第二百二十一節 満員だね~……
私達が船に戻ると、キャビンの中が子供で溢れかえっている。
連れてきた子供は、全部で12人。
まぁキャビンはかなり広いのでまだ余裕はあるのだが、
それでもこう突然にワラワラ現れたら誰もが唖然とするものだ。
皆も当然ながら驚いている。
その光景を見ながら、加瀬朗さんが呆れ顔で言った。
「それにしても、スゲェな~……どうすんだ? それ」
「そうですね……やはり、元居た場所に帰すのが一番だと思います」
「だよな~……だがよ~。これからじゃ、時間的に無理だぜ?」
外に指を向けているので、おもわず私も視線を向ける。
なるほど、確かにもうだいぶ日が落ちて来ているしな~。
視界の利かない暗い中で、慣れない島の浅瀬を航行するのは危なすぎる。
見えない岩で座礁でもしたら、たまったものではない。
加瀬朗さんは、大きく溜め息をつきながら続けた。
「まぁ今日は、ここで何とかするしかねぇだろうな~。ベッドが足りるか解らねぇが、何とか上手い事やってくれや。おい、昏衣斗! メシも足りねぇんじゃねぇか?」
奥へ声を掛けると、昏衣斗さんがキッチンからヒョコっと顔を出す。
「まだ大丈夫っす! とりあえず帰りの分まで買い込んであるので、それ使っときますよ!」
「おう! まぁ、そっちも上手くやってくれや!」
「色々と、すみません」
私が頭を下げると、加瀬朗さんは笑みを浮かべた。
「本当に、兄ちゃんの周りは厄介事が多いな~。ココまで来ると、さすがに笑っちまうぜ」
そんな言葉に、私も笑みを浮かべて続けた。
「えぇ、本当に……守護神は神の加護があるとか言ってましたが、全く逆に思えて来ますよ」
それに加瀬朗さんは、思い切り噴出した。
「まったくだ! はっはっは!」
とりあえず今日は皆ココで過ごすとなると、それなりのルールが必要だ。
皆の手が空いた頃に、キャビンに集まってもらった。
子供達を整列させて、ビーチ・サンダルを横に立たせる。
私は両手を後ろに回して、これ見よがしに胸を張ってみた。
ふと横に視線を移して言った。
「では、通訳を頼む」
それに、ビーチ・サンダルは静かに頷いた。
私は、また子供達へ視線を移す。
「今日、君達が泊まるのはこの船の中だ」
ビーチ・サンダルを見ると、ほぼ同時に通訳をしてくれているようだ。
子供達も頷いている。
これなら大丈夫そうだ。
「君達がどういう暮らしをしてきたか知らないが、ここにはここのルールがある。まず、全ての決定を下す我等のリーダーは、あちらにいる加瀬朗さんだ! 一同、礼!」
子供達は加瀬朗さんに向かい、素直に頭を下げる。
「そして、あちらの採光さんが船の管理を。そして昏衣斗さんは食事の用意をしてくれる。一同、礼!」
子供達は、綺麗に頭を下げる。
「そして我々は、戦闘員だ! 一同、礼!」
「ちょっと、戦闘員って何よ!」
突然に怒った遥子に、私は視線を向ける。
「ん? 紹介が面倒だったのでな。まぁ、良いではないか」
それに、遥子はプイっと顔を背けた。
「我々のルールに従わない者には、それは恐ろしいペナルティがあると思うがイイ! 特に、そこにおられる遥子様の言う事は良く聞くように!」
「ちょっと! 変な事吹き込まないでよ!」
慌てる遥子の様子に、皆は笑みを浮かべていた。
「特に、君達に守ってもらう重要な事柄が1つある!」
人差し指を立てた私を、子供達は凝視する。
「勝手に、このキャビンから出ない事! 以上!」
「はぁ? そんだけ?」
キョトンとした表情で見ている遥子に言った。
「それだけ守れれば十分だろう?」
「だったら、この大袈裟な雰囲気は何だったのよ……」
呆れる遥子に、私は胸を張った状態のまま答えた。
「うむ! ちょっと、やってみたかっただけだ!」
「もう! ホントにバカなんだから!」
そんなやり取りに、巻き起こった皆の笑い声がキャビンに響いていた。