第二百十九節 そうなのね~……その2
「出来ました!」
ビーチ・サンダルは、満面の笑みを浮かべて顔を上げる。
この辺りは、子供なんだな……
そして書きあがった物を見て、おもわず笑った。
これって、本当に図面並みの仕上がりだろう。
この位置感覚は大したものだ。
まず建物全体を示す線が書かれていて、その中に詳しく通路が書かれている。
行った事の無いであろう場所は、さすがに何も書かれておらず空白になっているが
一階から地下までの道筋は見事に書き記されている。
これなら、まず迷う事は無い。
ストレートに救出が出来るだろう。
しかしだ……
ここまでの地図があるならば、もしや……
私は、遥子に聞いてみた。
「なぁ? 瞬間移動ってさ、行った事が無い場所はダメなんだっけ?」
「基本的には、そうね。だけどあの人の説明だと、行った事があるってよりも解っている場所って感じだったわ。山とかの高い場所にあるのを知らないで移動したら、生き埋めになっちゃうみたいな事を言ってたし」
なるほど。
「だとすると、この図を元に、瞬間移動が出来るって事か?」
私が地図を指差すと、それを見ながら少し考えて続けた。
「う~ん、そうね~。やった事無いけど、これだけ詳しく書かれていれば出来るとは思う。でも、まだ一回も使ったこと無いし確実とは言えないわ。せめて、建物の外見だけは見ておきたい所よね~。それと、もしやるならどこかで一度は実験しておきたいし」
確かに……
「ならば、まずは実験してみるか。そうだな……まずは、どこがイイかな……」
私が悩んでいると、ふと遥子が言った。
「勇太が行って来たって所は?」
ほう……それは良いな。
「なるほど。では、今地図を書くよ」
地図を書きながら、私は考えを巡らす。
良く女性は地図を3Dに置き換えるような空間認識は苦手だと言われているが、
私が知る限り遥子はそんな感じに思えない。
少しだけゲームをプレイしている所を見た事があるが、横に出ている小さな地図を目安に
何も迷うこと無くイベントを進めていた。
まぁ見慣れているという事もあるので、ここは極力ゲームに近い書き方をした方が
良いかもしれないな。
部位鉢猿人教団までの地図と、
建物の構造図をかなり詳しく書き上げて遥子に見せる。
だが、雰囲気だけはRPGゲームのノリだ。
その時、遥子が地図を覗き込んで呆れたような笑みを浮かべた。
「あのね~、ゲームじゃないんだからさ~……まぁ、見易いけど……」
そんな遥子に、私も笑みを浮かべて続ける。
「こんな感じになってるんだ。行き先は地下のココ。どうだ?」
私が指差すと、真剣な表情で地図を見て何度か頷いた。
「うん、解った。やってみましょう」
私と遥子が、皆から少し離れて立つ。
「それじゃ、行くわよ」
それに頷くと、遥子は静かに呪文を唱え始めた。
おや、これは恒例の踊りが無いのか……
やがて遥子から光が溢れてくると、何かスピーカーがハウリングを起したような
高周波音が聞こえてくる。
そして、その光が溢れるように一気にキャビン全体へ広がった。
その光が収まると、辺りは暗い……
それに目を慣らしていると、前の方から声が聞こえてきた。
「これで大丈夫かの?」
「はい、コレだけ丈夫に鍵を付けたのです。もう誰も入れません」
おぉ、あの声は半熟王と金さんじゃないか。
半熟王は続けた。
「誰も入れないとなると、ワシ等の食事はどうなるのじゃ?」
そこでメシの心配かよ……
呆れる私とは違って、金さんは真面目に答えた。
「ご心配には及びません。合言葉を決めてあります故、その時だけ鍵を空けます」
「うむ、それなら安心じゃな」
ようやく目が慣れて来た頃に、鍵に納得した三人がこちらに来た。
私達に気が付いた半熟王達が、目を丸くして固まった。
「あの……どうなされました? それと、そちらの方は?」
半熟王の問いに、私は素直に答える。
「すまないね、ちょっとした実験だ。驚かせてしまって申し訳ない。彼女は、一緒に旅をしている笈掛遥子だ」
遥子が頭を下げると、それを制止するように手を出して続けた。
「いえいえ、貴方でしたら問題はありませんが……ってアレ? 金さんや、鍵は閉めたと言っておらなかったか?」
「はい、シッカリと閉まっております」
「では、何故にこの方達が中におるのだ?」
「さぁ……」
首を傾げる金さんと銀さんと目を合わせてから、何か考えるように揃って宙を見た。
「え~と……鍵は閉まっていて? 中に居る……え~! 何で~!」
三人は、扉の方と私達を交互に見て口をパクパクさせている。
「金さん、銀さん……ワシは何か幻覚を見ておるのか?」
「いえ……我等にも見えます故、たぶん現実かと……」
まぁ、理解は出来ないだろうな~……
だが、仕方が無い。
「鍵を付けた事は良いと思う。私達は、すぐにおいとまするよ。まぁ、いきなりココに現れたのは、作戦の一環だ。気にしないでくれ」
「はぁ……そう言われるのでしたら……って、え~!」
驚く半熟王はそのままにして、遥子を見る。
「ひとまずは成功のようだな。じゃ行くか」
「そうね。えっと……皆さん、おじゃましました~」
遥子が明るく笑顔を振り撒くと、それまでの混乱がピタっと止まる。
「あ……いえ……」
三人は顔を赤らめて緊張している様子なので、このまま放置だな……
そして私達は、また真っ白い光に包まれて行った。