第二百三十節 海賊の視線 野志亜牙朗の場合
いやいや! それにしても驚いたな。
なんかすぐに戻ってきたと思ったら、
「これから作戦を開始する」ってんだからよ!
ん? お前は誰だってか?
俺は、野志亜牙朗さ。この海賊のカシラをやってる。
そんな事よりアレだ!
いきなり作戦ってんだから、こっちも色々と意気込みってもんがあるだろ?
俺は勢い良く立ち上がって言ったさ。
「野郎ども! 出撃だ~!」ってな!
そしたらよ! なんて言ったと思う?
「いや、少し時間を置いて後から付いて来てくれるだけで構わない」って、
そりゃねぇだろうよ!
「亜牙朗は、海軍を包囲してくれればそれでイイ。後は何とかするよ」とか言ってるしよ!
いくらなんでも無理だっつ~の!
あんな小さい船で、何をどうしようってんだよ!
確かに速そうだし良く造り込まれたイイ船だが、相手の船は圧倒的にデカイんだ。
一発体当たりでも食らっちまったら、それで終わりだろ!
質量の差で、受けるダメージも変わるんだ。
どう考えても、当たり負けちまうってもんさ!
まったく、旦那は何考えてんだか……あっ、安の口癖が移っちまったじゃねぇか!
えっと? 勇太さんだったっけか?
あ~っ、メンドクセイ! もう旦那でイイや!
ようやく島が見えてきたぜ。
俺達も、出せる船は全部出してきた。
これだけの戦力なら、いくら海軍だっつったってそうそう負ける気はしねぇぜ。
おっ! 言ってた通り、沖合いに止まってらぁな。
だが、しばらくすると進み始めちまった。
おや? 俺達を待ってたんじゃないのか?
おいおい……なんで速度上げてるんだ?
「おう! こっちも少し速度を上げるぞ!」
それを合図に、少し帆を張りなおす。
さて、さすがにココからはマズイだろう。
これ以上行けば、奴等は必ず出てくるはずだ。
まぁ、俺達に気付いた時点で出て来ちまうか。
だがよ……
ちょっと、前に出過ぎじゃねぇか?
「海軍が動き始めました!」
上の方で見張りが騒いでいる。
さっそく、出て来やがったか。
だいぶ海軍との距離も近づいてきた。
そろそろ船を止めねぇと……って、何で更に速くなってるんだよ!
おい! それ以上は自殺行為だぞ!
俺は、仲間に振り返って怒鳴った。
「おい! 誰か止めるように指示しろ! あのままじゃヤバすぎる!」
その時、激しくデカイ音が響いた。
「何だ?」
慌てて海軍の方に向いて驚いた。
何だ? ありゃ……
旦那の船から、赤と黄色の丸い光の玉が海軍に向かってドンドン飛び出している。
あ……ありえねぇ……
「なぁ? 俺は、夢でも見ているのか?」
横に居たのは、最初に旦那達を連れて来た俺の相棒だ。
「いや……多分、現実かと……いや、自信ないっす」
「だよな……」
しばらく呆然と見ていると、仲間達が唸るように呟き始めた。
「うわ……ヒデェ……」
「マジかよ……ありゃ~たまらねぇぜ……」
「あぁ~、マストが折れちまった」
仲間の言う通り、マジでヒデェ……
無数の光の玉が海軍の船に当たる度、船が木片となって散らばるように弾け飛んでいる。
どうなってるんだよ。
あのデカイ船が、こうもバラバラになって行くなんて光景なんて見たことねぇ……
その船自体が激しく傾いちまってる所を見ると、もう中まで破壊されているだろう。
救いようが無いくらいにビッチリ浸水してるはずだ。
ありゃ、もう船じゃねぇ。巨大な残骸だ。
しかし、あれだけの戦力がなす術も無く一瞬で壊滅だなんて……
あいつ等……化け物か?
その時、相棒が真っ青な顔で震えながら呟いた。
「た……戦わなくて、良かった……」
確かに、ちげぇねぇ。あんなのを敵に回したら、命が幾つあっても足りねぇよ。
本気でおっかねぇ……これが本当の恐怖って奴なのかも知れねぇな。
俺の足が、さっきから勝手に震えて止まりゃしねぇぜ。
安……お前の見る目はマジで狂いがねぇ。本当にスゲェ奴等を見つけたもんだな……