに他は満室でして……」

それは困ったな……

「急遽一人増えてしまったんですが、何とかなりませんか?」

男性は難しい表情を浮かべて視線を外すと、腕を組んで考え込んでいる。

なかなか返答が帰ってこない……

ならばこちらから提案するしかないか……

「部屋が無いなら、布団を一式貸してもらえませんか?」

その言葉に驚くように、こちらを見た。

「それで宜しいんですか?」

私は素直に頷く。

「えぇ、それで構いません」

「では、すぐにお布団をご用意致します」

すぐに走って行こうとするので、それを引き止めた。

「あの……料金のほうは?」

男性は、両手をこちらに向けて申し訳無さそうに言った。

「いえいえ、それはサービスさせて頂きますので部屋の方でお待ちになっていて下さい」

そう言い残して、奥へと走って行った。

まぁ、サービスしてくれるならありがたいが……


 私が部屋で待っていると、男性が布団を持ってきた。

「お待たせしました」

その布団を部屋に置くと、早々に立ち去ろうとする。

私は男性を引き止めて、ポケットから1000エンを出して渡すと驚いた表情を浮かべた。

「え? あ……これは、申し訳ございません。ありがとうございます」

それに笑顔で頷くと、男性は深くお辞儀をして部屋を後にした。


 さてと……

「とりあえず、狭いがココでいいよな?」

問いかけながら安に視線を向けると、すでに目をウルウルとさせていた。

「旦那~、ありがとうございやす~」

安は、そのまま号泣してしまった。



 そして次の朝……



 朝から、また私のシングル部屋に皆が集まっていた。

「あの……ずいぶんと、狭いんですが……」

私の言葉に、遥子はただ睨みつけるだけだ。

会話が成り立たない……

困った物だ……


 その時、誰かがドアをノックした。

私が出ると、そこに尾木間沙耶が居た。

「ずいぶんと、早いね……」

その言葉に、沙耶は軽く微笑む。

「中で話して、良いかしら?」

どうぞとばかりに、手の平を部屋に向けて招き入れた。


 一通り自己紹介を済ませると、沙耶が話し始めた。

「さっそくなんだけど、やって欲しい仕事があるわ」

それに頷くと、続けた。

「軍の侵攻を、止めて欲しいの」

はい?

一瞬、意味が判らなかった。

「軍だと?」

その問いに、当然のような表情で沙耶は頷いた。



 今回の仕事、それはサイバエ連邦共和国へ攻め込もうとしている、

軍隊の進行を阻止する事だ。


 オジ三国より、北に広がる果てしない大地。

それが、平和主義で中立国のサイバエ連邦共和国だ。

膨大な田畑と畜産は、ダメーダバグと言う管理システムによって

綺麗に区画整理されている。

国の人々は、地区ごとに分かれて

バグライフと呼ばれる人海戦術で効率よく収穫し、世界各国へ食を供給している。

その食料供給システムの完成度は高く、

規模は世界の消費量に対して実に8割以上と言われているそうだ。


 何故に、そんな無謀な事が出来るかと言えば、秘密は魔法にある。

魔法による保存は、冷凍保存など比較にならない完成度だ。

何しろ、時間ごと止めてしまうのだから……

これの元になった魔法は、ジカントと言う魔法だ。

確か、遥子もコジュウ塔で覚えたはずである。

誰が名付けたのかは知らない……

本来この魔法は戦の中で使われていて、効果があるのは数分程度。

それを完成度の高い保存魔法にする為に、

サイバエ連邦が国を挙げて研究に取り組んだそうだ。


 各国に運ばれて行くジカント・メルハコと呼ばれる段ボールのような箱は、

私達にしてみれば夢の箱だ。

そして開封と同時に魔法が解けるようになっている為、

盗作防止にもなっているそうだ。

細かい所も、妙に凝っている……

まぁ、使いようによっては危険な代物でもあるので、管理は徹底して当然である。

どうやら人間でも使えると言う噂はあるそうだが、

実験した人は居ないと言う。

確かに、片道切符のタイムスリップは御免こうむりたい。



 ところで、そんな一箇所で作って自然災害が起きないのかと心配になったが、

あまりに広大な土地ゆえに例え数箇所の機能が止まっても他で補えると言う。

これまで大きな問題は起きていないそうだ。


 話によれば、オバ帝国よりも力を付けたいオジ三国は、サイバエを狙っていると言う。

それに対して必死に反対しているのがマスオ族だが、なかなか意見が通らないそうだ。


 もし、そこが攻め込まれ占領されれば、世界の食糧供給が止まってしまう。

だが、例外がある。それは魔の大陸だ。

あそこだけは、他の国と何も共有していない。

国同士の交流が、一切無いのだ。それはそれで、大した物である。

だがサイバエを手中に出来れば、ある意味世界を支配したも同然だ。

それを、阻止しようとしているのも理解できる。


 だが、しかし……

「あのさ……さすがに、軍隊相手は無理じゃね?」

私の言葉に沙耶は、

「まさか、真っ向から立ち向かえなどとは言わないわ」と笑顔を見せた。

もう一度、私は問いかけてみる。

「では、私達にどうしろと?」

「どんな手段でも構わないわ。でも5日間は、確実に足止めをして欲しいの」

その言葉に、私は腕を組んで悩んだ。

手段を選ばずと言っても、相手は軍。

たった6人で、何が出来ると言うのか?

あまりにも、不利な状況だ。


 私は、さらに聞いてみた。

「ところでサイバエ国は、軍隊を持っていないのか? 本来これは、軍の仕事だろ?」

それに、沙耶の表情が曇った。

「確かに、あるには……あるんだけど……」

どうも、はっきりしない言い方だ。

「何か、問題でも?」

その質問に、沙耶は溜め息をついた。

「そう……あの戦争を、知らないの……」

「戦争?」

私が首を傾げていると、呟くように言った。

「そうね、貴方達には最初から説明した方が良さそうだわ」



 平和主義で中立国のサイバエは、例え攻め込まれたとしても滅多に反撃に出ない。

だが、本気になれば強いそうだ。

しかし、その時は世界規模の戦争を覚悟するべきだと言う。

以前に、オバ帝国との戦争が起きたらしい。

それは各国を巻き込み、世界大戦になった。

その大戦に、魔の大陸も参戦していたそうだ。

当時までは、そこは魔の大陸とは呼ばれていなかったと言う。

他の国との交流も深く、明るい国だったらしい。

その名前は、イチマルキュ国と言ったそうだ。

それが、あの戦争の終盤で激変した。

ある日、魔弾頭と呼ばれる大量破壊兵器が大陸に打ち込まれた。

その威力は小さい島など軽く吹き飛ばすと言うので、

私達の感覚で言えば、核を積んだ大陸間弾道ミサイルに近い物なのかもしれない。


 それから、イチマルキュ国は丸1年の間沈黙した。

突然に、全く連絡が取れなくなったそうだ。

それは、国家間はもちろん個人にも及んだ。

誰とも連絡が取れなくなってしまったのだ。

各国は幾度も偵察を出したが、戻って来た者は誰一人として居ない。

やがて、どの国も捜索を諦めてしまうと、誰も近寄らない大陸になってしまった。


 そして、大陸の情報が1つ届く。

それが、魔物の目撃だった。

最初は、大陸近くを通過した船からの情報だったそうだ。

それからも、徐々に魔物の目撃例が増えて行った。

やがてそれが拡大して行くと、他の国でも目撃されるようになる。

その1つが、オジ三国である。

そして、今に至るそうだ……

さすがに人間が滅んだ訳ではないと思うが、かなり不気味である。



 そんな訳で、他の国はサイバエ連邦に手を出すような事はしない。

静かに、友好国として付き合っているそうだ。

だとしたら、どれだけオジ三国は切羽詰っているのだろうか?

どうも、腑に落ちない。

それとも、すでに魔物が潜んでいる事が影響しているのだろうか?

人間に化けた魔物が特に多いのは、このチョイワル族の地域だ。

そしてこの軍隊を仕切っているのは、キギョウ戦士族では無くチョイワル族。

そうだとすると、魔の大陸の戦略とも十分に考えられる。

かえって、そう考えた方が自然な気がするのだが……

だが、いずれにしても、この進行は阻止するべきなのだろう。



 しばし、無言の空気が流れてから問いかけてみた。

「依頼主は、オバ帝国か?」

沙耶が、不敵に笑みを浮かべた。

「そんな事、言えるわけ無いでしょう?」

なるほどね……まぁ、中らずと雖も遠からずって訳か。



 まず、早急に欲しい物がある。

「サイバエまでの地図はあるか? なるべく詳しく載っている地図が欲しい」

それに一つ頷いて、沙耶が続ける。

「それは、すぐに用意するわ。それと、私の部下を二人出そうと思う。

いくらでも、使ってやってね」

それで8人か……

まぁ、いずれにしても真っ向勝負は無理だろうな……

その時、沙耶が立ち上がった。

「そろそろ、時間のようね。こちらに、二人を向かわせるわ。後は宜しく」

「待って!」

突然に、遥子が声を上げて立ち上がった。

このタイミングで、何をしようと?

私が心配になって見ていると、

「それで、報酬は?」

金かい……

まぁ、確かに必要ではあるが……

沙耶はおもむろに振り返ると、人差し指を立てた。

「1億で、どうかしら?」














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