第二百三十六節 ありましたね~……
人の流れに合わせてしばらく歩いて行くと、私の視界にそれが入ってきた。
ん? あれは……
私は、その前に立ち止まる。
確認するように注意深く見ていると、亜牙朗が聞いてきた。
「もしかして、探し物ってそれか?」
「あぁ、多分コレだと思う」
明らかにガイコツの形をした透明の物体だが、水晶って言ってたからな~。
かなり透明感はあるようだが、それが水晶であると断言できる自信は無い。
さて、どうやって見分けたら良いだろうか?
「なぁ……それ、キモくね?」
亜牙朗の言葉に、おもわず私は少し笑ってしまった。
「確かに、そうだな。普通は欲しがらないよな、こんなの」
ついでに聞いてみる。
「これって、手に取って見る事とか出来ないのか?」
すると亜牙朗は周りを見渡しながら答えた。
「あぁ……それなら、あそこに居る係員に言えば見せてくれるぜ?」
ほう……それはナイスだな。
「そうか、ならば他に同じような物が無ければ頼んでみるよ」
とりあえず最後まで行ってみたが、同じようなものは無かった。
それじゃ聞いてみるとするか。
近くに居た係員に声を掛けてみる。
「あの……見せて貰いたい物があるのですが、宜しいですか?」
「あっ、はい! どれでしょうか?」
明るく答えてくれたので、ガイコツの所まで誘導する。
「これ、なんですが……」
私が指差すと、何か不思議な目付きで私を見た。
「これ……ですか?」
「はい……」
係員の微妙な表情からして、どうやら人気は無い物らしい。
ひとまず係員は、ケースを開けて板ガラスの上に乗せてくれた。
「では、どうぞ」
私は軽くお辞儀をして、ガイコツを手にする。
さて、確か水晶を見分ける方法は……
私はおもむろに髪の毛を一本抜いて、またガラスケースの上に置く。
その上にガイコツを横向きに置いて、上からこめかみの位置辺りを覗き込んだ。
静かにユックリ回して行くと、それが見えた。
うん……髪の毛が、二本に見える……
この位置なら、造形の屈折に邪魔される事は無いはず。
ならば、これは本物の水晶と見て良いだろう。
まぁ他に見分ける方法と言っても、偏光板を使うくらいしか思いつかないが
肝心の偏光板が無い。
今は、これで良しとするしか無いだろう。
ひとまず自分の髪の毛を回収して、ガイコツを元の位置に戻す。
「ありがとうございます、参考になりました」
「いえいえ、では中に戻しますね」
頭を下げた私に、係員は優しく微笑んでくれた。
「ちゃんと確認できたのか?」
心配そうに声を掛けてくる亜牙朗に答えた。
「あぁ。今ので、だいぶ確信が持てたよ。まぁ、他に同じ物が無いようだから、これを競り落とすしか手は無いんだけどな」
「だな~。さて、そろそろここは閉まるはずだから会場の方に行くか」
そう言って歩き出したので、私達も付いて行った。
なかなか広い廊下を歩いて行くと、大きな扉が見えた。
その両脇には係員が立っていて、何かの紙を配っているようだ。
私達がその前に来ると、係員が聞いてきた。
「全員参加ですか?」
「いや、今日は二人だ」
「では、こちら二枚をお持ちになってください。どうぞ中へ」
扉を開けて中に入ると、妙に暗い。
前方は階段状に下っていて、椅子が沢山並んでいる。
一番前は少し高くなっていて、全面に垂れ幕が降りている。
まるで、映画館のような造りだ。
かなり暗いので何人座っているのか良く見えないが、
聞こえてくるザワメキからしてかなりの人数がいるのだろう。
「なぁ? どの辺りに座る?」
「そこら辺は、経験者の亜牙朗に任せるよ」
「それじゃ、ひとまず真ん中辺りにしようか」
私達が座ると、亜牙朗がさっきの紙を一枚渡して来たので素直に受け取る。
「これは何だい?」
「あぁ、これ一枚に付き一点を落とす事が出来るんだが、一つ重大な問題がある。こいつは、今日中に使い切らなければならない決まりなんだ。もしこれを使わなかったり競り負けたりすると、厳しい罰則が付いて来るんだよ」
それに私は驚いた。
「罰則だって?」
おもわず聞き返した私に、その紙をヒラヒラさせながら言った。
「あぁ……俺は、そんなヘマやった事無いけどよ~。まぁ話によると、これを使わないでここを出ると一律10万支払うらしい。それは、ここの入場料みたいなもんだ。だが問題は、そこじゃないんだ。もし最後まで粘って、競り負けちまった時が一番ヤバイ! なんでも落札金額と同額を払わされた挙句に、出入り禁止になるそうだぜ?」
マジッすか……そうすると、もし落とせなかったら違う意味で終わるって事か。
「それは厳しいな……」
「あぁ、かなり厄介だ」
私達は、静かに頷きあった。